幕間:魔法世界のコーディング規約:5

【お金の話】


 この世界には統一した貨幣がある。

 銅貨、大銅貨、銀貨、金貨、白金貨。それぞれが百円、千円、一万円、十万円、百万円ぐらいの相場感だけど、そもそも生活レベルが高くないので、年収で金貨十枚あれば十分にやっていけるらしい。


 で、疑問に思ってたのがこの貨幣。きっちり統一された単一通貨である。金本位制なのかどうかはわからないけど、信用経済ってわけではない……よね?


「この銅貨とかってどこかの国で作ってるんだよね?」


「ううん、違うよ」


「えっ?」


 いやいや、国が作ってなかったら誰が……


「ああ、ミシャはこっちの世界のお金については知らないのだな」


 親切なディーがこの世界のお金について話してくれた。

 なんと、それぞれの硬貨はずーっと昔からあって、新しいものはダンジョン産らしい……


「えーっと、金貨や銀貨や銅貨が落ちてるダンジョンがあるってこと?」


「落ちているというと語弊があるな。宝箱の中に詰まっているものが見つかったりするらしい」


「それって、そのダンジョンがある国が強くならない?」


 金貨を掘り当てられるダンジョンを領地に収めてれば、そこを探索し続けてれば延々と上がりを手に入れることができるわけで……


「すっごくたまに見つかるだけなんだって。じーちゃんも昔見つけたことがあるって言ってたから、ボクたちも見つけたいね!」


 うーん、納得行くような行かないような。

 既にこの世界、もしくはこの大陸に十分な貨幣が出回っているから、価値が崩れないようにそれ以上は増刷しませんって差配なんだろうか、神様の。


「でもさ、お金を誰かが一人で貯め込んでたら、世の中からお金がなくなっちゃわないの?」


「そんな大金持ちいないよ?」


「いくらミシャでもそれは無理だろう」


 えーっと、ディーは何を言ってるの?

 ともかく、実際問題として現時点で世に出回っている貨幣を全て集めるのは不可能だとは思う。でも、一部の裕福な層がその流通を抑えるだけで、市井経済は困るのでは?


 ……いや、困らないか。

 前世ではに住んでたけど、お米も野菜もご近所で融通しあってて、そこに貨幣の存在はなかった。

 もちろん、電化製品とか『工業製品』の購入には貨幣は必須だったが、そもそもこの世界には『工業製品』がほとんどない。


 強いて挙げれば魔導具がそれにあたるけど、そもそも魔導具を作れる職人が少ない。

 魔導都市リュケリオンは、ただ古代魔法の一部、理解できる部分だけを愚直に磨いているだけだった。それによって生み出せる魔導具を取り扱うブローカー的存在でしかない。

 その魔導具だって極端な話「じゃ、麦を十袋で」という取引も成立しうる。


「なんでみんなお金を使ってるんだろ……」


「持ち運ぶのに便利だからだと思うよ?」


 うん、そうでした……



【魔石の話】


 魔石。この世界の人はみんな魔素を扱う臓器、魔臓を持っているらしい。多分、今の私にもあるんだろうと思う。

 ルルに聞いたら「この辺だって聞いた」っておへその右側を指された。それ盲腸なのではと思ったけど、前にカピューレの遺跡にいた虫とかも持ってたし、なんか別なんだと思う。多分。


 で、ダンジョンに潜ればだいたいゴブリンとかがいる。王都の北東の森だって、ちょっと(クロスケが)探せばオークが出てきたりしたし、魔石は割と供給されてる気がする。


 魔石を魔晶石にするには、教会に行って浄化を頼む必要があり、これには売値の一割ぐらいを喜捨する必要があるらしい。

 ルルと私で倒したオーガロードの魔石、白金貨十二枚だと金貨十二枚、日本円で百二十万が教会に渡ることになる。


 ……教会、かなり儲かってる?


 なんてことはなくて、実際にあのサイズの魔石の浄化なんて極々稀なことらしいし、普段はゴブリンなんかのビー玉サイズの魔石を浄化して銅貨一枚をもらうぐらいだそうで。

 それで、神官さんやシスターたちが生活し、孤児院とかも運営し、病気や怪我もほぼ無償で治すとかいう話なので……儲かってるとか言ってごめんなさい。


 話を魔石に戻して。

 そうやって浄化された魔晶石、ベルグからリュケリオンに売られ、魔導具に利用される。主に放っておいても効果が出続けるようなもの、例えば照明がわりの魔導具なんかに。

 そして小さい魔晶石は魔素の補充を繰り返すと壊れるらしい。具体的にいうと割れたり欠けたりして容量が減ってしまうらしい。充電できる乾電池みたい。


「エリカのあのお屋敷には魔導具たくさんあったよね」


「そうだな。さすがはというか王族ならそんなものだろう」


「じーちゃんやとーさんのお屋敷は最低限しかないから、ボクもびっくりだったよ」


 エリカの住んでる屋敷、夜でも廊下は明るいし、玄関には門灯が煌々と輝いていたりとか、派手ではないけど凄かった。

 ベルグの王都は貴族街はもちろん、主要道路には街灯があったし、あれも魔導具で魔晶石に魔素を注いで交換してたりしたんだと思う。


 一度、ああいう便利に慣れると、それなしの生活には戻れなくなるんだよね。

 まあ、街灯なんかは犯罪の抑制にも繋がるとか前世で聞いた覚えがあるので、どんどん設置するべきだろうなーとは思うけど。


 私がもし何から新しい魔導具(例えばエアコンのようなもの)を作ったとしたら、貴族のみなさんに飛ぶように売れるんだろうなーとか。

 けど、オーバーテクノロジーは出来るだけやらないでおこうと思う。どういう理屈で動作してるのか誰も理解できないものは特に。

 放射性物質をバケツで汲んでました、みたいな話は前世で懲りたしね……

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