第117話 根本原因にたどり着くには?

「やったか!?」


 ディーのフラグを立てる癖を直したい。とてもとても直したい。

 だが、そのフラグが立つ前に、


「周囲の警戒を緩めるな!」


 と兄の号令が飛ぶ。素晴らしい。

 弓隊はあたりに目を凝らし、弟率いる近接部隊は私たちを守るように警戒の輪を作ってくれた。


「ミシャ! 大丈夫?」


「うん、平気。今日は月も綺麗だしね」


 明月が輝き、ローブと長杖ロッドのおかげで私の魔素は程なく満タンに。

 うん、私なんかよりも装備がチートだね、これ。


「ワフッ!」


「クロスケ! カッコ良かったよ! あっ、怪我した子はいない?」


 尻尾ふりふりで駆けて来たクロスケだけど、呼んだお仲間の子、さっき弾き飛ばされてたし。

 そう尋ねると、二匹のブラックウルフが呼ばれたようにやって来た。どちらも足を怪我したのか、歩き方がぎこちない。


「ん、治すから横になってねー」


 私はサイドポーチからポーションを取り出すと、一つを半分に分けて、それぞれ怪我した足に掛けてあげる。

 一瞬、淡い光が患部を包み、すうっと消えると二匹ともすくっと立ち上がり、確かめるようにくるくると私の周りをまわった。どうやら治ったみたい。


「ワフッ!」


 クロスケの一声で二匹がクロスケの両脇に伏せる。

 こらこら、そういう体育会系みたいなことはしちゃいけません。


「クロスケ、この子たちに何かあげた方がいい?」


「ワフー」


 その問いに、クロスケはブラックウルフたちに向き直って何か言ったようだ。

 と、一匹のオークの死体が二匹のブラックウルフに引きずられてくる。これはもしかしなくても……


「それは俺がやろう。二人は休んでてくれ」


 弟が声をかけてくれる。うん、解体するんですよね。知ってた。

 まあ、この世界のオークはどっちかというと直立した猪の方に近いし、そんなに忌避感はないけど、だからと言ってじっくり観察する趣味もない。


「もう一度、斥候を出しました。ひょっとしたら、また敵が来るかもしれません。お二人は休める時に休んでください」


「うん、ありがと!」


「ルル、ミシャ、こっちだ」


 私が答えるまでもなく、ルルがそう返事をする。

 樹上から降りたディーが手招きしていて、その近くには座れるように丸太が横倒しにしてあった。

 その近くには石かまどが作られ、鍋がかけられているので、また美味しいグレイディアのスープをいただけそう。


「クロスケ、ご飯もいいけど注意は怠らないようにお願いね」


「ワフン!」


 その頼もしい返事を聞き、私たちはディーの元へと。

 シルキー(姉)が持たせてくれたお弁当、おにぎりを食べよう!


***


 エルフさんたちは夜通しの警備。私、ルル、クロスケは客人扱いなので、夜警に駆り出されることもなく、眠くなったところで、近くの家に泊めてもらった。


「ミシャ、朝だよ?」


「あ、うーん……。うん、あれからは何もなかったの?」


 眠気はあるが、状況が目を覚まさせてくれる。

 叩き起こされたわけでもないなら、何事もなかったんだと思う。多分。


「うん、何もなかったって」


 いつでも駆けつけれるように、着たままで寝ちゃったけど……あれ?


「フェリア様いない! どこ行ったの!?」


「ルル、ミシャ、朝ごはんができたぞ」


 と、入って来たディーの肩にフェリア様が座っていた。

 はー、びっくりしたー。寝返りで潰したのかと思った……


「どうしたのだ、ミシャ。まさか寝てるうちに我を潰したとでも思うたか?」


「……もう隠れなくていいんですか?」


「ディアナに頼んで、ここの里長と北の里長と話をしておったのだ。今回の件、スレーデンの遺跡が崩落し、魔物が押し寄せた原因はリュケリオンにあるのでな」


 なんと律儀なことを。だいたい、スレーデンの遺跡が崩落したのは地震のせいだと思うんだけど。


「まあ、里長たちもリュケリオンのせいだという話にはならなかったがな」


 ディーがフォローを入れてくれたのかな。

 私たちがウルクを倒したことでケジメは付けたと思ってもらえるといいんだけど。


「ミシャ、お腹すいた!」


「ん、そうだね。朝ごはんにしましょ」


 朝の二の鐘が鳴る前ぐらいかな?

 家を出ると、炊き出しの良い匂いが漂って来て食欲が溢れる。

 ざっと見回した感じだと、樹上で警戒しているエルフが数名、作り直したっぽいバリケード裏で歩哨をしているエルフもいる。

 あれ? ブラックウルフたちが見えないけど、もう帰っちゃったの?


「ワフッ!」


「あ、クロスケおはよ。ブラックウルフたちはどうしたの? 帰ったの?」


「ワフ」


 そう吠えて頷くクロスケ。ふむ、オーク肉渡すだけで良かったのかな?


「彼らにも家族がいますので。解体したオーク肉を持ち帰りましたよ」


 村長の息子、兄の方がやって来てそう答えてくれた。

 彼らもちょっとした出稼ぎに来た感じなのかな。とはいえ、遠吠えでそんな呼び出しができるクロスケってどうなのって感じなんだけど。


「それで、こちらをお受け取りください」


「え、何これ?」


「オークたちの魔石です。解体すると出てくるので。洗っておきましたが、気になるようなら清浄の魔法をかけてもらえると」


 渡された麻袋にはウルクの大きな魔石と、オークのちょっと大き目のビー玉ぐらいの魔石が入っている。

 これ全部もらって良いものなの? と思ったが、彼らが持っててもしょうがないものなのも確かだ。換金して塩なり日用品に変えて渡した方がいいだろう。


「ありがとう。落ち着いたらまた来ますから、欲しいものがあればディ…アナに伝えておいてください」


「それは助かります」


 とニッコリの兄。まあ、そこまで考えて全部渡してくれたんだろうしね。


「それで北の里の人たちはどうするんでしょう? 私たち、様子を見て来ましょうか?」


「それだがな、ミシャ。北の里長に崩落で開いた穴の場所は聞いておる。まずはそこを埋めるのが先であろう」


 うーん、確かにそうなんだけど、そこまでどうやって行くかなんだよね。

 急いだとしても一日は絶対にかかると思うんだよねー……


「行かないの?」


「行かなきゃだけど、時間がかかるなって。多分、また真ん中で一泊しないとだろうけど、今度は誰もいないよ?」


「確かにそうだな。いったんゲーティアに戻って、ベルグの戦力を借りるか?」


 うーん、それもちょっと……と考え込んでいる私たちに声が掛かった。上空から。


「ルル! ミシャ! ディアナ! 無事なようだな!」


「「「ケイさん!」」」

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