研修とかいう社員旅行

第103話 それってちゃんと確認した?

 翌日は朝食をいただいた後、王都ラシーンへ。

 このカルデラにあるロゼお姉様の屋敷には、転送先の測位をしたのでいつでも戻ってこれる。


「炭鉱のところまで見送りに行くわよ」


 とロゼお姉様もついてきた。

 そういえば聞き忘れてたことを思い出す。


「ここってダンジョン……ですよね?」


 中腹の入り口からスロープ状の坂を降りつつ聞く。

 あの途中の真っ暗だったところは何なのかも知りたい。


「ちょっと変わってるけどダンジョンなのかしらね。ミシャは何かわかったりしないの?」


「うーん、ダンジョンコアのある管理室に行ければ? でも、停止してるってことはコアと会話もできないのかな……」


「そのダンジョンコアと話せるっていうのが、どうにも信じられないんだけど」


 そう言われましてもー。

 というかむしろ、


「私だってロゼお姉様がダンジョンコアと話せないことの方が不思議なんですけど」


「私には『にほんご』がわからないもの。ヨーコだったら話せたのかしらね」


 それも微妙な話なんだよね。

 ダンジョンコア自体は日本も日本語も知らなかったし、言語コードjaって言ってるだけだったし。


 下り坂が終わり、例のだだっ広いけど真っ暗な部屋に。

 ディーの光の精霊が自分たちの周りを淡く照らし出してはいるが、部屋の全体像は全く掴めなくて不気味……


「ディアナ、ちょっとこの辺りを照らして」


「は、はい!」


 光の精霊がロゼお姉様の指先の方に漂っていくと……え?


「これなんかルシウスの塔で見たことあるやつだ」


「うん。スイッチっぽいね」


 でも、ここって機能停止してるんじゃなかったっけ?


「魔素を流し込めば無理やり動かすこともできるのよ」


 私の疑問を察したのか、ロゼお姉様はそう言ってスイッチに触れた。そして多分魔素を流し込んだんだと思う。


「うわ!」


 暗かった部屋の天井がパッと明るくなってルルが、いやみんなが驚く。

 照らし出された部屋はかなり広くて……体育館? なんだか屋根がかまぼこ型になってて照明がぶら下がってる。


「私がここで魔素を流してないと照明が消えるの。しばらくの間、好きに調べていいわよ」


「了解です」


 私とルル、ディーとクロスケの二手に分かれ、ケイさんは万一に備えて、先の通路の方に。

 私たちが向かった左手方向は……


「なんだか変な模様の壁だね」


 あー、うん、壁っていうかシャッターだ、これ。

 そっか、私はこういうのは見たことあるからわかるけど、こっちの世界の人には変な壁だよね。

 上を見上げると、巻き上げたシャッターを格納するケースっぽいものもあるし間違いなさそう。


「ルル、ミシャ、こっちに魔法陣がある」


 ディーからそう声がかかったので、そっちにダッシュ。ひょっとしたら、このシャッターを開けられるかも?


「これだ」


 ディーが片膝をついている先には二メートル四方の魔法陣。

 うーん、自力で解析できるかな。ロゼお姉様はスイッチから離れられないし……


「ちょっと解析してみるね」


「ミシャ、気をつけてね?」


 ルルがそう言いつつ私の真後ろに立つ。クロスケも私にぴったりと。

 何ですか、君たち……。また飛ばされるかもとか思って構えてるってこと?


「はあ、今度は大丈夫だって」


《起動》《解析》


 魔法陣の基幹部分にまず解析をかける。

 これをそのままの状態で維持しつつ、右隣の術式に、


《起動》《解析》


 転送魔法かな。行き先がわからないのが怖いよね、これ……。なので、そっちの解析を止めて、次は左側を解析。

 スレーデンの遺跡で失敗したときに悟ったんだけど、基幹部分とのやり取りさえ把握できれば、全ての術式を同時に解析しなくても大体分かるんじゃないかなと。

 で、左側は結界魔法。ということは、向かい側はおそらく重力魔法だろう。スレーデンの遺跡のアレと同じかな……


「ん、わかったよ。転送魔法だね。どこへ転送されるのかはわからないけど、人も運べるやつだから起動はしたくないなあ」


「また悪い黒神教徒が作った奴?」


「うーん、違うと思う。あそこにあった雑な魔法陣じゃなくて、これはダンジョンが持ってる設備っぽい感じだし……」


 スレーデンの魔法陣は本当に人が書きましたって感じで、実際そうだったんだろうと思うけど、この魔法陣は綺麗すぎる。手書きとフォントぐらい違う。

 あっちはこれを参考にして書いたのかな……


「ミシャ、満足した?」


「あ、はーい」


 その返事で部屋が暗闇に戻り、またディーの光の精霊だけが私たちを照らした。


「ここって何のダンジョンなんでしょう?」


「私の推測だけど、大掛かりな輸送施設として使われていたんじゃないかしら? あの魔法陣が何かはわかったでしょ?」


「ええ、転送……転移もできる魔法陣ですね。範囲はかなり広い?」


 スレーデンの手書きのやつは、魔法陣の中がそのサイズだったけど、ここが大掛かりな輸送施設っていうなら、もっと範囲は広そうだ。


「最初に解析した部分をもう一度解析してみなさい。そこに書かれているから」


「うっ、そうだったんですね……」


 基幹部分は各部の取り次ぎかと思ってたけど、そういう情報もあるんだ。

 よく考えたら、転送する物のサイズは各部で一致してないとなんだし、この基幹部分にあって当然だよね。

 ちょっと暗いが特に問題なく解析をやり直す。


「広いですね。最大で通路よりもこちら側全体です」


「ん、合ってるわ。そういう細かいけど重要なところを見落とさないように」


「はーい」


 うーん、やっぱり経験で勝てない部分が多いなあ。

 と、ニヤニヤしてるルルとディー。


「どうしたの?」


「ううん。ミシャが間違えてて教わってるのが新鮮だなって」


「だな」


 何を言ってるんだか。私だって新人の頃はそんなだったってば。

 ため息を一つついて先へと進むと、今度は例の穴の部屋。

 来る時は無重力で降りたけど、登るのはどうしたもんだか。


「どうせここも気付かずに降りたんでしょ?」


「え?」


「ほら、前に進んで」


 そう急かされて進んだところで、ロゼお姉様が正面の壁に手をかざす。

 その先に光の筋が縦に浮かび、足元がゆっくりとせり上がって行く。


「えええ……そんなのわかんないです」


 油圧……じゃなくて魔素圧式? きっと上にもスイッチか何かあったんだよね。

 暗くて見えてなかっただけで……

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