幕間:魔法世界のコーディング規約:6

 ロゼお姉様が聞いてくれるうちに、各種魔法ライブラリについて、自分の把握が間違ってないかを確認しておきたい。


【並列実行】


「魔素結界はこのペンダントで発動して、無重力はこの杖で発動して、転送は自分が発動させて、フェリア様とクロスケと一緒に転送……転移しました」


「あら、かなり力技だったのね。リュケリオンの私の書斎に複数の魔法を一つの詠唱で同時に実行させる本があったと思うんだけど」


 ロゼお姉様がそう言ってシルキーに合図すると、シルキー(姉)がスッと消える。

 あの時は勇者召喚の本に気が行っちゃってて、他の本のこと全然だった……

 こっちにもその本あるのかな? ともかく、並列実行はとても気になる。


「まあ、ミシャには見せた方が早いかしらね」


《起動》{派生《水球》}{派生《火球》}《実行》


 手のひらの上のビー玉ほどの魔素が二つ、それぞれ水球と火球となって空へと飛んでいった。


 なるほど……プロセスのフォークみたいなものなのかな。

 派生時点では開始してないから、どっちかというとスレッド? 非同期タスク切って走らせるイメージに近いのかな。

 魔素のコントロールが続く火球みたいなのには、ちょっと辛いかもしれない。あと、開始をずらすことはできるんだろうか?

 うーん……


「ミシャ様、これを」


 といつの間にか隣にいたシルキー(姉)に渡された本は『派生で極める魔法の並列化』というタイトルだった……



【結界魔法】


「結界魔法はフェリアに習ったの?」


「まあ、習ったというか……」


 フェリア様のペンダントにあった術式を全部もらったことを話すと、ロゼお姉様が頭を抱える。


「何か言われなかった?」


「これで其方そなたも我の妹だな、とか言ってましたね」


「そりゃそうよ。妖精族の王族しか持てないペンダントの中身を写したなんてバレたりしたら……」


 ……思ってた以上にやばかった件。

 まあ、結界魔法も「普通の魔術士」には使えない魔法だし、極力使わない方向かな?

 基本的に使うのは魔素結界での対象のパッケージングだけど、断熱結界とか遮音結界とかいろいろとあるんだよね。


「あなたのことだから、中身は全部把握してるのでしょう?」


「ええ、それは」


「その中には本来は妖精族しか知らない『結界解除』があると思うけど、絶対に使わないようにね?」


「え、そんなにまずい魔法なんです?」


「ギルドがダンジョンを管理しやすいように、私が必死になって張った結界を解除したらお仕置きするわよ?」


 アッハイ、使わないようにします……



【空間魔法】


「空間魔法は転移ができるのだし、ちゃんと使えているのよね。今まで使ったのは測位と転送だけかしら?」


「はい。他にも面白そうなのは結構あるんですけど、使う場所がない感じです」


「例えば?」


 うーん、そうだなー……


《構築》《空間》《回転》


 魔素で包んだカップがくるっと一回転した。


「それだけ?」


 うん、まあこれだけのことなんだけど、使い方次第ではかなり強力。

 飛んで来た矢を空間を回転させて打ち返すという、某神拳みたいなこともできるはず。


「えーっとですね」


 私は足元にあった小石を拾って真上に放り投げると、それが落ちる場所に先ほどの回転空間を置いた。

 落ちてきた小石は、回転空間で落下方向への移動ベクトルが真上へと強制回転され、そのまままた放り出される。まるで宙で弾んでいるようだ。

 落ちてきては放り出されを繰り返し、やがて空気抵抗のせいかぴったりと止まったのを見て、魔素を解放すると地面に落ちた。


「妙なことを思いつくものね」


「そうです? 矢が飛んできても大丈夫かなあとか」


「普通の矢なら、魔法障壁の方が楽だと思うわよ?」


 ……これだと反撃にもなるもん!



【魔法障壁】


「そうそう、魔法障壁って魔素膜を多重で張ったのをそう呼んでるんですけど、間違ってます?」


「ああ、そうね。元素魔法しか知らないとそうなるわね。でも、ミシャは結界魔法を覚えたのでしょう?」


 ん? んん? 結界魔法と組み合わせる?

 あ、ああ!!


《構築》《結界》《魔素結界》


 A4サイズの魔素結界の表面を魔素膜で覆う。と、ロゼお姉様がそこにビー玉サイズの魔素をぶつけた。

 くり抜かれそうになった魔素板が、結界から魔素を補充して自動修復される。その分、A4サイズがB5サイズくらいになったけど、これなら多重で魔素膜を張るよりも楽だ。


「正解。さすがね」


 ニッコリ微笑むロゼお姉様。

 褒められると嬉しいよね。



【人型魔法】


「そういえば、ゴーレムの魔法はルシウスの塔で?」


「はい。多分、一通り動く分はダンジョンコアにもらいました」


「んー、古代遺跡にはゴーレムに掃除なんかをさせてるところもあるわよ」


 ロゼお姉様がそう言った瞬間……


「お掃除を人形如きに任せることは断じて許しません」


 ずいっとシルキーが割入って宣言した。

 うん、目が怒ってるので、これは逆らってはいけない奴。


「そ、そうだよね! 家のことはシルキーに任せれば万事解決だよね!」


「はい。妹もミシャ様が素晴らしいお屋敷を用意してくれると張り切っておりました。姉としても楽しみなことです」


 うがー! そんなことまで伝わってるの!?

 それを聞いたロゼお姉様がクスクス笑っている。

 はあ、さすがにこのお屋敷はくれないよね。どっかにでっかいお屋敷を建てないとダメかな。

 ううう、低金利の住宅ローンとかないよね、この世界……



【お屋敷】


「ロゼお姉様はあちこちに家があるみたいですけど、どうやって手に入れたんです。例えばこことか?」


「ここは放置されてた屋敷だったから勝手に私のものにしたわよ」


「ここって放置されてたんだ……」


 うーん、参考にならない。

 まあ、こんなところにカルデラがあって、ちょっとしたリゾート地になってるなんて、あのダンジョンを抜けてこないとだもんねぇ……


「じゃあ、ノティアの森の屋敷もですか?」


「あそこはワーゼルに認めさせて、ロッソとドワーフたちに建ててもらったの」


 あー、ノティアのダンジョンのこともあったし、関係してても全然不思議じゃないか。

 ロゼお姉様があそこにいてくれれば、領主様も安心だったろうしなあ……


「うーん、お金貯めて家を建てることを考えるかな」


「ベルグの皇太子妃と知り合いなんでしょ? 建ててもらえばいいじゃない」


 うう、エリカに借りを作ると宮廷魔術士とかにされそうで怖い……

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