第86話 バックドアの方から来ました

 管理室の入り口の方を見たが、どうやらここにゾンビが押し寄せる心配はなさそうだ。

 アイアンゴーレム達もここには入れないんだけど、どうやら入り口付近で防衛に専念している模様。

 これ、ほっとけば雑魚は全部倒してくれるのでは? と思ったが、そうすると私がずっとここにいないといけなくなるんだった……

 このフロアの問題は後で解決……してもらうとして、とにかく帰るのが先かな。

 いや、その前に清浄の魔法かけよう。ゾンビに触られてはないけど気分的な問題。


「さて、ダンジョンコアに転送してもらえるか聞いてみますね?」


「ふむ。我にもちゃんと説明せいよ?」


 わかってますって。


『私たちをダンジョン所定の場所に転送することはできる? 具体的には……』


 あの入り口の測位点のGUIDを伝える。

 これで転送してもらえるといいんだけど……


『回答します。本ダンジョンには任意の転送機能は存在しません』


『やっぱりか。外というか地上の魔物を回収してるのは、あの坂の魔法陣と同じようには無理?』


『回答します。機能として固定された存在のため、地上からあの魔法陣に転送する以外の使用は不可能です』


 これはまあ想定内。ノティアのダンジョンコアもそう言ってたし。

 とりあえずそれをフェリア様に伝える。


「ふーむ、ままならんの。いや、待て。ならあの部屋の魔法陣は誰が作ったのだ?」


「ですよね。ちょっと聞いてみます」


 可能性としてはロゼお姉様? いや、でも、あんな即死コースを作って放置するとは思えない。いくら私を優秀だと思ってくれていても……


『第一階層からこの階層への魔法陣を書いたのは誰?』


『回答します。今から八百十二年前、グラニア帝国の魔術士ヘルト=ゲフナーにより書かれました』


 どんだけ前なのよ、それ……


『記録映像があればこの辺に』


 私が手で指し示した空中にスクリーンが投影され、壮年の男性魔術士が魔法陣を書いている様子が再生される。


「グラニア帝国?のヘルト=ゲフナーって人らしいですが、フェリア様はご存知です?」


「ああ、知っておるぞ。我の生まれ里、妖精の森を焼いた張本人よ……」


 いきなりの動画再生に驚いたフェリア様だったが、私の質問に妖精らしい可愛い顔を渋面に変えて答えてくれた。

 嫌なことを思い出させて申し訳ない気持ちはあるが、私にどうこう言える問題でもない。


『この魔法陣がどう使われていたかわかる?』


『回答します。設置後の利用記録を検索中……検索完了。再生します』


 その答えとともに再生された映像はなかなかにショッキングな映像だった。

 捕虜となった兵士?民兵?と思われる人たちが、黒い甲冑の騎士達に槍で追い立てられている。そのまま魔法陣へと追い込まれ、転送した先では魔物が……


『消して!』


 映像が消え、私は思わず天を仰ぐ。


「最悪すぎる……」


「下衆の極みだな」


「ワフゥ……」


 クロスケが私を慰めるように頭を擦り付けてくれる。

 荒んだ心がふわふわのもふもふで癒され、私は気を取り直すことができた。


『あの部屋にある扉というか蓋というか、それを設置した時の映像があれば再生して』


『回答します。該当する記録を検索中……検索完了。再生します』


「ふむ、やはりロゼか」


 転送陣がある手前の部屋で、その入口二箇所に転送先を付与しているのは間違いなくロゼお姉様だ。

 加えて数人の巨人族があの蓋の外側が壁に見えるかのような作業をしている。

 一度、奥に扉を転送し、隙間がないのを確認して、最後に手前側に転送する。通路から見れば、ただの行き止まりにしか見えなくなっていて、なるほどねーと。


「でも、なんでこんなややこしい構造にしたんでしょうね。最初の場所をガッチリ塞いでおけばそれで良かったと思うし、それ以前に魔法陣消せばいいんじゃ?」


「それは何ともだが、其方そなたのような者に判断を委ねたかったのだろう。あやつは昔から可能性を無くすような選択をせぬ。どういう思惑があるのかわからんがの……」


 うーん、確かにそう言われてみれば?

 言い方は悪いけど、私に丸投げしてる感じはあるよね……


「横道にそれちゃいましたが、どうやって帰りましょうかね?」


「ふむ、其方そなたが転送魔法で我らを送るしかあるまい。先程の魔法陣、其方が知らぬのは結界魔法だけのようだが、概要はわかったのではないか?」


 確かに推測ではあるけど、大まかな理屈は理解できた、と思う。


「そうですね。まず結界を張って中の対象を保護。その結界ごと転移。重力魔法は転移先が空中だった場合の安全装置。じゃないかなと……」


「さすがロゼの妹よの。我の見立てと同じであれば間違いはなかろう。だが問題は……」


「結界魔法と重力魔法の両方を維持しつつ転送ってことですよね」


「うむ。できるか?」


 詠唱だけでやれと言われるとキツいけど、私には魔法付与を間違えないという利点がある。

 結界魔法と重力魔法を杖で発動状態にしてればいい。


「結界魔法の術式がわかれば行けると思います」


「よし、特別にこれを解析させてやるので、肌身離さぬ物に写しておけ。あまり他人には言うなよ」


 フェリア様が小さい小さいペンダントを首から外して渡してくれる。

 めちゃくちゃ大事そうなものなので怖い……


《起動》《解析》《付与》


「ありがとうございます。私のペンダントに写させてもらいました」


 肌身離さぬとなると指輪かペンダントだが、大きさ的にも余裕があるのはペンダントの方だ。以前は術式メモとして使ってたけど、今は魔素手帳の方に写してあるし。


「ほう、お揃いとはなかなか殊勝な心がけだな。これで我も其方そなたの姉だな」


 ニヤリと笑うフェリア様。また余計な姉を増やした気がしなくもない……

 さて、後は実践。


《起動》《魔素結界》


 ペンダントの結界魔法を起動して、私とフェリア様とクロスケをパッケージング。


《起動》《無重力》


 杖の重力魔法を起動して結界内全体の重力を消す。転送される時に一瞬感じる浮遊感はこれだったんだね。

 そういえばログアウトしておくべきかと思ったけど、ここを出たら自動ログアウトだったはずなので問題ないかな。


《構築》《空間》《転送:89442E8A-E62A-4296-8EAD-50D9221C4098》


『管理者がログアウトしました』


 そう聞こえた次の瞬間、私たちは元の部屋の入り口へと戻っていた。

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