第110話 適材適所でまずは現状確認

「ん、着いたかな?」


 到着した先だとは思うんだけど、クロスケの明かりしかないので転移したっていう実感がない。

 ここが転移先のゲーティアだとしても、部屋の作りはほぼ同じはずだし……


「ディアナ、こっちに光の精霊を」


「はい!」


 真っ暗だと光の精霊は出せないらしいが、今はクロスケの金毛が放つ明かりを元に出せるみたい。

 その理論で行くと、クロスケには光の精霊が宿っているような気が……


「明かりをつけるわよ」


 カッと明るくなって思わず眩しさに手をかざしてしまう。

 パッと見は転送前の部屋と同じ。足元にある魔法陣もそっくりだけど、転送先が違うだけだもんね。


「ミシャ」


「はい、見て同じならすぐ開けます」


 長杖ロッドに腰掛けて飛行魔法でシャッターの上部へ飛ぶ。フェリア様もついてきてくれてた。

 巻き取り機と思われる部分の魔法陣は同じに見えるけど、一応、ちゃんと解析しておくべきかな?


「先ほどと同じで良いな」


 頷いて返す。話が早くて助かります。

 フェリア様が基幹部分に解析を掛けてくれているので、二箇所を手早く解析……

 よし、同じ!


「同じでした。開けます」


 巻き取り機の魔法陣に魔素を流し込むと、シャッター本体の重力がゼロになり、巻き取り軸が空間魔法で回転する。


 カラカラカラカラ……


 なんだか重力がないせいか音も軽い気がする。それか金属が特殊なのかな?

 最後まで巻き上げたところで状態が変化したのか魔素の流れが停止し、軸の回転が止まって、重力が復活することで、シャッターは巻かれたままの状態で安定した。


「うーん、匠の技だね」


「感心しとる場合か。開いた先に何かおるかもしれんぞ」


 フェリア様に突っ込まれて下を見ると、戦槌ウォーハンマーを構えたルル、槍を構えたケイさんが目を凝らしているようだ。


「何もいないよ! 登り坂が続いてるだけ!」


 ルルがそう言って警戒態勢を解く。

 ケイさんも油断はしてないようだが、いったん槍の構えを解いたので問題なさそう。


「部屋の明かりは消すわよ」


 光の精霊がルルたちのところまで戻ってきて、クロスケがそれを見て毛色を黒に戻した。

 ホント、この子賢いなあ(親バカ)


「よっと」


 私も地上まで戻って飛行魔法を解く。

 クロスケがすりすりしてくれ、フェリア様は私の肩へ。そこ定位置なんですかね?

 部屋全体の明かりが消えて、ロゼお姉様がこちらに来た。


「この先がゲーティアの?」


「ええ、そうね。私が開けるから、後は手はず通りでね」


 皆が頷き、私たちは登り坂を急ぎ足で進み始めた。


***


「せーのっ!」


 ロゼお姉様が大きな扉に掛かっていた魔法錠を解錠し——やっぱりあの番号鍵だった——、ルルとケイさんがそれを押し開けると、そこには見覚えのある風景が少し赤みを帯びていた。

 腕時計を見ると昼の五の鐘が鳴る前ぐらい。六の鐘が鳴るとゲーティアの大門が閉められてしまうので、その前に話をつけないと。


「な、何者だ!」


 扉を開けて進んだ私たちの前に衛兵が二人。ダンディーなおじさんと二十歳過ぎぐらいの若者。

 うん、驚くよね。ごめん。そしてご苦労様です。


「ボクはノティア伯爵ワーゼルの孫娘ルル! リュケリオンで大地震が起きて、スレーデンの遺跡が崩落したことを伝えに来たよ!」


 そう言って、ベルグ王国の紋章が刻まれたメダルを見せる。

 淡い光を放つそれが本物であることを瞬時に確認した二人が慌てて膝をついた。控えおろう……ってほどでもないと思うんだけど。


「ゲーティアでも地震はあった? どれくらいだった?」


「はっ! 昼の二の鐘が鳴る前、大きい地震がありました。幸い、建物が倒れるようなことはありませんでしたが」


 むむ、やっぱりかなり大きい地震だったっぽい。

 リュケリオンはもっとってことだから大丈夫なのかな……


「スレーデンの遺跡が崩落して、ダンジョンにいた魔物たちが溢れてくる可能性があるんだ。今、街道にいる人たちにそれを知らせないとなんだよ」


「なるほど。すぐに馬を用意し、街道へと向かわせます!」


 とダンディーな方の衛兵さん立ち上がろうとしたのを、


「待ちなさい。それは私とケイで行きます。あなたたちはまず国境門へ行って事情説明を」


「この人は森の賢者ロゼ=ローゼリア様だよ」


 衛兵さんたちが疑問符を浮かべる前にルルが説明する。ナイス。

 さすがにその名前を知らない人はいないのか、二人はますますかしこまってしまう。


「じゃ、ミシャ、フェリア、王都への連絡は任せたわよ。ケイ」


 無言で頷いたケイさんが背中の翼を広げてふわっと浮き上がり、ロゼお姉様は一瞬の光と共にフクロウへと姿を変える。

 そして、そのまま街道の方へと飛び去っていった。

 この時点ですでに衛兵さんたちはポカーン状態。わかるよ、その気持ち……けどね。


「で、この肩に座ってるのが、リュケリオンのトップ、花の賢者フェリア様」


「は? はあ……」


「突然ですまぬな。我が直接王都に説明に向かうゆえ、国境の大門は閉めぬよう頼む」


「ということで、王都までは私たちが行ってくるので、そっちへの早馬も不要です」


 私はペンダントを使ってフェリア様に魔素結界を掛ける。一緒に無重力状態になってもらうためだ。

 ホントは自力で飛んでついてきて欲しいんだけど、フェリア様、そんなに速くは飛べないらしい。

 結界の維持に魔素が消費されているが、フェリア様が小さいおかげで王都までなら持つと思う。

 ま、いざとなったらフェリア様を放り出してもいいしね!


「じゃ、ルル、後はお願いね。ディー、クロスケも頼んだよ」


「任せて!」


「了解だ」


「ワフッ!」


 頼もしい返事を聞いて、私は飛行魔法を唱えると、フェリア様はローブのフード部分に退避した。

 くそう、悠々と空の旅を満喫するつもりだな、これ……


《起動》《飛行》


 重力が消えた感覚を得て杖に腰かけると、スラスターがわりの送風で垂直離陸する。

 衛兵さんたちが、さらに呆気にとられた表情をしているが、緊急事態なので許して欲しい。


「行きます。スピード出しますから、しっかり掴まっててくださいね?」


「うむ、文句があるときは髪を引っ張るのでな」


 馬ですか、私は……

 まあいいや。了解を得たということで、異世界のエアロダイナミクスを披露しましょう。

 私は魔素膜でエアロ・ダブルウィングを作り、王都方向、南東へと加速し始めた……

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