二次災害のリスクは少なめに
第118話 穴を塞ぐのは応急処置だけど
「では、我々は向かうのでな」
「了解です」
ケイさんが合流し、これからどう動くかの話し合いをした。
地震で崩壊したスレーデンの遺跡だけど、フェリア様が北の里長から聞いた話だと、山の斜面が崩れて、そこから魔物が出て来たそうだ。幸い早くに気がついたので、全員でこの里まで逃げて来たとのこと。
で、その場所にケイさんとフェリア様に行ってもらう。空から。
まずは場所を確認し、そこにもう魔物がいないようなら何とかして塞ぐために、私たちが転移するって手はず。
昨日のうちに転移先の魔法付与をルルとディーの腕輪にも施したので、ルルの腕輪を持って行ってもらう。
場所が確認できて、転移しても問題ないなら、私の腕輪に何か適当なものを転送してもらうことでオッケーの合図とした。ダメそうなら、そのまま帰ってくるという感じ。
「じゃ、私たちはディーの部屋で待ちましょ」
「「「了解!(ワフッ)」」」
西側の守りは里長の息子兄弟に任せる形になった。
北の里から逃げて来た人たちも戦力として加わったし、そもそも、私たちがいないと守れないってわけにも行かないしね。
前回来てから一月も経ってないので、特に埃もなく綺麗な室内。で、いつでもここに帰れるように転送先を確保しておくことにする。
《構築》《空間》《測位》
部屋に入ったすぐの場所、私たちが並べるスペースがあるところで測位しておく。
ディー以外はこの部屋に入らないから大丈夫……かな?
「この部屋はディー以外は入らないよね?」
「ああ、そうだな」
「ディーのお母さんが荷物置いたりしない?」
こう「久々に実家に戻ったら自分の部屋が物置になってました」みたいなことがあると、転移先として機能しなくなってしまう。
「ないとは言い切れないが……。一応、父上と母上には伝えておこう」
この一角じゃなければ全然いいんだけどね。
ここの里長には一応、私たちが急に現れるかもしれないことは伝えてある。説明するのが大変かなと思ったが、ディーとクロスケが一緒にいれば勝手に里に出入りしていいとのこと。
まあまあ、二人のお陰ってことで納得かな?
「じゃ、ちょっと試すよ」
《構築》《空間》《転送:A56695A1-82A1-4398-867C-EF49FB488382》
手に持っていた
「ワフッ!」
落ちてくる
今のところの使いそうな転移先としては、ラシャード東の山中にあるロゼお姉様のお屋敷、ラシャード南の港町リーシェンの灯台、そしてここエルフの里のディーの部屋の三箇所。
やっぱり、ノティアの森の館でも測位しておきたいなあ。いろいろと落ち着いたらエリカの所に顔出さないといけないし、そのタイミングで戻るかな。
「じゃ、ケイさんたちから合図が来るまでお茶でもしよ?」
「そうだな。母上から豆茶をもらってこよう」
ケイさんとフェリア様から合図が来るのはしばらく後だろうし、ちょっとその辺りをみんなで話し合っておかないとね。
………
……
…
「あ、来たかな」
とりあえず「落ち着いたら、おにぎりを食べ直す」ことで全会一致したところで、私の腕輪が淡く光り……
「グリーンベリーだ!」
転送されて来たそれをルルが一粒口に入れる。
すっぱ甘いそれを転送して来たことに何か意味でもあるのかな? しゃっきりしてから来い的な。
「じゃ、行くよー」
皆にできるだけ近くに寄ってもらう。
少しでも全体での体積を小さくする方が魔素がお得だから。
《起動》《転移:ルル》
毎回、GUIDを詠唱するのはだるいので定数化しました……
***
室内から外に転移すると「移動した!」って感じがすごい。
見回すと森と山肌の間っぽい感じで、正面にはケイさんが岩に腰かけ、そのケイさんの肩にフェリア様が腰かけている。
「ルル、腕輪を忘れないように」
「うん!」
ケイさんが持って行ってた腕輪は転移してきた地面に置かれている。ルルがそれを拾って左腕に嵌め直した。
ディーは森の方へ足を運んで……精霊に何か聞いてるんだろうか?
「お待たせしました」
「送ったグリーンベリーを食ってからで良かったのだぞ?」
「あれがすごくすっぱくて甘いのは知ってますから」
そう答えると露骨につまらんという顔をするフェリア様。子供か。
ケイさんが苦笑いしつつ立ち上げると、
「こっちだ」
と先導してくれる。
少し山肌沿いに歩いた先には……
「うわぁ……」
ぽっかりと開いている穴の広さは、昨夜のウルク三体分ぐらいある。
斜め下に向かって崩れた岩肌の残骸?で道ができているようで、これを伝って登って来たってことなのかな。
「こんな綺麗に穴が開くものなんですかね?」
「
フェリア様も同意見なのか。
これって、こう崩れるように細工されてたって感じがするんだよね……
「誰がっていうのは愚問ですよね」
「そうだな。だが、最近の意図ではないやも知れん。ずっとずっと前の仕掛けが残っておったのかもな」
黒神教徒の悪さだろうという意見は一致したが、それを仕込んだのはずっと前かもってことか。
都市に被害を与えるほどの地震を意図的に起こせるわけでもないもんね。それができるくらいなら、既にやってるはずだし。
ケイさんの話では、リュケリオンの方にもゴブリンやオーガといった魔物が流れたそうだけど、マルセルさんとケイさん、ロゼお姉様で対処できたと聞いてる。良かった良かった……
「あれ? 私たちが最下層で見たアンデッドは確認されてないんです?」
「うむ。ゾンビやドラゴンゾンビは確認されておらん。途中の階で通路が塞がってしまったと見るべきであろう」
「うーん、ちょっとスッキリしないけど、しょうがないか……」
まさか今からここを降りて確認しようってわけじゃないよね。余震が来てペシャンコとか洒落にならないし。
「じゃ、ここは塞ぐでいいんですよね? どうやって塞ぎます?」
「うむ、それなのだがな。あそこを見てみよ」
フェリア様がケイさんの肩から飛び立ち、私の右肩に止まると右上の方を指す。
その先にはかなり大きい一枚岩が……
「あー、確かにあれで蓋をすれば壊されることもないですね」
「問題は方法じゃな。
そう言われて考え込む。
一枚岩なのは確かだが、見えている部分がその大きさ全てというわけでもなさそう。
転送……は転送先に障害物があるとダメだったから、無重力にして運ぶのがいいかな。
でも、万一を考えると、下から持ち上げるとかは怖すぎる……
「
「案は良いが、あの一枚岩全体を引っ張るとなると、かなりの魔素を使うのではないか?」
「ゆっくりやれば回復が早いので大丈夫かと」
「ふむ。なら良いが、油断せぬようにな」
フェリア様の注意もごもっとも。
あのサイズの大岩の重さを消すとしても、それが途中で切れたりしたら……だもんね。
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