第94話 システムメタファ

 ラシャードの王都ラシーンの東門を出て、リーワースの廃坑ダンジョンへと向かっている。

 ケイさんの問答無用なお誘いを断ることもできないし、断って別に何かあるわけでもないので。

 ただ、さすがに宿にはリーワースに行くので、しばらく戻らないかもとだけ伝えさせてもらった。


「ん、そういうのは大事」


 ケイさんもそう言って賛成してくれたので良かった。

 というか、この人、無愛想とか無感情とかではなくて、単なる口下手なのでは?

 まあ、こういう人はルルが一番相性がいいと思う。下手に気を使ったりしないタイプ。


「ねえねえ、リーワースまでどれくらいかかるの?」


「日が暮れる前には着く。入り口で野宿するが大丈夫か?」


「問題ない、です」


 ディーはまだうまく距離を測れてない感じ?


「気を使わなくていい。君はディオラの姪だそうだな。よく似ている」


 無表情で言われると反応に困るよね、普通は。

 でも、ルルは全然気にしてないというか、


「だよねー。ディオラさんのこと、伯母上って呼んでたら怒ってたよ」


「ははは。心はまだまだ白銀の乙女だからな」


 ホント強い。

 まあ、おかげで気を使う必要はないのはわかった感じかな。


「それでミシャ。君はロゼ様の妹分らしいが、どれくらい魔法を使える? ディオラは君のことを規格外だと書いていたが、実際に見せてくれるか?」


「うっ、そこまで書いてあったんですか……。じゃあ、そうですね」


 東門を出て鐘二つ、二時間ぐらい歩いたところ。

 北側は腰丈ぐらいの草原だし、南側は休耕畑で周りに人はいない感じ。

 なら、大丈夫かな?


《起動》《飛行》


 長杖ロッドに横掛けしてすいーっと飛行。魔素は減るけど回復分があってプラマイゼロ。

 うん、これ楽だー。自重が無くなってるからお尻が痛いとかもないし。

 ただ、座りっぱなしは体……腰が痛くなる可能性があるから、ほどほどにしとかないとね。


「ミシャ、ずるい!」


「運動しないと足腰が弱くなるぞ」


 ごめんなー、これ青系魔素専用なんだー。

 一度言ってみたかった台詞。実際に言ったりしないけど。


「あれ? ケイさんは?」


 と、振り返ると、足を止めて茫然と立ち尽くしている。

 うん、表情変わるところ、初めて見たよ。


***


 草原と野菜畑に挟まれた道はなだらかな登り坂になり、やがて山道へと変わっていった。

 道中はほとんど、ルルがケイさんと話していて、時々、私やディーが補足を入れる感じ。

 ケイさんは私の魔法に驚いたあと、マルリーさんのお世話になる頃から話して欲しいとの事だったので、ルルにほぼ丸投げした。


 で、途中で二度ほど休憩を挟んで、日が傾き始めた頃……


「ん、到着だ」


 山道の終点の崖、目的の入り口にようやっと到着。

 そこはかつて、リーワース鉱山と呼ばれていたそうだが、鉱石を求めて掘り進めているうちにダンジョンに通じてしまったらしい。


「皆、鍛えているな」


「任せて!」


「ワフッ!」


 ルルはまあ当然として、ディーもクロスケも元気だ。そして、私は……疲労困憊です。

 さすがに飛行でずっとついていくのはズルかなと、自分の足で歩いたけど……辛かった。

 カピューレの遺跡への行き帰りで歩いた時に、少しスタミナついたかなと思ったけど気のせいだったかなあ。


「野営は外です?」


 かつて鉱山の入り口だっただけあって、結構開けてはいるんだけど、その分、樹々も無くて殺風景だ。


「入ってすぐのところに、昔、坑道の出入りを管理していた部屋がある。そこがいいだろう」


「なるほどです」


「ディアナ、光の精霊は出せるか?」


「はい」


 入り口から続く坑道部分はダンジョンではないし、放置されたままだということで真っ暗。ディーの精霊に照らしてもらわないと厳しい。


「光の精霊よ」


 ほわっとした淡い光が坑道入り口から少し先までを照らすと、少し入った右側に扉だった感じのものがあり、どうやらそこがケイさんのいう管理部屋かな。


「うむ」


 ケイさんが進み、私たちも後を追う。

 部屋の四隅にはしっかりとした石柱が別途据えられていて、崩れる心配はなさそう。

 床は板張りになっているが、砂埃で覆われていてあまり綺麗な感じではない。


「風の精霊よ」


 掃き掃除でもしようかなと思ったら、ディーがあっさりとそれを綺麗にしてくれる。

 なら、私も、


《起動》《清浄》


 見た目に綺麗になるわけじゃないけど、これで妙な菌とかはいなくなる、はず。


「優秀だな」


「へへー」


 何もしてないルルが得意げだが、可愛いので許そうと思う。

 さすがにここで火を起こすわけにはいかないので、お茶でも入れようかなと思ったが、その前にケイさんから注意が入る。


「さて、ここで一泊するが、見張りは交代制でいいか?」


 あ、あー……。うーん、一応聞いてからにするかな。


「ここって、今から他に誰か探索に来たりしますか?」


「ふむ、それはないだろうが、坑道の奥に魔物がいるかもしれない」


「ゴーレムに警備させちゃダメですかね?」


 私の言葉にケイさんがぴくりと片眉をあげた。

 ルルから話は聞いてたと思うんだけど、話半分だったのかな?


「……そのゴーレムの強さを見て決めよう」


「確かにそうですね。じゃ、ちょっと外へ」


 荷物は部屋に置き、皆で外に出る。

 確実に硬いのはアイアンゴーレムだけど、この辺は岩がゴロゴロしてるし、ロックゴーレムが一番コスパがいいかな?


《起動》《白銀の守り手:岩》


「む……」


 ケイさんが槍を構えた。準備オーケーということだろう。


「行きます」


《起動》《送信:操作:攻撃》


 ロックゴーレムがゆっくりとケイさんに向かうと、右の拳を振り上げて襲いかかる。


「ふむ」


 が、あっさりと槍先でいなされた。

 何ていうか達人っぽい動きなんですけど……


「はっ」


 そして踏み込んで胴体へ一突き。

 あまり力を込めて無いように見えたそれだが、あっさりとロックゴーレムの胴体に風穴を開ける。

 間違いなく身体強化を使ってるっぽいし、あの槍もそれに呼応してるっぽい?

 ルルがキラキラした目で「手合わせしたい!」って顔してるし、何にしても……


「ケイさん、強すぎです」


「ふむ。だが、魔素は余裕のようだし、一体しか出せないわけじゃないだろう」


「まあ、そうですけど……」


「なら、坑道の奥に四体、入り口側に二体出せるなら、夜の見張りは不要だ。ゴーレムが交戦して物音が立てば目が覚める」


「ワフッ!」


 クロスケが「ボクもボクも!」と言ってくれ、結局、六体のロックゴーレムを警報機がわりに置くことで夜の見張りはなしとなった。

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