第90話 マイルストーンは未達だけど

「それじゃ、お世話になりました」


「わかってるとは思うけど気をつけてね」


 私たちはディオラさんに見送られ、ラシャード王国の首都ラシーンへと旅立つ。

 そっちに向かう荷馬車に便乗したいなと思っていたら、ちょうどベルグからリュケリオンに来たときに知り合ったおじさんが行くらしいので乗せてもらうことに。

 ……偶然だよね? クロスケが懐いてるから問題ないと思うけど。


 日程は三泊四日。それぞれ小さいながらもラシャードに属する宿場町だということなので一安心。

 今回は特に寄り道もせずに真っ直ぐに向かうので、いよいよロゼお姉様と再会……とうまくいけばいいんだけど。


 ディオラさんから『白銀の槍』ギルドに行くといいと言われているし紹介状も預かっている。

 マルリーさんとサーラさんの手紙も返され、紹介状と一緒にギルドマスターに渡しなさいとのこと。

 そのギルドマスター、翼人よくじん族の女性で看板通りの槍使い、お名前はケイさん。ロゼお姉様がラシャードにいるというなら、彼女経由で連絡が取れるんじゃないかと。

 まあ、行ってみて、会ってみて、かな。


「一週間、あっという間だったね!」


「そうだな。だが、随分と中身の濃い一週間だったんじゃないか?」


「いろいろとあり過ぎた感じだよ……」


 荷馬車の後ろのスペースに並んで腰掛け、遠ざかる魔術士ギルド本部の塔を眺める。

 確かに中身の濃い一週間だったかな……


***


「えーっと、反応に困るんですけど」


 フェリア様に渡されたのは『古代魔法陣による勇者召喚の手法と実践』という本。

 タイトルだけでもインパクトがあり過ぎて、これをどうしろとっていう感じなんだけど……


「別に其方そなたに勇者召喚をしろとってるわけではない。気づかんのか? ダンジョンで飛ばされた時には冷静で頭の回転も良かったというのに」


 えっ? これを読んで何か?

 んんん??


「ああ! そういうことですか。勇者召喚が私の元の世界からの召喚なら、その魔法陣には異世界を測位する術式があるはずだと……」


「その通り。ロゼがかつて調べていたのを記憶していたのでな」


 かつて調べていた、か……

 ロゼお姉様、いったい何のために調べてたんだろう。


 ………

 ……

 …


 私とディオラさんを残して、他のみんなはロゼお姉様の部屋のリビングで寛いでいる。

 ルルとディーに私と出会ってからここに来るまで何があったか、どんな旅だったかを、フェリア様に伝えてもらっているところだ。


「うーん……」


 例の本を一通り流し読みした私は、それを元あった場所に戻した。

 正直、百点の資料ではなかった。というのも、その肝心の魔法陣そのものは書かれていなかったから。

 他の本に没頭しているディオラさんを置いて、私もリビングへと戻る。


「参考になるような記述は無かったか?」


 ソファーに寝そべるクロスケに腰掛けていたフェリア様がそう聞いた。

 収穫がゼロというわけではないけど、知りたい情報の手がかりは掴めた感じかな。


「とりあえず足らないものはわかりました。次元魔法が足りないってことだけは……」


 やはり今の世界と元の世界を繋ぐには高次元を経由しないとダメらしい。

 で、高次元って何? x,y,zの三次元はわかる。これに時間tを加えて四次元とする考えや、時間は次元に数えないだろっていう考えだったり、そこから先は不明。

 っていうか、それが理解できるような頭脳をしてたら、派遣でSEとかPGとかしてないよ!


「ふーむ、我も聞いたことがないな。そもそも『じげん』とは何だ?」


 デスヨネー。

 この世界の人たちは科学知識が経験則でしかないので、次元という概念そのものがわからない。

 元素や空間といったことなら、身近に感じられるから理解はできるけど、次元なんて定義みたいなものだよねえ……


 一次元、二次元、三次元の説明をざっくりとフェリア様とルルたちにしてみたが、みんな何とも言えない顔をしている。


其方そなたが元いた世界はそんなに頭を使わないと生きて行けなんだのか?」


 そんなことを言われる始末。

 別に次元が何か知らなくても生きて行けますけどね。


「じゃあ、実際にその勇者召喚の魔法陣をミシャが解析できればいいんだよね?」


「うっ、まあ、そうだけど……あんまり勇者とかに関わりたくないよ……」


 パルテームが勇者召喚をしたとかどうとか聞いた記憶はあるけど、あそこは私の元の体の持ち主が逃げ出した?国だし。

 だいたい、召喚された勇者ってチートもらってハーレム生活してるんじゃないの?(個人の感想です)


「まあ、ひとまずはロゼ様に会いに行くのが良いんじゃないか?」


「そうだね。とりあえずそれで。手紙は出したいけど、そのために命を張るのは無しね」


「それがよかろう。パルテームに行かず、別の手掛かりを探す方がマシだな」


 ということで落ち着いたんだけど、さて、どうなりますかね……


***


 道が曲がり、リュケリオンの高い塔が視界から消えた。


「ラシャードはどんな料理があるか楽しみだね!」


「うむ、そうだな。ベルグやリュケリオンとはかなり違うらしいぞ」


 ほうほう、それはちょっと気になりますね。

 ベルグの王都にいた時にもう少し調べておけば良かった気がするけど、他所の国の風土についての本とかって……なさそうだよね。


「そういえば、ラシャードもベルグと同じくらいの歴史の国なんだよね?」


「私が聞いた限りでは、ラシャードの建国はベルグとほぼ同時期だそうだ」


 やっぱり、リュケリオンが独立国家となったあたりと関係してそうな気はする。

 北部諸国連合だっけ? 今も絶賛戦国時代らしいけど、そういうのに嫌気がさして未開地へっていう感じなのかな。


「ラシャードってリュケリオン以外の国とも接してるんだよね?」


「ああ、確か海岸沿いを北に進むと、北部諸国連合の西の雄ウォルーストだ」


「ラシャードの次はウォルースト?」


 ルルが無邪気に聞いてくるが、さすがに一度は王都に戻らないとなと思ってる。

 戻ったら戻ったで、エリカあたりに「領地を用意したのでよろしくな!」と言われそうな気もしなくもない……


「ラシャードの次はベルグに一度帰るからね」


「えー!?」


「旅ばかりしてるとそれが普通になっちゃうからね。たまに家に帰って『やっぱり家はいいな』って思って、でもまた旅に出ると楽しいよ?」


 ルルとディーがそれを聞いて「なるほどー」ってなってるので内心ガッツポーズ。

 でもまあ、一度帰っておきたいのは事実。だって、いざと言うときに一瞬で帰れるように転送先の付与をしときたいんだもん……

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