第104話 昔の仕事はだいたい黒歴史
ロゼお姉様と分かれて数日後、私たちは王都ラシーンを離れ、さらに南のリーシェンという港町へと向かうことにした。
ラシーンに戻ってからしばらくの間は街中を歩いたり、ケイさんのお仕事を見学したりとか。まあ、宿を一週間取ってたからもったいないってのもあって。
で、なんでそのリーシェンへ向かうかというと、ロゼお姉様に灯台のメンテナンス……例の魔素補給を頼まれたから。
リーシェンの灯台への魔素補給はギルドには任せず、ロゼお姉様が暇なときにやってるらしい。
「あそこの魔晶石は大きいのを使ってるから、年に一度の魔素補給でこと足りるのよ」
という話。
ロゼお姉様が話した感じだとオーガロードの魔石……ソフトボールぐらいあるやつが三つ。
年が変わると切り替わる仕組みに作ってあるそうだ。ちなみに、ナーシャさんはそのロゼお姉様が作ったのを見て学んだらしい
「じゃ、空に近い魔晶石一つに補充しておけば大丈夫です?」
「面倒だから、今使ってる以外の魔晶石は全部補充しといて」
「はいはい」
それで来年と再来年は大丈夫になるからか……
うーん、やっぱりこれって、この仕事を私に押し付けた気がするんだけど?
ま、ケイさんの『白銀の槍』ギルドを通して依頼にしてもらったので、先払いで金貨一枚をもらってるし、仕事ってことで良しとするかな。
「ミシャ、ケイさんが迎えにきたよ!」
部屋に忘れ物がないか確認していると、ルルが飛び込んできた。
今回のお仕事にはケイさんも同行してくれる。
単純に「一緒に旅行にでも行きません?」ってお誘いしたところ、いったんは固辞されたんだけど、ロゼお姉様の「ケイもたまには息抜きしなさい」という一言に屈したからだ。
「ん、行きましょ」
「ワフッ!」
チェックよし!
最後にいつも通り清浄の魔法を掛けて部屋を出る。
さて、久々の港町。魚料理も楽しみだけど、それ以上のものがあるはずなので……
***
リーシェンまでは一泊二日の旅。
一日目をつつがなく終了し、ルムという街で宿を取ったところ。
ケイさんもいるので四人部屋を普通に取れて一安心。クロスケも一緒で問題なかったし。
「ミシャ、良かったら、ヨーコの書いた本で気になったところを教えて欲しい」
夕飯まで少し時間があるところで、ケイさんにそうお願いされた。
自分で読めないのがちょっと悔しいんだろうなと思うし、ちょうど今から向かうリーシェンに関わることがあるので、それを話すかな?
ロゼお姉様に頼まれたのもあるけど、それ以上にリーシェンに行きたくなる理由があるんだよね、私には。
「じゃ、リーシェンのことが書かれている部分、読みますね」
『メンバーでラシャードの南にあるリーシェンという街に来た。ここで私は探し求めていたお米を見つけた。
この世界で米を育てているのは、私が知る限りここだけだと思う。日本のお米よりも東南アジアのお米に近いけど、炊き立てご飯が食べられそうで期待』
「あ、『こめ』って前にミシャが言ってたの?」
「そうそう、ルルよく覚えてたね」
日本人のソウルフードはやっぱり米なんだよね。
次に味噌と醤油? 日本の空港に降りると味噌の匂いがするって話だけど、あれって本当なのかな?
ま、それはともかく。
『確かに米はあったけど、調理はほとんどがリゾットだった。それと精米してないので、やっぱり
やっぱり精米まではしてなかったらしい。
玄米もそれはそれで美味しいけど、やっぱり銀シャリよね。わかる。
『ディオラに無理を言って玄米同士をぶつける方法で精米してもらった。魔法をこんなことに使うのはどうとか言ってたけど、後で炊き立てご飯で黙らせることにする。
リーシェンで干物を買ったので焼き魚とあつあつご飯。お漬物が欲しいところなので、精米で出た米糠にナスでも漬けようかな?』
そう! お漬物!
さすがヨーコさん、看護師してただけあって女子力は高そうだった。
「ケイさんはこの後に『こめ』を食べたの?」
「ああ、ヨーコがメンバー皆に振る舞ったんだが……」
「皆が一様に不思議な味だなと首を傾げてな」
そう言って苦笑いする。まあ、そうなるよね。
お米……炊き立てご飯が美味しいなんて思うのは日本人だけかもしれない。
『みんなに炊き立てご飯を作ってあげたのに微妙な反応だった。やっぱりお米を美味しいと思うのは日本人だけなの? でも、余ったご飯を塩むすびにしたら、ケイが美味しいと言ってくれたので良かったかな』
ケイさんが真っ赤になって顔を押さえている。
なんていうか、砂糖吐きそうなほど仲が良かったようで。
「ミシャ、ボクもそれ食べてみたい!」
まあ、玄米が手に入るなら、精米してご飯炊いてぐらいはできるかな?
「じゃ、リーシェンでお米買って、ロゼお姉様のお屋敷に帰ってから作りましょ」
「やった!」
こっちだと麻袋に入れて売ってるのかな?
まあ、一袋ぐらい買って、先に転送魔法でロゼお姉様の屋敷に送っておこうと思う。
あ、手紙を添えて、シルキー(姉)に勝手に使われないようにしないと……
「ケイ殿、一つ質問していいだろうか?」
「あ、うん、何かな?」
ディーが真面目な声でそう言うと、赤面から立ち直ったケイさんが気を取り直したように答えた。
「今、かつての『白銀の乙女』がそれぞれ別の街でギルドマスターをしているのは理由が?」
「そのことか……」
あ、それは私もすっごく気になってたやつ。
何かしら理由はあるんだろうとは思うけど、マルリーさんやサーラさんは間違いなくはぐらかすだろうし、ディオラさんは話してくれそうにない感じ。
ヨーコさんを助け出した時は四人でって言ってたから、その時にはもう『白銀の乙女』だったんだろうと思う。
それにヨーコさんが書いた本には『白銀の乙女』の成り立ちとかは全然書かれてなかった。
つまり、ヨーコさんがいなくなってから何かあったんだろうな、とは思う。まあ、その、だいたい想像はつくんだけども。
「まあ、君たちには話してもいいか」
ケイさんが少し遠い目をし、頭をかきながら話し始めた。
彼女たち『白銀の乙女』のことを……
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