第99話 可能な限りの引き継ぎを

「私なら送れると思います。今は無理ですけど……」


 次元魔法のライブラリさえ手に入れば、元の世界を測位できると思う。多分だけど……


「ミシャは『じげん』についてわかるの?」


「えーっと、次元っていうのはですね……」


 一応、フェリア様にもした三次元までの定義について話すと、ロゼお姉様はそこそこ理解したようで、かなり鋭い指摘が飛んでくる。


「私たちが普通は認識できない『世界』がもっといくつもあるということかしら? その一つがヨーコやミシャがいた世界?」


「おそらくそうだと思います」


「それを認識するための方法が『じげん』魔法にはあるということ?」


「ええ」


 うん、やはりロゼお姉様、さすがとしか言いようがない。

 高次元を経由して別の世界……私やヨーコさんがいた世界にアクセスできるようになれば、空間魔法の測位を組み合わせることで、こちらからあちらへ転送できるはず。


「ミシャは……帰りたくてその方法を探してたの?」


「あ、いえいえ、違います。私は前の世界の家族に手紙を送りたいだけなので!」


 向こうの世界に帰っても、この体じゃ「誰?」状態になるのはわかってるし、戸籍もない。

 あれ? 元の世界に戻る方が詰んでるよね、これ……


「うーん、そうねぇ……」


 ロゼお姉様から許可をもらって、何かしら次元魔法を調べる取っ掛かりが得られればベスト。

 ヨーコさんの遺骨も送れれば、これはWin-Winってやつだと思うんだけどなあ。

 ま、実際、私が「Win-Winで行きましょう」とか言われたら、絶対に拒否るけどね!


「あなたがパルテームに関わらないと誓うのなら良いわよ」


「うっ、それって一番手掛かりがありそうな場所には行くなってことですよね?」


「そうよ。でも、この件であなたを危険な目に合わせたら、それこそヨーコに顔向けできないもの」


 そう言われてしまうと辛い。

 ルルもディーもケイさんもうんうんと頷いているし、私自身もあそこは危険だろうなとは思ってる。


「ケイ、場合によっては白銀の皆にまたお願いするかもしれないわ」


「はい。マルリーたちもそのつもりでいるようです」


「うう、それはそれで心苦しいんですけど……」


「ミシャが気にすることではない。私たちはヨーコのために動くだけだ」


 無表情のままそう答えるケイさん。

 ああ、そうか……。マルリーさんやサーラさん、ディオラさんの手紙にはそのことも書かれていたのかも。


「ミシャはほっとくと無茶なことするから、絶対にダメだよ?」


「うむ。それには私も同感だ」


 ルルとディーにまで念を押されてしまう。


「あなたはこの世界を楽しむって決めたんでしょ? ヨーコの分も楽しむのが先よ」


 そう言われてしまうと、私も「はい」としか答えられなかった。


***


「はあ、今日はいろいろありすぎたよ……」


 そのまま夕食をご馳走になり、今日はこのままお泊まりということで客間に。

 二人ずつの部屋だが、部屋同士が扉で繋がっていて、開けっぱなしにしてある。

 ケイさんは他の白銀の乙女のメンバーの近況報告をしたいと、ロゼお姉様と二人で話している。


「ミシャ、大丈夫?」


「うん、体はね。でも、心が疲れた……」


 ルルが私の分のベッドに座って膝枕してくれている。

 うん、頭をなでなでされると少し恥ずかしいね……


「私からしても衝撃の事実ばかりだったな」


 向かいのベッドではディーがクロスケを膝枕してなでなでしている。これはいつものこと。


「マルリーさんたちって、ボクが思ってたよりもずっとすごかったんだね」


「うん、ホントにね。マルリーさんも、サーラさんも、ディオラさんも。普段は全然そんなふうに見えないのにねえ……」


 ケイさんとはまだ付き合いは短いからなんともだけど、まあ「普通に強い」気がしてる。ロックゴーレムを瞬殺してたしね……

 マルリーさんがメイン盾で、ケイさんが近接のダメージディーラー、ディオラさんが魔法での遠距離ダメージディーラー、サーラさんはサポートで、ヨーコさんがヒーラーかな。

 まあ、かなり出来上がったパーティー編成だよね。


「ねえ、ミシャってヨーコさんのこと、どういう人だと思ったの? なんだか服装のことを気にしてたけど」


「あー、うん、多分だけど彼女は私のいた世界では看護師って呼ばれる、病気や怪我をした人の治療を手助けする職業の人だったと思う」


「治療ではなく、治療の手助けなのか?」


「うん、そうそう。治療ができる人はたくさんの患者を相手にしないといけないから、細々こまごまとしたサポートはできないでしょ。だから、看護師っていうサポートを専門にする人がいるの」


 おっきな病院の先生とか看護師とかって、派遣SEなんかよりもずっとブラックらしいけど、どういう状況で召喚されちゃったんだろうね。

 きっと残された担当患者さんのこととか気になっただろうな……


「それで治癒の加護を授かったのか……」


「私の世界だと『白衣の天使』なんて呼ばれたこともあったらしいからねー」


「なるほど。まさに月白げっぱく神の御使様みつかいさまということだな」


 しかし、勇者召喚をしようとしたのが、王家だけじゃなくて黒神教徒も関わっていたとは。

 国として戦力が欲しいのはわかるけど、呼び出したのは勇者というよりは聖女だよね。どういう思惑があったんだろ……


「ミシャ、パルテームのこと考えてない?」


「うっ、ルル、鋭すぎない?」


「ふふふ、ダメだからね」


 ニッコリ笑って威圧される。いつの間にそんなマルリーさんみたいな技を覚えたの……


「うん、わかってる。確かに私が危ない目にあったりしたら、ヨーコさんに怒られるもんね」


「そうだぞ。慌てる必要はない。ゆっくりとこっちの世界を楽しみながら探せばいい」


「ワフッ!」


 うん、そうだよね。

 私が無理すると、ルルもディーもクロスケも、多分巻き込んでしまう。それが分からないほど若いわけじゃない。なにせ元の世界じゃ三十路だったわけだし……


「それで明日からどうするの?」


「うーん、この屋敷にある本を読ませてもらおうかなって思ってるけど。それだとルルやディーは退屈じゃない?」


「ボクはケイさんと手合わせしてみたい!」


 むむ、それは私もちょっと見てみたいかも。

 ケイさん、多分、本気を出せば立体的な攻撃をしてくると思うんだよね。飛べるし。


「私はロゼ様に精霊魔法について聞きたいところだな」


 シルキー(姉)もいたもんねえ。

 私自身、精霊魔法も少し興味はあるけど、ヨーコさんが使ってた治癒の方にも興味あるかな。

 今の三人だと回復はポーション頼りな部分あるし……


「まあ、今日はゆっくりと休みましょ。明日はここに転送先の魔導具を置いて、明後日にラシーンに戻るくらいかな」


 転送先設定さえできれば、いつでも来られるわけだしね。

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