第96話 ウォッチからのステップイン

「えーっと、この穴って誰か降りたことある人いるんでしょうか?」


 とりあえずそこからかな。

 だが、ケイさんは首を振る。


「かつていたらしいが、それももう随分前の話だ。言い伝えでは更に奥に続いているらしい」


 ということはケイさんも行ったことはないってことか。

 まあ、一人で行くような場所でもないもんね。

 奥に続いてるってことは、その先でロゼお姉様が待っている可能性があるので行かざるを得ない。

 問題はこの穴の深さ……


『石を投げて落ちるまでの時間で深さを測りましょう』


 とりあえずこれかな?

 ちゃんとした公式は覚えてないけど、確か五秒で百二十メートルぐらいだった記憶。


「ミシャ、どうするの?」


「ん、とりあえずどれぐらい深いか調べるから待ってて」


《構築》《元素》《石》


 拳大の石を作ってぽーい。カツーンと音が聞こえる。

 ……二秒ちょい?

 念のためもう一回やって、二秒半ぐらいかな?


「ミシャ、何をしているんだ?」


「落としてから地面にぶつかって音がするまでの時間で深さがわかるから」


 そう答えるとルルもディーも「???」みたいな顔をする。

 ケイさんは……うん、無表情のままですね。


「えーっと、ノティアの街壁の一番高いところから地面ぐらいまでの高さかな。明かりさえあれば、私の魔素がギリギリ届くと思う」


「むー、かなり高いね」


「ミシャが言うのなら間違いなかろう」


 ケイさんは「で、どうする?」って感じなのかな。少し読めるようになってきたかも。


「まずはロックゴーレムたちを降ろします」


「え? 壊れちゃわない?」


 普通はね。でも、私には重力魔法っていうズルがある。


「まあ、見てて。で、ディーには光の精霊をゆっくりと追従させて欲しいんだけど」


「了解だ」


 ケイさんが見守る中、私はロックゴーレム五体に無重力を付与する。残り一体はお留守番予定。

 で、持ち上がるよね?


「ルル、ロックゴーレムを抱えてみて」


「え? う、うん……。うわっ! 何これ?」


 まあ気持ち悪いよね。見た目に対して重さがゼロなんだから。


「重さが無いから、穴の下に向けてまっすぐ押し出してもらえる?」


「りょーかい!」


 ルルがロックゴーレムを下に投げ込み、それに光の精霊を追従してもらう。

 とりあえず底に魔物はいなさそう?


「お留守番のゴーレム以外、全部投げ込んで」


「うん!」


 なんか楽しくなってきたのか、ルルがゴーレムをぽいぽいと投げ込む。

 で、私は地面に着いたゴーレムに、


《起動》《送信:無重力:解除》《送信:操作:警戒》


 これでまず下の安全は確保できたかな?


「ミシャ、次はどうするのだ?」


「うん、えーっと、ケイさんは飛べるんですよね」


「あ、ああ。君らはどうするんだ?」


「私たちはさっきのゴーレムみたいにふわっと降ります」


 無重力っていう言葉が通じないのがすごく辛い。

 ロックゴーレムの無重力化でイメージは持ってもらえたと思うので、この前、宿で試したみんなで無重力化をやって、あとはディーの風の精霊に押してもらおうという考え。


「う、む、気を付けてくれ」


 さすがにちょっと心配な表情になるが、これは試したことあるので大丈夫。

 大丈夫だと思う、多分、大丈夫……


「ディー、浮いたら風の精霊で私たちを運んでね?」


「心得た。手早くやろう」


「うん、まあ、慌てずにね」


 ディーに無重力になってからどう動かして欲しいかを話し、ケイさんに少し先に降りてもらってから無重力の詠唱開始。


《起動》《魔素結界》


 ペンダントの結界魔法でパッケージングしてからの、


《起動》《無重力》


「よし、ディーお願い」


 するとそよ風が私たちを押して、スーッと穴の真上に。次に上からのそよ風が私たちを下へと押し流す。


「おおおー!」


 ルルが感激してるけど、私は魔素を切らさないように必死。

 五分持つのはわかってるけど、下の地面に早く近づいて欲しい。

 長いような短いような……三十秒ちょい。

 残り五十センチほどのところで魔法を解除した。


「はー、疲れた……」


 思わずしゃがみ込んでしまう。

 魔素はそんなに使ってないけど緊張感がやばすぎる。


「ミシャ、大丈夫? 休む?」


「ううん、平気。落としちゃダメだっていう緊張感が大変だっただけだから」


 ルルがしゃがみこんで聞き、クロスケがすりすりしてくれる。

 ディーとケイさんは……部屋の安全確保ですね。すいません……


「部屋から続く通路にも魔物はいなさそうだ」


 ディーがそう言って戻ってきたので、私も立ち上がる。

 無事、降りることができたし、まあまあ自信にもなったかな?

 と、思ったところで、ふと気がついた。


『転送先となる測位を付与した魔導具をケイさんに運んでもらって、そこに転移すれば良かったのでは?』


 ……うん、次があったらそうしよう。


「帰りもふわーっと飛べるといいなー」


 ルルが上を見てそんなことを言い出したが、ここから帰るって感じはあんまりしないかな?

 ロゼお姉様が待ってるっていうんなら、別の出口がありそうな気がする。


「無理はしない方が良い。少し休もう」


 ケイさんがそう言ってくれ、ルルもディーもクロスケも賛成ということで一休み。

 この部屋の出口は正面に一つと、上に登って元の道しかない。

 上から魔物がって線はなさそうなので、ロックゴーレムは正面出口で警戒させておく。


「ワフワフ」


 クロスケがおねだりをするので、干し肉をあげると嬉しそうにそれを食べ始める。

 私に魔素を分けるとお腹が空くのかな? そんなことを考えながら、もう一度座り直してふーっと深呼吸する。

 それにしても、このダンジョンはどれくらいの深さがあるんだろう。ひょっとしたら、中でもう一泊しないとかも?


「慌てる必要はない。ロゼ様から鐘二つほどで着くはずだと聞いている」


「な、なるほど……」


 それってあの穴を悩まずに突破できたらってことですよね。

 あれ? 普通にケイさんにピストン輸送してもらえれば何とかなったのかな?

 でも、どうも羽の揚力で飛んでるというよりは、羽が魔法を使ってるような……ソフィアさんと同じで意識すると発動する加護の部類なのかな?


「ミシャ、お茶を」


「あ、うん、そうだね」


 ロゼお姉様に会ったら、何が正解だったか聞くことにしよ……

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