第98話 大事な人からいなくなる

 ロゼお姉様が去ってから、ここに来るまでにあったことを一通り話し終わって、気がついたら昼の三の鐘になってた。

 ロゼお姉様はノティアの件あたりまでは、ふんふんと納得しながら聞いてたんだけど、私がダンジョンコアと話したあたりから黙っていられなくなってしまった。

 どうやら「私がダンジョンコアと話す」ことは完全に想定外だったらしい。


 ルシウスの塔をクリアしたことも、カピューレの遺跡の害虫駆除をしたことも想定外らしい。

 まあ、これはルルと知り合ったこと、結果としてエリカとも知り合ったことが大きいかな?


 リュケリオンに来てディオラさんと会い、転送魔法の習得と例の魔法陣を私が好きにすることについては思惑通りだったらしい。

 けど、いきなりフェリア様とクロスケの三人で飛ばされるとは思ってなかったらしい。やっぱり準備万端で行くだろうと。


「危なかったんだからね!?」


「まあまあ、ルル落ち着いて」


 文句を言うルルをなだめる。

 あれがあったお陰でフェリア様から結界魔法も貰えたしね。


「それは確かに私が悪いわね。それにしても、アンデッドがそんなにって、リュケリオンは何もしてないのかしら?」


「はあ、それなんですけど……」


 いい機会なのでフェリア様とディオラさんの愚痴を伝えておく。

 原因はロゼお姉様にもあることだしね。


「……それは嫌味?」


「まあ、そう取ってもらっても」


 フェリア様はともかく、ディオラさんは相当苦労してたからね!

 私の返しが相当答えたのか、ロゼお姉様は本当に仕方なくという感じで、


「そのうち、フェリアと話すわ」


 そう言ってプイっとそっぽを向いた。

 よしよし。これでまあフェリア様とディオラさんに借りも返せたと思う。


「で、もう一つ、重要なことを聞いておきたいんですが」


 そっぽを向いたままのロゼお姉様にそう前置き。


「リュケリオンのお姉様の部屋で『古代魔法陣による勇者召喚の手法と実践』って本を見ました」


「……他人の部屋に勝手に入っちゃダメだと思うわ?」


「魔法鍵の合言葉をどれも同じにしてる方が悪いと思います。それにフェリア様も同意してくれてたので問題ないかと。で、あれは?」


 話を逸らそうとしてくるが、そんなことはわかっているのでニッコリと問い詰める。

 私とロゼお姉様のやりとりに周りがびびってる感じだけど気にしない。


「はあ……、フェリアったら全く。あれはずいぶん前に黒神教徒から手に入れたものよ。でも、結局、『じげん』魔法がよくわからなくてダメだったんだけどね」


 むむ、ロゼお姉様も次元っていう概念がわからないんだ……

 それはともかく、


「で、何に使おうと?」


「迷い人を送り返す方法を調べてたのよ。そこにいるケイもよく知ってる子よ」


「えっ?」


 私は思わずケイさんを見てしまう。

 すると、少し不機嫌そうな顔でため息をつくと、そのロゼお姉様が送り返そうとした迷い人について……、いや「白銀の乙女」について話してくれた。


 ………

 ……

 …


 かつて、この大陸での暗黒神の手先、黒神教徒の悪事を阻止していた『白銀の乙女』は五人の女性だけのパーティーだったそうだ。

『永遠の白銀』マルリー、『不可視の白銀』サーラ、『異端の白銀』ディオラ、『天空の白銀』ケイ、そして……『慈愛の白銀』ヨーコ。


 土の賢者リュケリオン、花の賢者フェリア、森の賢者ロゼお姉様。三人はグラニア帝国崩壊後、各地に逃げ、潜伏した黒神教徒の行方に注意していた。

 さすがに手負いの彼らに目立った動きはなく、その勢力も大きく減退したかのように思われてほっと一安心したのだが。


「えっ、パルテームって……」


「ええそうよ。あなたの体だった子がいたと思われる国」


 長い年月の後、いつの間にか地下組織と化した黒神教徒の潜伏先が例のパルテーム王国。

 北部諸国連合はロゼお姉様やフェリア様の目が届いていたらしいが、まさか魔国を抜けてパルテームは想定外だったらしい。

 なんとか調査だけでもと思って投入されたのが、ロゼお姉様の秘蔵っ子「白銀の乙女」なんだそうだ。


「じゃあ、その頃から五人で活動してたんですね」


「いや、最初は四人。私、マルリー、サーラ、ディオラだ」


「ヨーコはパルテームの勇者召喚で転移させられてきた子なのよ……」


 ヨーコさんを除く四人はいずれもちょっと特殊な事情で一族を離れて暮らしているところを、ロゼお姉様にスカウトされたそうだ。

 そしてその四人でパルテームに入国。表向きは魔物駆除などの傭兵稼業をしつつ、裏では黒神教徒の動向を探っていたらしい。まあ、サーラさんとか得意そうだもんね。


「それで、パルテーム王家と黒神教徒が極秘裏に勇者召喚を行うという話を仕入れてきた」


 その報せは当然ロゼお姉様にも伝わり、なんとか阻止しようと参戦したものの……


「勇者召喚を止めることはできず、現れたヨーコを確保するので手一杯だった」


 なるほど……

 ちなみに彼女の服装、白い帽子に白い服だったらしい。

 で、ケイさんもマルリーさんも手傷を負ったらしいけど、彼女がすぐに手当てして良くなったとかいう話なので……看護師さん?


「それから五人で活動してもらうことになったのよ」


 ヨーコさんの場合は『異世界転移』になるのかな。

 言葉はなんとなく通じて、ヨーコさんが勉強するとすぐに問題なくなったらしい。優秀だ。

 そして、勇者召喚で呼ばれた時に身につくと言われている加護、それは治癒の力だったそうだ。


「かなり高位の神官のみが使える部位再生も、あっさりと覚えてしまったわね」


 うん、まあ、看護師さんが望む力としては具体性がありすぎるだろうしね。

 この世界の魔素はかなり科学に近い法則性を持っている。でも、ソフィアさんがもらった翡翠ひすい神の加護みたいに、本人の強い意志で発動することもあり得る。一種の思考入力なんだろうと思ってるんだけど。


「そのヨーコさんが『元の世界に帰りたい』と?」


「厳密には『遺骨の一部を元の世界に送ってほしい』ってね」


 この世界、人間は短命な部類だ。ケイさんの翼人よくじん族、マルリーさんの巨人族、サーラさんのハーフリング族、ディオラさんのエルフ族、皆が五百年以上の寿命を持つ。それに比べて、人間は長命な人でも七十ぐらい。

 ヨーコさんはこの世界に来た時に二十歳ぐらいだったそうだけど、それから十数年『白銀の乙女』として活動し、その後はベルグの王都の教会で人々を癒し続けたそうだ。


「こっちの世界のわがままに巻き込まれたのに、あの子は何一つ文句を言わなかったわ。だから、最後のわがままぐらいはなんとかしてあげたいんだけどね……」


 ロゼお姉様の言葉に部屋の誰もが沈黙した……

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