第101話 コメント頼りの引き継ぎ作業
『お前は何を言っているんだ?』
多分、そんな顔をしてたんだろう。ロゼお姉様にジト目で睨まれた。
いやいやいや、だって無理でしょ。聖霊と話すための神聖魔法ライブラリがあるわけでもないんだし。
「私は別に魔法の基礎原理からわかってるわけじゃなくて、使い方を理解できてるだけなんですけど……」
「そうね。シルキー」
「はい。ミシャ様、これを」
そう言って一冊の本を渡される。
おおお、全部が普通に上質な紙で出来てる本だ……
「それはヨーコが書き残した本よ。私にはさっぱり読めないんだけど、あなたなら読めるのでしょう? ヨーコはそれに神聖魔法のことも書き残したって言ってたわ」
そう言われて開いた本の最初には、
『私の後にこの世界に来た日本人へ』
そう『日本語』で書かれていた……
***
場所を中庭に移し、講義の続き……というよりは実践かな?
ルルはケイさんと手合わせしているし、ディーは精霊の力を借りて……庭の手入れをしている。仲良くするってそれでいいの?
私はというと、庭の端に置かれたテーブルでさっきのヨーコさんの本をじっくりと読んでいる。
「どう?」
「どう、と言われても……」
本の中身、少なくとも最初の方はこっちの世界に来た時の記録、ただの日記なんだよね。
おかげでロゼお姉様やマルリーさんたち『白銀の乙女』がどういう状況でヨーコさんを助けたのか、本人の視点で知ることができたんだけど。
「そうですね、例えば……」
『気がつくと私は洞窟にいた。気味の悪い男たちが目の前にいて、これはたちの悪い夢かと思ったけど、どうやら夜勤ボケでもないらしい。
けど、どうやら私の運も悪くはなかったようで、正義の味方っぽい人たちが私を助けてくれた。思えばケイはあの時からかっこよかったなあ』
「っ!」
ルルの打ち込みがケイさんの防御を崩した。
うん、まあ、ごめんなさい。
「うふふ、ケイでも焦ることがあるのね」
ロゼお姉様が嬉しそうだ。で、続き。
『怪我をしているケイに手当てをした時、不思議とその怪我が治ってしまったことに驚いた。
後からロゼ様に聞いたところ、私は世界を渡った時に加護をもらったらしい。というか、明らかに外人っぽい人と何となく言葉が通じているのも驚きだ。ケイなんて翼が生えてるし、その付け根がどうなっているのか気になる』
さっきからケイさんがちょいちょいルルに攻勢を許しているのは、やっぱり私が読み上げてるからだよねえ。
『ここが違う世界だということは納得するしかなかった。ディオラは耳がとがっていて、最初はヴァルカン人かと思ったがエルフだそうだ』
……ヨーコさん、エルフより先にヴァルカン人ってトレッキーじゃん!
『マルリー、サーラ、ディオラ、ケイはロゼ様の依頼で私を助けてくれたらしい。そのままだと、黒神教徒とやらに洗脳されてたかもしれないとのこと。
しばらくは匿われることになったけど、私を呼び出した実行犯は全て処分したそうだ。物騒な世界に来ちゃったなあ。
そういえば今日、退院するはずだった石田のおじいちゃんは元気にしてるだろうか? 他人のことを心配してる状況じゃないはずだけど、どうしても気になる』
ヨーコさん、やっぱり看護師だったんだね……
『マルリーは普通の人間だと思ってたら巨人族なんだそうだ。年齢を聞いたら十七歳だと言われた。……絶対に嘘だ』
これには思わず笑ってしまった。
ルルもディーも、ケイさんも笑いを堪えてるし。
『サーラは厨二病。けど、もう少し徹底しているべきだと思う。あとバリエーションが足らないので教えてあげるべきか悩む』
サーラさんの厨二病、ヨーコさんの指導が入ってる可能性があるんだ。
『ディオラは最初は魔法のことに対抗意識剥き出しで取っ付きづらかったが、仲良くなったらただのツンデレだった』
ぶっ! ヨーコさん、容赦なさすぎ……
『ケイは無愛想だけど優しい。気がつくと私をフォローしてくれてたりして、男だったら良かったのになあ』
あ、ケイさん、転けた。動揺してるなあ。
「休憩にしましょ」
ロゼお姉様がパンパンと手を叩き、収拾がつかなくなったルルとケイさんの手合わせはいったん休憩に。ディーとクロスケも庭のお手入れから戻ってきた。
「皆さん、お茶をどうぞ」
シルキー(姉)がどこからともなく現れて、お茶の準備をしてくれる。
皆が席について、私が続きを読むのに期待の眼差し……
『結局、私は四人と行動を共にすることになった。帰る手段はやっぱりないらしい。ロゼ様がすごく謝ってくれたけど、方法がないなら仕方ないかな。
それよりも気になるのは、こっちの世界の衛生レベルが低くて辛い。お風呂はまあ日本人の風習だろうけど、シャワーぐらいは浴びて欲しい』
………
……
…
さすが看護師さんというか、この世界の衛生についての不満点が爆発してた。
私自身もちょっとなーって思ってることだけど、清浄の魔法が使えるようになってからは、それほど気にしなくなったかな?
でも、お風呂には入りたいよね。疲れを取りたいって意味で……温泉行きたい……
「ねえ、ミシャ」
「ん?」
「ボクって汚れてるのかな? 臭ったりする?」
あー、ヨーコさんの話を聞いて、ルルだけでなくディーやケイさん、ロゼお姉様まで体臭を気にし始めた。
でも、私からすると清浄の魔法の効果って、お風呂に入って全身洗うぐらいの効果を感じてるから、全然大丈夫なんだけどね。少なくともルルやディーの衛生状況は私がきっちり管理してるので問題ない。
まあ、街全体の衛生レベルは低いなあとは思うけど……
「ルルもディーもクロスケも、私が清浄の魔法を掛けてるから大丈夫だよ。ヨーコさんが褒めてくれるぐらいにね。ただ、街中とかはちょっと……汚いなあって思うことはあるよ」
「ヨーコは最初に清浄の元素魔法を覚えた。治癒の神聖魔法よりも先に」
あ、やっぱりって感じ。
かのナイチンゲールは何よりも清潔さを優先させたっていうし、看護師さんならまずは衛生状態の改善だろうなとは思う。
「あれ? ということはヨーコさんは元素魔法も神聖魔法も両方使えたんです?」
「ああ、元素魔法のうち、生活に使う魔法はほとんど全て使えた。ディオラが丁寧に教えたからな」
うんうん、ディオラさんらしいツンデレぶりですね……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます