第114話 作業中のおしゃべりはフラグの元
【MainThread】
「ミシャ様、これをゲーティアの衛兵、できれば警備隊長にお渡しください」
シェリーさんが出発しようと立ち上がった私にくるりと丸められた羊皮紙を渡してくれる。
多分、これは……
「僕の名でゲーティアの国境門の臨時開放を許可する書状です。向こうの警備隊長はしっかりした人ですので、渡すだけで問題ありませんよ」
と笑顔で説明してくれるマルス皇太子。いつの間に作ったのかわからなかったけど、すっごく助かります!
「で、どうやって行くんだ?」
エリカは帰る方法にご執心の模様なので、さっさと帰りましょうか。
「まあ、見てて」
私はフェリア様を乗せたまま、放り出していた
落ちていた
《起動》《飛行》
フェリア様を包んだ魔素結界は起動したままだったので再構築は不要。というか解除するの忘れてたけど魔素は問題なさそう。
すっと
「それじゃ、行ってきます!」
「ミシャ! ルルもディーもクロスケも連れて帰って来いよ!」
「うん、落ち着いたら必ず帰ってくるから!」
そう答え、私は新婚さんのお屋敷を後にした。
***
流石にゲーティアの人たちに飛んでるところを見られまくるのもまずいので、人気のないところに着陸して国境門へとダッシュ。
えーっと、一番偉そうな人は誰かなー? と、優しそうなおじさんと目があった。
「もしや、ミシャ殿ですかな?」
「は、はいっ!」
なんだか授業をサボってたら校長先生に見つかったような気分。
いざという時のフェリア様頼みと思ったが、エリカたちに今回の件を伝えてお仕事終了モードなのか、フードの中で仮眠してるっぽい……
「ルルお嬢様から話は伺っております。国境門の警備隊長でゼノンと申します」
「あ、良かった! これ、マルス皇太子様からです」
預かっていた書状というか命令書? まあ、そんな感じのを渡す。
おじさんはそれを受け取って開き、大きく頷くとニッコリと笑った。
「助かりました。ルルお嬢様の判断が正しいとはいえ、国から叱られるようなことになったら、ワーゼル殿に何を言われるか」
どうやらルルのお爺ちゃんと知り合いっぽい。それで皇太子様も安心だったのかな。
と、それはともかく。
「で、ルルたちはもう行きました?」
「はい。エルフの里へと向かわれました。まさか……ミシャ殿は追いかけるつもりで?」
「ええ、里で合流する約束なので。あ、大丈夫ですよ。私、こう見えて、森の賢者ロゼ様の妹なんで!」
そう伝えて離脱! 下手に躊躇すると止められるので、さっさと人混みに紛れ、着陸した人気のない場所に戻ってくる。
「フェリア様、行きますよ?」
「ん? ああ、良きにはからえ……」
……
《起動》《飛行》
一気に垂直離陸したところで足音が!
あ、ゼノンさんだ。追いかけて来てたのね。めっちゃ見られてるけど、まあいいや。
手だけ振っておこう。うん、戻って来たら謝ります……
***
時間はすでに昼の六の鐘が鳴った後、空に上がると夕日は見えるが下はもう暗いだろう。
ましてや、エルフの里は山脈に挟まれた街道から外れた森の中だ。
しばらく街道上空を道なりに進むと、見覚えがある地形に遭遇する。多分、この辺から北に進むんだったかな……
少し速度を落として、北へと進路を変更。
エルフの里に明かりがあればそれを見つければいいんだけど……
「ふむ、スッキリしたぞ。で、
ローブの中で伸びをしたフェリア様がそんなことを聞いてくる。
確かに下は鬱蒼とした樹々が暗く見えるだけで、ここから探すのは不可能な気がしてきた……
「確かこの辺だったと思うんですけど」
「おいおい、大丈夫なのか?」
もう少し高度をとって俯瞰した方がいいのかな?
そう思い、少しずつ高度を上げていくと……
「ん? あれかな?」
北西の方に明かりが見えたので、そちらに向かって下降していく。
レッドアーマーベアを討伐した夜に里にある広場で宴会になったが、まさにその場所に多くのエルフが集まっているのが見えた。
「我は説明が面倒なのでローブに篭っておるが、今度はゆっくり降りるのだぞ?」
「はいはい」
ちぇ、まあ、エルフさんたちを驚かせるわけにも行かないし、普通に降りましょ。
広場の真ん中に焚き火があり、それをエルフさんたちが囲んでいるのだけど……怪我の手当てをされてる人なんかもいて……これはもう一戦あったの? ルルたちは大丈夫なの?
あ、里長発見!
「すいません。おじゃまします!」
私が村長の前に降り立つと、近くにいる人たちも含めて呆然としている。
あー、うん、それはとりあえずいいとして。
「ディー…アナとルルは来てませんか?」
「あ、え、ええ、来てますよ。西側の防衛に行ってもらっています」
「ありがとうございます。私も手伝いに行きますね!」
そう言い残してダッシュ! なんでとかどうやってとか聞かれるとめんどくさいし!
おっと、そろそろ、フェリア様への魔素結界を解いておこう。
「魔素結界、解きましたよ」
「ふむ、しかし、今日が満月に近くて良かったな」
確かに。焚き火がある広場を後にして西に向かっているが、南東にあるほぼ満月な二つの月のお陰で転ばずに済みそう。
っていうか、
「あ、明月が見えてきてたから調子良かったのか!」
「今ごろ気づくのだな」
呆れられてる気がするがスルー。
進む先に明かりが見えてきた。
あ、いた!
「ルル! ディー! クロスケ!」
「「「ミシャ!(ワフッ!)」」
ほっと一安心しつつ、ルルのダイビングハグをキャッチしてくるっと回転。
駆け寄る皆の後ろに、見知ったエルフが二人。里長の息子さんたちだ。
「状況はどうです?」
「はい。北にある里から来た避難民は全て無事に受け入れました。数匹のオークが追って来たのは対処済みです」
「良かった」
兄の方が答えてくれる。
まあ、この二人は強いし。けど、物量で来られるとキツいと思うんだよね。
「だが、避難した者たちの話では、かなりの数のオークが来たそうだ。向こうの里を荒らし尽くしたら、こちらにくる可能性が高い」
弟がさっそくフラグを立ててくる。てか「エルフの里にオークの群れが!」とかやめて欲しいんだけど?
「斥候から合図だ! オークたちが来るぞ!」
うん、脳内でもフラグを立てるのをやめよう……
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