第97話 ステップオーバーしてステップアウト?
「ふう、そろそろ行きましょう」
多分、というか、私が行こうと言わないとダメだろうと思って宣言。
私の精神的な疲れを癒すために休憩になったしね。
「ホントに大丈夫?」
ルルが私の顔を覗き込んでからそう言う。
顔に疲労は出てないと思うけど、安心させたいのでニッコリと笑った。
「大丈夫だって。さあ、行きましょ」
「ん、行こ!」
立ち上がる私にルルだけでなく、ディーも手を貸してくれる。
その様子をケイさんが……無表情で眺めているけど、多分、ちょっと微笑ましいと思ってるに違いない。
さて、とはいえ、進む先は正面しかないので、警戒状態のロックゴーレムを前進させよう。
《起動》《送信:操作:前進》
「うむ」
ケイさんが頷き、後をついていく。
明かりはディーの光の精霊だよりなので、いまいち先が見えてこないんだけど……
「む、次の部屋に繋がっているようだ」
「了解。そのまま前進させるけど、私たちは部屋の前で一旦停止ね」
「オッケー!」
五体のロックゴーレムが次の部屋へと入り、光の精霊がその頭上を追いかける。
先頭のケイさんとルルが入り口の前で立ち止まった。
「うーん、広いけど何もなさそうだよ」
「じゃ、入ってみようか。ロゼお姉様が来いって言ったんだし、妙な仕掛けとかは多分ないでしょ」
「……さっきの穴は妙な仕掛けだったと思うが」
ディー、そこ真面目に突っ込まないで!
用心はしつつ部屋へと入るが……
「確かに何もなさそうね」
「ミシャ、正面にまた通路があるようだ。風がそちらにも流れている」
うーむ、この部屋を隅々探すのはなんか違う気がする。
ロゼお姉様は「奥で待ってる」とか言ったらしいし。
「この部屋に何かいるかな?」
「いない、と思うな」
「クゥン」
ディーもクロスケもぷるぷると首を振るので何もいないのだろう。
「ルル、先へ進もうと思うけどどうかな?」
「そうだね。先が行き止まりだったら戻ってこようよ」
あ、うん、それでいいよね。
どうも単純なことを思いつかないでいる癖がまだ残ってるようで恥ずかしい。
「じゃ、進みます」
「うむ」
まっすぐ進んで先の通路へ。
一応、後ろから何か来られると嫌なので、ロックゴーレム五体のうちの一体を最後尾に回す。
しばらく真っ直ぐ進み、左に折れて登り坂、右に折れて登り坂……あれ?
「あ、外へ出ちゃった?」
うん、私にも通路の先が明るくて外な気がする。
「とにかくゴーレムを先に進ませましょ」
ロックゴーレムたちが通路を出て、少ししたところで止まった。
どうやら平地になってるようだけど。って、ルルがダッシュする。ちょ!
「おおー、外だ!」
私たちが慌てて追いかけると……
「外だけど、ここは……カルデラってやつかな?」
どうやら中腹といったあたりに出たんだと思う。
見渡す限り完全に山に囲まれて、見下ろせば森が広がり、その先には湖。カルデラ湖だっけ?
そのほとりに屋敷が建てられているけど……ロゼお姉様が住んでるのかな?
「ミシャ、何かが来る!」
ディーが空を見上げ、指差した先には大きなフクロウが。
まだ半年も経ってないけど懐かしい……
「大丈夫だよ」
私はそう答え、そのフクロウが近づいてくるのに手を振る。
そして、私たちの目の前に飛んできたところで、その姿を美女へと戻す。
「お久しぶりです、ロゼお姉様。なんとか来ました」
「よく来たわね、ミシャ。それにしても……ケイは別として一人で来るかと思ってたわ」
「え、それってどういう……」
私がぼっち人間に見えたってことです? まあ、ハズレではないし、実際、前世ではごく近しい友人(真琴ちゃんとか)が数人居ただけですけど……
「むー!」
というか、さっきからルルが私の左腕を抱え込んで離さない。
なんでロゼお姉様を威嚇してるのやら……
「えーっと、その……」
ディーがオロオロしていて面白い。いや、ごめん。こういう人なので。
とりあえず、改めてロゼお姉様を皆に紹介し、私もルル、ディー、クロスケを紹介する。
「ワフッ!」
クロスケは尻尾ふりふりでかなりご機嫌の様子。
そういや、今さらだなと思って、
「クロスケ、解いていいよ」
と許可を出すと、ウィナーウルフの金毛が姿を現し、つよかっこよくなった。
その姿を初めて見たケイさんは……おっと無表情に見えて驚いてるっぽい?
そして、ロゼお姉様は、
「ミシャ……。あなたがどんな旅をしたのか聞くのが不安になってきたわ……」
おでこに手を当ててそう漏らした。
クロスケはロゼお姉様の言いつけ通り、ゴブリンの洞窟を掃除して助けただけなのに、なぜ……
***
ダンジョンを出た山の中腹から湖の方へと下り、湖畔にあるお屋敷へと。やっぱりというか当然というか、ロゼお姉様が今住んでいる屋敷らしい。
「ここってカルデラですよね? 噴火とかあったんです?」
「ミシャの言う『かるでら』がよくわからないけど、噴火があって沈んだ地なのはそうよ」
う、カルデラで通じないのか。翻訳さんも上手く仕事ができなかった模様。
それにしても、噴火した横にダンジョン設置したってことなのかな? かなり危険な場所だよねぇ……
ほどなくして屋敷に到着。
ロゼお姉様が玄関扉を開けると、そこには……あれ?
「えっ、シルキー? いつここに?」
「ああ、この子はあの館のシルキーの姉よ」
「ミシャ様ですね。お噂は妹から伺っております」
えっ? 噂ってどうやって? いや、まあ、なんでもありな気はするけど。
そっくりで見分けがつかないから名前でも付ければいいのに、と思いつつも中へ。
重い荷物——武器とかだけど——を置き、リビングへと案内される。
「座ってちょうだい」
ローテーブルに長ソファーが二つに、私とルル、ディーとケイさんが座り、上座の一人掛ソファーにロゼお姉様が座った。クロスケは私の足元にゴロンと横になり、くぁーっとあくび。
シルキー(姉)が音もなくお茶の入ったカップを並べてくれる。
「さて、そのウィナーウルフの子の事とか、着てるローブの事とか、持ってる
「えーっと、じゃあ、ロゼお姉様が行っちゃった後から、順を追って話しますね」
これは長丁場になりそうだなーとか思いながら、私はゆっくりと今までのことを話し始めた。
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