第112話 上司の仕事は頭を下げること

【MainThread】


 エアロ・ダブルウィングとは某700系のノーズ部分のことである。(情報は転生時点のものです)

 すっぽりと魔素膜のエアロ・ダブルウイングに包まれた私とフェリア様は、時速百キロオーバーの速度で王都ベルグへと飛行中。

 ざっくり計算では三十分ちょいで王都まで行けるはず。多分これが一番早いと思います。

 いや、転移できればそっちの方が早いか……


其方そなた! 無茶苦茶だな!」


 フェリア様が耳元でうるさい。

 まあ、スピード出すとどうしても風切音かざきりおんがね。

 あ、もうしばらくは加速する必要ないし……というか無重力で加速し続けるとヤバいし、減速でスラスターを逆噴射するまでは手空きなんだし。


《構築》《結界》《遮音結界》


「なるほど。外からの音も消えるんだ。静音よりも使い勝手いいですね」


「……其方そなた、無茶苦茶だな」


「大事なことなので二回言いました?」


「何を言うておる。それより、王都についてからどうするのだ?」


 うん、それね。飛びながら考えるつもりだったんだったよね。

 さて、どうするかなー……


「何も考えておらなんだな?」


「ヤダナー、カンガエテマシタヨー」


 普通に考えれば、ルルのお父さんに会って、そこから急を通してもらう方法かな? 時間的にももう帰宅してるだろうとは思う。

 ただ、それだと時間がかかりそうなんだよねー……

 多少無理筋だけど、エリカの館に直接行った方が早い気がする。結婚したら二人であそこに住むとか聞いたし。

 けど、不法侵入で捕まりそうなんだよなー……


「はぁ……多少は無理を通しても構わぬ。我が全て被ってやるのでな」


「さっすがー」


其方そなた……ロゼの悪いところばかり似おって……」


 だって弟子だし妹だし。

 そこは『ミシャだからしょうがない』でお願いします。


***


「王城が見えてきたので減速しますよ」


 私は返事を待たずにエアロ・ダブルウィングの先端から逆噴射をかけて減速する。

 急に減速すると危ないのでじわじわと、加えて、少しずつ時計回りに旋回する。


「なぜ其方そなたはこうも飛ぶのが上手いのだ? まるで飛んだことがあるような動きではないか」


「あー、元いた世界では飛んでたんです」


 まあ、フライトシムとかでですけどね。

 というわけで、着陸できる場所としてはエリカの屋敷の中庭なんだけど、誰かいないかな?

 ん? あれは……


「フェリア様、しっかり捕まっててくださいね」


「ん? ああ……あああああ!!」


 目標を見つけた爆撃機のように、私は上空から捻り落ち、すっと爆弾を落と……さずに地上と並行な姿勢に戻って停止した。


「シェリーさん!」


「ひっ!」


 急に後ろから呼び掛けられた彼女が聞いたことのない可愛らしい悲鳴をあげる。

 鎧姿に刃引きした剣を持っているのは自主練中だったのかな。ごめんなさい。

 でも、人違いじゃなくてよかったよ。


「ミシャ様ですか!?」


「うん、ごめんね。急ぎの用でエリカに会いたいんだけど」


「え、あ、はい、その……」


 いや、うん、酷い訪問の仕方をしたのはわかってます。

 というわけで、手に持った長杖ロッドと腰の短杖ワンドを置いて土下座。


「す、すまんの。ここでの無礼は全て我の責任ということで許してくれ」


 どうやら急降下から立ち直ったフェリア様がフードから現れてフォローしてくれる。

 って、誰なのか説明しないと。


「あ、この妖精さんは花の賢者フェリア様。リュケリオンの一番偉い人だから、一応」


「一応は余計だ!」


「す、すぐにお伝えしてきます! 東屋でお待ちください!」


 練習用の剣を放り出して駆けていくシェリーさん。

 うーん、これは戻るまで正座してた方がいいかな……


***


「ミシャ!」


 エリカが来るのは一瞬だった。

 ってか、もう少し用心した方が良くない? もう皇太子妃なんですよ、あなた。

 あと、もう少し女の子っぽい格好の方が……


「おい、どうした? 何があった!?」


「あ、ごめん。今日の昼過ぎに地震あったよね?」


「ああ、かなりデカい地震だったな」


「あれでリュケリオンの街がかなり被害にあってね。それとスレーデンの遺跡っていうダンジョンが崩落したらしいの」


 そこまで言ったところで、私の肩に腰掛けてたフェリア様が続ける。


「お初にお目にかかる、エリカ皇太子妃。我はリュケリオンの最高責任者の一人、花の賢者フェリア。その崩落にてベルグとの街道に魔物が溢れる可能性があって伝えにきたのだ」


「なっ! おい、シェリー! マルスを呼んでこい!」


「はいっ!」


 また駆け出すシェリーさん。ホントごめんなさい。

 それを見送ったエリカは、


「お前はホントおもしれーな。いいから東屋の方へ行こうぜ」


「ありがと。正直、足痛くなってきてた」


 結婚しても全然変わってなくて、いや、変わらないとは思ってたけどほっとするね。


***


「なるほど、そんなことになっていましたか。伝えてくださり、ありがとうございます」


「いや、これはリュケリオンの不手際であろう。スレーデンを放置しておった件も含めての」


 フェリア様とマルス皇太子というトップ会談が開かれていて、私はただの椅子状態。

 マルス皇太子の隣にはエリカ。後ろには二名の護衛として近衛騎士が立っている。シェリーさんもエリカ付きということで控えてくれている。


「ルルたちがゲーティアでその説明をしてくれてんのか?」


「うん、ごめんね。勝手なことしちゃって」


「いえ、助かります。ルル嬢であれば身分としても問題ありません」


 それを聞いてほっとする。

 この対応に関しては、ルルから言い出したこととはいえ、国から咎められる可能性があったから。


「明日にでも正式な増援を送るか?」


「そうだね。流石にずっとルル嬢に任せてはおけないね」


 と熱々ぶりを見せてくれるお二人さん。


「かたじけない。街道の安全が確保された後に、改めてお礼に伺わせていただくとする」


 フェリア様が肩を降りて、テーブルの上で跪くと深々と頭を下げた。

 こういう時に躊躇なく頭下げれる上司、ホントかっこいい。


「頭をお上げください。これからもよろしくお願いします」


 マルス皇太子の笑顔が眩しい。エリカ、ホントいい男捕まえた感あるよねー。


「じゃ、戻りましょうか、フェリア様」


「おい、もう戻るのかよ。ってかどうやってだよ。そもそもどうやって来たんだよ」


 それは今から見せるのでせいぜい驚くがいいさ!

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