トレーサビリティに難あり

第95話 デバッグ実行即停止

 日が暮れたが、ディーの光の精霊のおかげで室内はうっすらと照らされている。

 ケイさんのギルドカードを読ませてもらい、改めて白銀リストに登録したのちに、ロックゴーレムを六体作って、警備にあたらせた。


 車座になり、温めたスープとパン、干し肉をかじりながらケイさんと改めて話す。


「ディオラが怒ってなかったか?」


「あ、はい、かなり?」


 空間魔法の転送にしても、人型魔法のゴーレム生成にしても、ディオラさんは私が持つ知識を時間が許す限り吸い上げようとしていた。

 実際、ゴーレムの生成は動作AIの付与に苦労はしたけど習得してたし。


「面白いな。ロゼ様が言伝ことづてに来るだけはある」


「ロゼ様、ミシャのことなんて言ってたの?」


「そのうち弟子が来たらリーワースの廃坑ダンジョンの奥に連れてこい、とな」


 んー、マルリーさん、ディオラさん、ケイさんには会いに来てたのか。

 サーラさんに会わなかったのは、単純に王都で私にやらせたいことが無かったからかな?

 となると、カピューレの遺跡の件は本当に偶然だった? いや、サーラさんにロゼお姉様が来たかは確認取ってなかったしなあ……


「ケイ殿はこの坑道のことに詳しいのか?」


「ダンジョンと続く道までは知っている。その先は知らない」


「え?」


 驚く私たちに対し、ケイさんは特に無表情のままお茶を飲み干した。

 まあ、来いっていうくらいだし、すっごく危険ってわけではないと思うけど……


「ねえねえ、そもそもここの構造がよくわからないんだけど」


「ふむ。私の知る限りでは……」


 ケイさんがゆっくりと話してくれた内容は概ねこんな感じ。


 リーワース鉱山というのが昔あったそうだ。ラシャードという国が出来た当時、調査団が四方八方へと調査に行った先で、この辺りから銀鉱脈を見つけたそうで。

 建国したばかりということで、最初は細々とした鉱山だったが、人が増えるにつれてガンガン掘りまくり始める。で、掘った先で石壁と遭遇。

 その石壁をぶち抜いたらダンジョンだったそうで……


 それで魔物が出てきたから廃坑というわけではなく、そこはとりあえず立ち入り禁止にしたまま、他を掘ることにしたそうだ。

 で、あらかた掘り尽くしてしまい、これ以上、ダンジョンを避けて掘り続けるのも難しいという話になって廃坑に。

 それまでに産出した銀でラシャードは商業国家としてやっていけるようになったし、藪を突いて蛇を出す必要もないだろうと。


「ん? ということは、ダンジョン自体はほとんど調査されてないんですか?」


「うむ。ここは街からも遠く、人も住んでいないので、魔物が多少出ても被害などない」


 何でそんなところに来いなんて話になるんだ……

 ロゼお姉様が何を考えているのか、今回はさっぱり想像がつかない。


「むー、街に覇権ギルドもあったし、ダンジョン探索に来たい人とか多そうなんだけど」


「そうだな。ベルグの王都と同じくらい大きくて人も多かった」


「明日、坑道の奥からダンジョンに入ればわかる」


 ケイさんがそう言って、ほんの少しニヤっとした気がする。

 うーん、いったい何だろう……


***


 朝の一の鐘で起きる。もとい、起こされた。

 腕時計の振動でルルが一番スカッと目覚め、ケイさんとディー、クロスケがそれに気づく。

 私はいつも通りルルとクロスケに起こされるパターン。


 朝ご飯はパンとフリーズドライのスープを戻したもの。

 スープのもとを保存するのに真空パックが欲しかったんだけど、毎日ちゃんと乾燥させてる分には大丈夫そう? まあ、雨に濡れたりしなければかな。


「美味しい……」


 ケイさんもご満足いただけてるようでなにより。作ったのはディーのお母さんですけど。


 それを済ませたら、さっそく出発。

 ロックゴーレムは前三体、後ろ三体に分けて進軍させる。


「安全なのはありがたいが、警戒心を無くしそうだ」


 ディーのお言葉をいただく。まあ、うん、確かに。

 とはいえ、ディーも私もクロスケも警戒を緩めているつもりはない。


「そこは右」


 坑道だけあって、網目状に分岐した道をケイさんの指示で進んでいく。

 私たちはダンジョンに繋がる場所にお任せするしかない。


「ここだ」


 朝の三の鐘が鳴る前にそのダンジョンとの接続部に到着した。

 さすがに申し訳ないと思ったのか、鉄製の扉が設置されており、その手前にいつもの立て札がある。


「ここがダンジョンの正規の入り口ってわけじゃないんですよね?」


「うむ」


 ケイさんは返事もそこそこにギルドカードをかざして扉を開ける。

 ロックゴーレムに先行……は必要ないのかな。


「照らしてくれ」


 ディーの光の精霊が扉を潜り、中を照らす。

 部屋は野宿した管理室ぐらいの大きさで、通路が二本続いている。


「左側の通路は登っていって山の中腹に出ている。そこが正しい入り口かもしれない」


 とのこと。このダンジョン、どういうタイプなんだろう。

 魔物を回収するようなダンジョンなら敵が出てくる可能性もあるので、右側の通路にロックゴーレムを先行させる。

 ん? ケイさんが何か言いかけたようだけど?


「よーし、行くぞー!」


「ワフッ!」


 ルルとクロスケが気合いを入れ直してケイさんに続く。

 うーん、気になるけどまあいいか、としばらく進んだところで……


「あれ? 行き止まり?」


 ロックゴーレムたちが立ち止まっている。

 私たちもすぐに追いつき、そこが何かを確かめるんだけど、


「な、何だこれは……」


 ディーが雑魚っぽい驚きかたをしてるけど、私も同感。

 さっきと同じ大きさの部屋があるんだけど、その中心部分に四角くすっぽりとした穴。


「これがこのダンジョンが不人気な理由」


 ディーの光の精霊はそれなりの光量があるんだけど、穴の底は真っ暗で見えない。

 ということは、それなりの深さがあるってことだよね。


「これ、どうするの?」


 いや、ホント、どうするのこれ?

 それっぽい梯子とかが付いてれば、頑張って降りるっていう選択もあるんだろうけど。


「私は降りられる」


 ケイさんがそう言って自身の翼を広げる。

 な、なるほど……


「でも、下に魔物がいたりしないんですか?」


「ああ。なので、考えて欲しい」


 これも含めてロゼお姉様からの試練ってことなのかな……

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