第107話 買ったら帰ってすぐ確かめたい派
翌日は朝食を終えたらすぐに街をぶらぶらと。
ぶらぶらと言っても目的はちゃんとあって、まずは米を確保した。多分十キロほどの袋で。
ルルが「鍛錬のうちー」とか言って背負ったまま買い物を続行し、干物やら日持ちするものを買い込んで、昼前にいったん宿に戻った。
収穫その一、米。
ヨーコさんも書いてたけど、少し細長い系のお米。昔、日本でお米が足りなくなった時に、東南アジアから輸入したらしいけど、そっち系に近い感じ。
玄米なのは致し方なし。というか、精米するっていう概念がないのかな。ヨーコさんはともかく、他の召喚された勇者が普及させてそうな気がするんだけど……
収穫その二、干物。
定番の魚の干物。鯵っぽいやつとか。すいません、詳しくないです。
まあ、開いて天日干ししてある魚なので、普通に焼けば美味いはず。大根おろしは作れるので、醤油が欲しい……
収穫その三、海苔。
まさかの海苔登場! これでおにぎりが捗る!
まあ、元の世界の綺麗な板海苔みたいなのじゃなくて、適当に広げて乾かしたものなので、湿気るとぐだぐだらしい。
こっちでは「魚の出汁スープに解いて召し上がれ」みたいな食べ方をするそうだ。うん、なんか回る寿司屋でそんなの食べた気がするよ。
買い物は午前中で終え、買い込んだお土産というか食材は宿に預けてきた。
ケイさんが勧めてくれたお高めの宿だし、盗られるなんて心配はいらないと思う。
昼からは普通に観光。この街で観光と言ったら、海というか港だよねーと。
その港はかなり大きく、入出国管理も厳密なようで、船着場が完全に隔離された作りになっている。
「あの平屋の建物の中で入国とか出国の手続きが?」
「ああ、そうらしい」
らしいってことは、ケイさんも実際に船に乗ったことはないのか。
今、停泊中の木造船、多分、キャラックとかいうぐらいの船かな。ガレオンってもっともっと大きかったよねえ?
いずれにしても、船員と荷物とだけを運ぶのがメインで、客として人が乗るのは珍しいそうだ。
航路はベルグ王国セラードへの便だけでなく、西に進んだ先にある大きめの島への便もあるらしい。ちょっと気になる。
「乗ってみたい!」
「うむ、乗ってみたいな!」
二人がそんなことを言ってるけど、私の予想としては「絶対に船酔いして後悔」すると思ってる。
ディーは絶対だと思う。ルルはドワーフだし、お酒に強いから耐えるかも? お酒に酔うのと船酔いとは関係ないんだっけ? ま、何にしても私が一番先に船酔いすると思うけどね!
前世でも車酔いとかする方だったし。自分が運転すれば酔わないので、進んで運転手してたぐらいだもん。
交易のための港を後にし、漁業のための港も見に行った。
こちらはラシオタと同じか少し大きいくらい。ただ、船の数は倍ぐらいある。それだけ漁業が盛んなのだろう。
港を後にし、街をぶらぶらしてみたが、彩神教の教会はもちろん、ギルドや商店といった建物も結構あって、人通りも多い。
昨日行った灯台のさらに奥や、町の北東部には魔物が出たりもするそうだが、ここを拠点とするギルドで十分対処できているとのこと。ここはご飯も美味しいもんねえ。
「さて、帰って温泉に入りましょ」
「うっ、ミシャ、ホントにお風呂好きだよね……」
ふっふっふ、旅行に来て温泉に入れるなら、可能な限り入りまくるのが正義!
***
「んー、やっぱり旅は良いなー」
ベッドで大の字になる。気を抜くと意識が飛んで寝ちゃいそうだ。
隣にはクロスケがぐでーっと寝そべっている。うつらうつらしていて可愛い。
「明日はどーするの? 普通にルフの街まで行く?」
「ううん、この街を出てしばらくしたら、人がいないところで転移して、ロゼお姉様の屋敷へ帰りましょ」
「そんなに急がなくても良いと思うが?」
「ミシャは早く帰って米の調理をしたいんだろう? ヨーコもそんな感じだったよ」
ディーにそう返してくれるケイさん。おっしゃる通りです。
私としては、重い荷物を持っての帰路もどうかと思うし、さくっとお屋敷に戻ってご飯が炊きたいのです。海苔も手に入ったし、おにぎりの時間!
「そういえばケイさん。ヨーコさん、醤油について何か言ってませんでした?」
ヨーコさんの本には「醤油があれば!」っていう恨み節だけだった。かなり探したっぽい感じではあったけど。
「ああ、『しょーゆ』とかいう豆のソースはずっと探していたな。だが、北部を回った時も結局手掛かりもなかったようだ」
「やっぱり……」
大豆は普通に栽培されてる植物なので手に入るけど、それを醤油だったり味噌だったり豆腐だったり納豆だったりにするのは、日本人ってかなりおかしな民族だよね……
「その『しょーゆ』って美味しいの?」
「んー、まあ、ソースの一種だから好みの問題かな。でも、ルルもディーもきっと気にいるよ」
醤油だけで好きになるかと言われると微妙かな。焼き魚とか目玉焼きに醤油。
ま、いざとなったらテリヤキソースにすれば、ルルやディーに「美味しい」と言わせられる自信がある。
「でも、こっちの世界にはないみたいだし、ソフィアさんと相談かなあ」
こっちの世界に
とにかく、彼女なら醤油と味噌を作ってくれるはず! 私よりもずっと女子力高そうだったし!
***
「この辺なら大丈夫かな?」
翌日、リーシェンを出て鐘一つぐらい歩いたところで周りを見回す。前も後ろもいなさそうだけど……
「私が少し飛んで見てみよう」
ケイさんがそう微笑んで羽を広げると、一羽ばたきして上空へと。
そういえば、ケイさんが飛ぶところを初めて見たのでは。
「いいなー」
ルルが思わず漏らすが私も同感。なんかかっこいい。
あんまり羽ばたかずに飛んでるので、揚力とかホバーとかそういうのではなく、重力制御で飛んでるように見える。
何か詠唱があるわけじゃないし、
「大丈夫だ。周りには誰もいない」
ケイさんがふわりと降りてきてそう告げる。
なら、ここから一気にロゼお姉様のお屋敷まで転移してしまいましょ。
「じゃ、転移するよー」
皆が近くに集まってくれる。
さて、せっかくだから並列実行を使ってみるかな。うまく行ったらこれを私の転移魔法にしましょ。
《構築》《結界》《重力》《空間》{派生《魔素結界》}{派生《重力変更:0》}《実行》《転送:BB3257E9-1017-48BC-9520-C357A282A098》
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