第105話 HUBがあるから繋がる気持ち

 かつて、森の賢者に拾われた子は四人。

 巨人族なのに人ほど小さいマルリー。ハーフリング族なのに自分の世界に閉じこもっていたサーラ。エルフ族なのに精霊に興味がないディオラ。翼人よくじん族なのに飛ぶのが苦手なケイ。

 疎まれる一族の元よりも賢者を選んだ彼女たちは、その賢者のために活動していた。


「ヨーコが入るまでは『白銀の乙女』なんて名前はなかったが」


「へー、そうなんだ」


 勇者召喚で呼ばれたヨーコさんが保護されたのちにメンバーに加わってから『白銀の乙女』と呼ばれるようになったそうだ。


「ちなみに、みなさんのあだ名みたいなのって、サーラさんが?」


「ああ、ヨーコと一緒になって考えたらしい」


 ああ、やっぱり。

 というか、ヨーコさん、多芸だよね。謎が深まる……


「ヨーコが皆と馴染むのは本当に早かった……」


 なんというか、ヨーコさんが入るまでは、メンバー間はわりと殺伐としてたらしい。

 マルリーさんはマイペース、サーラさんはぼっち気質、ディオラさんは魔法以外に興味なし、ケイさんは無表情。

 依頼というか仕事での連携については問題なかったけど、それ以外のことについてはお互い詮索しない、みたいな間柄だったそうで。

 うん、私が放り込まれてても変わらなかっただろうなあ。私だってかなり人見知りだし……


 ヨーコさんはその皆の間にあった溝をあっさりと埋めてしまったそうだ。

 マルリーさんの尻を叩き、サーラさんの話し相手になり、ディオラさんから魔法を教わり、ケイさんの胃袋を掴んだ。

 ヨーコさん強すぎる……


「ヨーコといた時はいつも楽しかった。みんなもそうだったと思う」


 だが、それが続いたのは十数年ほど。寿命差というのがどうしてもある。

 この世界、人間は長生きして七十前後に対し、他の四人の種族はその十倍ある。

 ヨーコさんは四十前まで一緒にあちこちで活動していたそうだけど、その後はベルグの教会で奉仕活動に専念するようになった。


「それでもまだヨーコがいる間はよかった……」


 ケイさんが自嘲気味にそう笑った。

 ヨーコさんが亡くなってから、メンバー内でいざこざが増えたそうだ。

 主にディオラさんとサーラさんがぶつかり、マルリーさんが間であわあわして、ケイさんは諦めコース。うん、想像つくね……


「伯母上……」


 ディーがげんなりしているが、あの二人の相性が良くないのはお互い様だと思うよ?


「しばらくしてマルリーが参ってしまってな。結局、ヨーコ無しで続けるのは無理だという話になって、ロゼ様に相談した結果がこうなった」


 つまりは『白銀の乙女』の解散。

 黒神教徒という脅威への警戒として、ノティア、ベルグ、リュケリオン、ラシャードに各々がギルドマスターとして駐留するということになった、と。

 ディオラさんはギルドマスターではないけど、まああそこは特別だもんね……


「じゃ、マルリーさんが他にもギルドメンバーがいて、寄付してくれるから問題ないって言ってたのは嘘だったの?」


「嘘ではないでしょ。ディオラさんの傭兵ギルドの所属は『白銀の盾』だったよ。寄付は本当かはわからないけど『白銀の乙女』の人たちはもう十分にお金持ちなんだと思う」


「むむー」


 ロゼお姉様の指示があったとはいえ、あちこち依頼をこなしまくってたんだろうなあ。

 シェリーさんやソフィアさんが知ってるぐらいには有名なパーティーだったわけだし、正直、もう遊んで暮らせるぐらい稼いでるんだろう。


「あまり知られたくないことだから許して欲しい」


「ええ、それはもちろん」


 私もルルもディーも頷くと、ケイさんはさらに続ける。


「黒神教徒の動きは今もメンバー全員が気にしている。目立った活動は確認されていないが、ミシャ、君はやはり気をつけた方がいい」


「は、はい」


 うう、やっぱり、そうだよね。

 手紙の問題はあるけど、パルテームに関わるのは最後の手段かな……


「ミシャ、わかってるの?」


「うむ。他にあてがないならとか考えていないか?」


 ルルとディーにも釘を刺される。

 てか、ディーが鋭すぎて困る。そんなできる子にいつなった。


「はあ、わかったから。無茶はしないって」


 その答えに頷き合う二人。

 なんにしても、ルルやディーを放っておいて行動するのはリスクが高すぎる。

 二人にも私にも……


***


 翌日の行程も問題なく進み、昼の三の鐘が鳴る前にリーシェンの街が見えてきた。

 ラシオタやセラード以上、ノティア並に大きい港町が私たちを迎えてくれる。


「うわ、すごいね。こんな大きな港街だとは思わなかったよ」


「すごいすごい!」


 港には帆船が停泊しているのが見える。

 マストが二本あるような帆船が普通にある世界なんだ。外洋交易もしてるのかな。


「街に入る前に先に灯台に行こう。その方が近い」


「了解です」


 ケイさんの助言に従って、私たちは街へ続く道を西へとはずれ、岸壁の上にある灯台を目指す。

 普段、ほとんど誰も使ってないのか道と呼ぶには微妙な感じ。


「まあ、こういうところは任せてくれ」


 ディーが活き活きしているので任せることにしよ。

 木々の間をかき分けてしばらく進むと、ラシオタの灯台とそっくりのそれが姿を現した。


「ここには別に魔術士だけって書かれてないね」


「そうだな。私たちも入っていいだろうか?」


「いいんじゃないかな。でも、ラシオタの灯台も大したものはなかったよ?」


 そう返しつつ、入口の扉を解析する。

 魔法で施錠されてるけど、まあいつものかな。


《起動》《解錠:4725》


 うん、開きました。


「入るよー」


 ケイさんはここで見張りに残るということなので、手早く終わらせようと思う。

 扉を開けた中もほぼ同じ作りで、壁に螺旋に生えている階段を登っていく。


「おー、これかー」


 先頭で駆け上がって行ったルルのそんな声が聞こえる。

 登り切ったところで見えたのは同じ六角の台座だけど、嵌め込まれている魔晶石は三つ。やっぱりオーガロードの魔石ぐらいあるサイズだ。

 ラシオタの魔晶石はピンポン玉サイズで一月強だったから、このサイズなら一年持つってことだよねえ……


「えーっと、減ってるのは」


 今使われてる一つが三分の二ぐらい残ってて、残りの使ってない二つは空っぽに近い。

 ロゼお姉様、二年に一度しか来てないんだろうなって思いながら、私は魔素補充を開始した。

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