第115話 インスタンスを増やして対応

 敵の来襲に村長の息子兄弟が慌てて戻る。

 私たちも手伝えることがあればっていう感じだけど……あの樹々のバリケードを超えられた奴は始末した方がいい感じかな?


「私は弓隊に混ざってくる」


「うん、頑張って!」


 ディーが弓隊がいる大きな樹の方へと向かった。

 西側の先を見下ろせる位置からの射撃なら、近づいてくる敵に矢の雨を降らせることができるだろう。


「うーん、私の魔法ってこういう時どれも中途半端だよね……」


「何を言うておる。こういう場所では、低い土壁を不規則に並べるのだ」


 フードからひょっこりと顔を出したフェリア様からアイデア出しされる。

 なるほど、足元に凸凹を作っておくだけで、進撃速度が落ちて弓隊のフォローにもなる。


「なんだか戦い慣れてますね」


「我を褒めても意味はないぞ。リュケリオンの受け売りなのでな」


 ああ、土の賢者リュケリオン様か。

 百戦錬磨の宮廷魔術士ともなれば、集団戦闘での土壁の活かし方も色々と戦術に組み込んでたんだろうなあ。

 戦史みたいなものがあるなら読んでみたいところだけど……


「ミシャ! 行くよ!」


「う、うん!」


 出入り口付近、バリケードの裏で近接武器を持った隊をまとめているのは弟の方。

 兄の方は少し後ろで指揮官って感じかな。弓隊との連携は彼が指示を出すんだろう。

 その兄がこちらを向いて、


「お二人は自由に動いてもらって構いません」


「わかった!」


「ありがとう。私の魔法は味方を巻き込むとまずいから、相手の足止めとかに専念するね」


 命令してもらっていいんだけど、無理に合わせる動きよりも遊撃の方が扱いやすいってことかな。

 ルルがちょっと心配だけど、クロスケに付き添ってもらうとしましょ。


「ワフン」


「ん、クロスケ、どうしたの? ルルのサポートに行ってくれると嬉しいんだけど」


「ワフッ! ワフワフ!」


 ん? んんん? 何かしたいってことなのかな?

 なんか、そんな気がしてきた……


「うん、良いけど、ルルもエルフさんたちも、ちゃんと守ってあげてね?」


「ワフッ!」


 もちろんって感じのドヤ顔をされた。なんだろう。この子なりの考えがあるっぽい。

 まずは頭から否定しないで、クロスケ自身がやりたいようにさせてみたいと思う。

 それでダメそうなら、ルルのサポートに回ってもらえばいいかな。


「来る! 弓隊構え!」


 樹上で待機していたエルフたちが矢をつがえて引き絞る。


「打て!」


 風切音かざきりおんを残して放たれた矢が、篝火かがりびに照らされたオークたちを貫いていく。

 先頭を走って来た数体のオークが倒れるが、その後ろは止まりそうにない。


《起動》《土壁》


 出入り口の先にあるバリケードには、できるだけ個別に来てもらって、各個撃破が望ましい。なので、敵の足並みが揃わないよう、膝丈ぐらいの土壁を作っていく。

 こういうのって土塁とかいうんだっけ?


「調子に乗って作りすぎると、後で土をならすのに苦労するぞ」


 フードの中から「今それ言う?」ってご意見を頂いたのでほどほどに……

 まあ、弓隊がリロードする時間を少しでも稼げれば、それだけで十分価値はあるはず。


「くそっ! どれだけいやがるんだ!」


 弟がエルフに似合わない悪態を吐く。けど、私も同感。

 弓隊が確実に敵を仕留め続けているのにオークの群れは途切れない。既に十体以上のオークが倒れているが後続がどんどん現れる。

 弓隊の体力はいつまで持つ? 矢だって足りるの?


「抜けてくるよ!」


 ルルの言葉に弟が片手半剣バスタードソードを構える。

 バリケードを壊そうと取り付いたオークの喉元にその鋭い突きが刺さった。


「ふんっ!」


 そのまま剣を走らせて引き抜くと、オークは仰向けに倒れる。

 その様子を見た後続の足が止まったかと思ったら……


「ブゴオォォ!」


 森の奥からすごい雄叫びが響いた。

 一瞬、足を止めていたオークたちがそれを聞いて突進を再開する。

 向こうも司令官がいるってこと? それはちょっとまずいかも……


「ワフッ!」


 そうひと吠えしたクロスケは、しばらく私の周りをくるくる回ってからお座りし、


「ウオォォォォ〜〜〜ン!」


 と遠吠えをする。

 え、何? どういうつもりなの?

 よくわからないのは私だけじゃなくて、ルルもディーもエルフたちも、そして、なぜかオークたちも足を止めている。

 一体何が……


「オオン!」


 そう一声吠えて、クロスケが弾かれたように飛び出した。


「えっ!?」


 止めることもできずにその姿を目で追うと、バリケードを飛び越えてオークたちへと向かう。

 そして、次の瞬間、北側から現れた黒い波が、クロスケを先頭にオークたちに襲い掛かった。


「これ……何が起きてるの?」


「神獣様が従えているのはブラックウルフです。この辺りでは森の奥の方にしかいないはずなのですが、先ほどの遠吠えに答えたのかと……」


 兄の方がそう説明してくれるが、彼自身も信じられないという顔をしている。


「そんな、呼んですぐ来てくれるものなの?」


「この里に来たときにも遠吠えしてたから、アレで呼んだのかな?」


 ルルがそう教えてくれる。

 つまり、この里に来たときに集合をかけておいて、今さっき号令を出したってこと?

 というか、それでブラックウルフを? 従えれるものなの?


「神獣様の背後を取らせるな!」


 ディーがそう叫び、弓隊は慌ててクロスケたちを追おうとするオークを射抜いていく。

 まあ、あのスピードだと追いつけるものではないと思うけど、好機なのは確かだ。


 完全に横あいから騎馬隊に突き崩された形になったオークたち。指揮官?の号令で持ち直したメンタルも一気に粉砕された模様。

 何がすごいかって、クロスケとブラックウルフたち、一撃離脱で確実にオークの足を攻撃していく点。黒い波が通り過ぎると、そこには膝をつくしかなくなったオークだけが残される。


「ねえ、エルフってブラックウルフと敵対してたりしないよね?」


「ええ、むしろ良好ですよ。狩りの最中に出会でくわした場合は、その場で連携を取ったりできるほど賢いので。もちろん、狩りの成果を分け合うことが前提ですが」


 なるほど。お互いの利益をちゃんと計算して行動できるってことなのね。

 じゃ、戦いが終わったら、彼らにもちゃんとお礼をしないといけないかな?


「ふっ、勝ったな」


 樹上のディーがそんなことを言ったので、多分、フラグだと思う……

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