第100話 言語は何でもいいらしい

 翌朝、シルキー(姉)の美味しい朝食をいただき、さて、書庫でも漁らせてもらおうかなーって思ってたら、ロゼお姉様がこんなことを言い出した。


「魔法についての講義をするわよ。ケイも昔聞いたと思うけど、改めて出席なさい」


 マ、マ、マ、マジですか!?

 ルルが「ボクも出るの?」みたいな顔してる一方で、ディーは目をキラキラさせてるし……大丈夫なのかな、これ。


 食堂を出て、リビングに集合。

 席順は昨日と同じで、長ソファーに私とルル、ディーとケイさんというペアで座っていて、ロゼお姉様は座らず。立ったまま講義するのかな?


「さて、魔法の講義といってもたいした話をするつもりはないわ。ミシャ、あなたがここまでくる間にいくつか元素魔法以外も使えるようになったみたいだけど、魔法はそもそも幾つの種類があると思って?」


 う、うーん……。まあ、とりあえず普通に答えるかな。


「この世界の一般的な意味でなら、元素魔法、精霊魔法、神聖魔法の三つだと思います」


「あなたの考えでは?」


「……実は一つじゃないかと思ってます」


 私の答えにロゼお姉様はご満足いただけたようでニッコリと笑う。

 薄々そうかなと考えてたけど、どうやら当たりだったみたい。


「ミシャのいうとおり、実は魔法には一つしか種類はありません」


「は、はい! 質問を!」


「はい、ディアナ」


「精霊魔法は明らかに違う……と思う。詠唱も不要で精霊に力を貸してもらうだけで」


 ディーのその理解は正しいと思う。

 でも、私の視点から見るとちょっと違う見方もできる。


「ミシャ」


「はい。精霊魔法は『精霊』という魔素で構成された意志に対して、魔法を使うようにお願いしているんだと思ってます」


 対話型インターフェース。「OK,Go○gle」とか「Al○xa」とか「Hey ○」とか、アレと同じで「○○の精霊よ」がウェイクアップワードだと考えると辻褄が合う。

 ただ、この仕組みだとすると、精霊って相当優秀なAIということになる。それを誰が作ったのか? 多分、ダンジョンと同じ人なんだろうと思うけど。


「魔素で構成された意志、とは?」


「うーん、例えばディーだって、自我……自分の意志で体を動かしてるでしょ? それと同じで、精霊は自分の意志と魔素の体だけを持つ存在、かな」


 理解しづらいかなあ。ディーが渋い顔をして考え込んでしまう。

 一方でルルは、


「ボクの気持ちだけがあって、体が魔素でできてたら精霊?」


「うん、簡単に言えばそう」


 と割とすんなり理解? 受け入れてくれたようだ。

 まあ、ルルほど考えたりできる精霊となると、それこそシルキー(姉妹)のように、体を具現化できるレベルになると思うけどね。


「エルフやフェアリーがもともと精霊と会話できるのは、種族的に魔素の特性、簡単に言えば色が近いからよ」


 やっぱり、緑の魔素にはそういう特徴があったんだ。

 ディーの魔素の色は当然緑だ。ソフィアさんもそうだった。あの子は翡翠ひすい神から加護をもらってるから当然なのかな。

 ん? ということは?


「精霊を作ったのは翡翠ひすい神様なんです?」


「ミシャ……正解だけど話が飛躍しすぎよ」


 アッハイ。


「ミシャの言う通り、精霊は翡翠ひすいが作ったものがほとんどね。大地や植物、光、水、風と自然に関わる精霊はだいたいそう。そういった精霊にお願いして魔法を使ってもらっているのが精霊魔法ということになるわ」


 なるほど。ディーがそれらの精霊と契約できているのはプロトコルが合っていたからなのかな。


「その、私が精霊魔法をよりうまく使えるようになるにはどうすれば……」


「それは簡単。もっと精霊と親密になればいいの」


「はあ……」


「あなた、普段から遠慮がちに精霊魔法を使っていそうだけど、それは逆効果よ? もっと精霊を頼るようにしないと、精霊たちも不安がるわ」


 あー、そうなんだ。

 ディーって小さい頃から精霊と遊んでたって言ってたけど、それもあってなのかな。

 大人になって忙しくなってかまってくれないご主人的な?


「はいはい!」


「はい、ルル」


「身体強化も魔法なの? マルリーさんから教わったけど」


 その質問に、ロゼお姉様はケイさんの方を向く。

 なんというか「教えたわよね?」的なアレでちょい怖い。


「身体強化は体内の魔素に意識で命令する魔法。通常ではあり得ない力や速さを魔素でサポートすることにより得る」


 その回答に頷くロゼお姉様。


「コツとかってあるの?」


「意識と言ったが、意識しすぎると今度は体術が疎かになる。だから、何度も体に覚え込ませること。少なくとも私にはそれだった」


 そう言われたルルはむむーっと唸る。

 ディーも私もルルの相手はとてもじゃないけど務まらないからなあ。ゴーレム相手でもトレーニングを日課にした方がいいのかもしれない。


「少なくとも、あなたのお婆さん——ルシアはもっとうまく身体強化を使えたわよ。精進なさい」


 へー、ルルのお婆ちゃん、ルシアさんっていうのね。

 ま、それを言われちゃうとルルも頑張るしかないよね。グッと拳を握って決意を新たにって感じ。


「私からも質問いいですか?」


「ええ、ミシャ」


「残りの一つ。神聖魔法ってどういう魔法なんです?」


 結局、今まであまり神聖魔法見てこなかったんだよね。

 ノティアのダンジョンでキメラスケルトンの突進をマルリーさんが防いだけど、あの時に神聖魔法のバフがかかってた。あれぐらい?


「元素魔法が術式の詠唱による発動、精霊魔法が精霊を介した発動、身体強化が意志による発動。だとしたら?」


「え……、じゃあ、月白げっぱく神様の力を借りて?」


「そうよ。もちろんお姉様本人がわざわざ貸してくれてるわけではなくて、その御使みつかいである聖霊——聖なる精霊——がその力を発動させてくれるのだけど」


 今、お姉様って言いませんでした? まあ、今さらなのかな。

 しかし、そうなると神聖魔法も一種の精霊魔法なのか。聖霊魔法って感じだよね。


「うーん、じゃ、私が神聖魔法を使うのは難しそうですね……」


「それはどうかしらね。元素魔法と同じで正確な詠唱、神聖魔法でいう祈祷が失われただけなの。実際、ヨーコは彼女独自の祈祷で全ての神聖魔法を使えてしまったわ」


「はぁ!?」


 ロゼお姉様がなんかとんでもないことを言い出した……

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