街道防衛戦

第109話 障害対応はスピードが命

「えっ!? あっ!」


 私はとっさに腕時計をつけてる左手の手のひらを上に向ける。

 すると、そこに現れたのは……


「おお、ミシャ! すまんな急に!」


「フェリア様!?」


 ディオラさんと転送を使って連絡が取れるように、この腕時計の転送先を教えてあったんだけど、それに向かって転移してきたの?


「おっと、夕食中だったか」


 と私の手のひらに着地し、テーブルの上をぐるっと見回して……


「フェリア〜? リュケリオンをほったらかして何をしに来たのかしら〜?」


 ロゼお姉様、青筋が……


「そのリュケリオンで大地震が起きた! 街壁も壊れるほどなのだ!」


「「「ええっ!」」」


「ディオラは大丈夫なんですか!?」


 ケイさんがそう言って立ち上がる。


「ディオラは無事だ、ケイ。我の変わりに街の被害状況を整理しておる。それよりもスレーデンの遺跡が崩壊したのだ」


「え、それってかなりまずいんじゃ……」


「うむ、リュケリオンは既にスレーデンのある東側に守備兵を回しておる。

 ダンジョンから魔物が西へ溢れてリュケリオンに来るならまだ良い。北に溢れてもテランヌとヴァヌが見合うとるあたりなので、これも問題ない。

 だが、南側、ベルグへの街道へと溢れると……」


 うっ、それはかなりまずいかも。街道はまだエリカの結婚のお祝いで人も多いはず。

 その割に衛兵というか守備兵は少ないし……


「街道へは兵を出してないの?」


 ロゼお姉様の言葉にフェリア様が微妙な顔をする。


「伝令は出した。リュケリオン側に近い方まで来ておれば、急いでリュケリオンに入るようにとな。だが、中間地点にいる者たちはリュケリオンには来ない方がよかろう。むしろ……」


「ゲーティアに向かった方がいいわね」


 確かに。スレーデンの遺跡から魔物が南下する可能性があるなら、早々にゲーティアの大門を潜った方がいい。

 なんだけど……


「ロゼ、ミシャ、なんとかベルグに知らせる方法はないか? 日が暮れて夜になってしまうとますます危険だ。街道にいる者たちに、早うベルグへ逃げよと伝えねばならんし、ベルグもゲーティアの門を閉さずに備えてもらわねばならん」


 そう言われて考え込むロゼお姉様。

 季節は初夏。こちらの世界でも夏になる程、日没が遅いので、昼の六の鐘がなった後に暗くなってくるとはいえ……


「ないこともないわね。ミシャ、ここに来るダンジョンの転送先、ゲーティアの遺跡よ」


「えっ!」


 あっ! こことゲーティアの間の転送施設だったのか!

 でも、あっち側って……


「ゲーティア側の門が閉じてたんですけど、あれって開けられるんです?」


「多分、あなたたちが見た入ってすぐの門は開けられるわ。私が施錠したから」


 アッハイ、いつものですね。


「けど、その先にある模様のある壁が開かないのよ。ミシャは開け方が分かったりしないかしら?」


「模様のある壁って、こっちにもあったのと同じですか?」


「ええ、同じよ」


 ああ、あのシャッターの開け方、ロゼお姉様でもわからないのか。

 多分、シャッターの巻き取り機さえ動かせれば開くとは思うんだけど。


「多分、もう一度、見てみればわかる……と思います」


「なら、試してみましょう。すぐに動くわよ」


 皆が頷いて席を立つ。

 ああ、おにぎりもう少し……いや、戻ってきたら焼きおにぎりにでもしよう。


「シルキー、おにぎりはちゃんと保存しといてね!」


「は、はい、もちろん」


 みんなにめちゃくちゃ笑われました……


***


「私が明かりをつけておくから。ミシャ、その壁を調べなさい」


「はい」


 廃坑ダンジョンの転送室?に来た私たちは、まずは変な模様の壁——実はシャッターなんだけど、それを開けられるかの確認。


「フェリア様、一緒に見て欲しいんですが」


「うむ、よかろう」


 ロゼお姉様が手動で魔素を供給して部屋が明るくなると、私は杖に腰掛け、飛行魔法で浮き上がった。目標は変な壁が天井とぶつかってるところにあるシャッターケース。


「多分、どっちかに巻き取り機……魔導具があると思うんだけど」


 すいーっとスラスター移動して、まずはケースの左端から確認……何もなし。次、右側は……これかな?


「これですよね?」


「うむ。簡単だが魔法陣だな。我も手伝うか?」


「はい、基幹部分をお願いします」


 フェリア様の解析が基幹部分を覆ったのを見て、私も二つある部分の一つを解析する。重力魔法……シャッターの重さを一時的に無くしてるのか。

 もう一つの部分は……空間魔法の回転? ああ、巻き取り機の軸を回してるのか!


「わかりました! この魔導具を動かせばいけるはずなので、ゲーティア側にもシャッター——同じ壁があれば開けられると思います!」


 ロゼお姉様のところまで戻って飛行魔法を解除すると、フェリア様が指定席かのように私の方へと座る。


「良かったわ。それならなんとかなりそうね」


 手動の魔素供給が止められて部屋が一気に暗くなるが、他のみんなとディーが出した光の精霊が転送の魔法陣のところで待ってくれている。


「ディー、光の精霊は連れていけないから」


「了解だ。だが、真っ暗で大丈夫か?」


「平気。クロスケお願い」


「ワフッ!」


 クロスケが毛色変化を解いて本来のウィナーウルフに戻ると、その金毛が発する光が辺りを照らしてくれる。


「クロスケ、かっこいい!」


「やはり威厳がある……」


「ワフワフ」


 はいはい、ドヤ顔いただきました。

 それを見て呆れ気味のロゼお姉様だが、クロスケがかっこいいのは当然。

 さて、さっさとゲーティアに行かないとね。


「じゃ、転移します。もう少し魔法陣に近寄ってください。できるだけ魔素消費は抑えたいので」


 そう言うと、皆が魔法陣の中に収まるように集まってくれる。

 この転移魔法陣、脇の通路から前全部の容量を転移の対象にできるけど、コンパクトに収まるなら、それはそれで魔素消費が少なくて済む。


「じゃ、行きますね」


 魔法陣の基幹部分に魔素を流し込み、それが魔素結界の生成部分へと伝わる。

 魔法陣の中心から魔素結界が膨らんで私たちを覆ったところで、重力変更部分を呼び出す。

 魔素結界にパッケージングされた私たちの重量がゼロになったところで、最後の転送部分へと命令を呼び出し、私たちは転移した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る