そんな機能いつ使うの?

第87話 再現できませんということで

 現れたのは想定通りの場所なんだけど若干浮いていた。

 私が張った結界の中心点が、設置された時の蓋の中心点に合うように転送されたからだろう。

 そして、こういう時の為に重力魔法が掛かってる、と。


「っと」


 魔素結界と無重力をオフにして地面に着地。

 肩口ぐらいの高さまで浮いてたけど、まあこれくらいの高さなら余裕。


「ミシャ!!」


 はい。予想通りのルルのダイブが来たので、それをいなすように受け止める。

 ぐるんと一回転半したところでルルが着地。


「ミシャ! わ、私は信じていたぞぉ!」


 ディーが涙と鼻水でぐだぐだの残念エルフで飛びついて来たので避ける。きちゃない。

 そのままずでーっと転んだのをクロスケが前足でぽんぽんしている。


「ミシャ、フェリア様。無事で何よりです」


 ぐったりした様子のディオラさん。二人のお守り助かりました、ホント……

 精神的にお疲れって感じなので、今日はさっさと撤退かな。


「心配を掛けたようですまぬ。さて、ミシャよ。あの魔法陣はどうする?」


「消しましょう」


 即答した。

 あのフロアに直通っていう利便性もあるけど、例の記録映像を見てしまうとダメだ。

 またあんなことが起きてしまう可能性を残したくはない。


「ふむ。我も賛成だ」


 展開についていけてないディオラさんだが、問い質そうという気力がなさそうだ。

 ルルは私にくっついたままだし、ディーは……かさかさするのはやめなさい!


《起動》《付与消去》


 そう唱えると魔法陣が跡形もなく消え去った。

 ほっと一安心だが、あのフロア……多分、最深部だと思うけど、あそこにいたドラゴンゾンビはかなりまずい気がしなくもない。


「では帰るとするかの。飛ばされとった間に何があったかは帰りにおいおい話そう」


「はぁ、了解しました……」


 うん、ディオラさん、ごめんなさい。

 けど、ここで長々と話をしてもしょうがないし……


「ミシャ。ここを出るのなら、あの蓋はどうするのだ?」


 残念エルフから優秀エルフに復活したディーが忘れかけてたことを指摘してくれる。

 うーん、どうしよ。改めて蓋をする必要もないような……いや、ダメだ。


「私たちがいない間に誰かここに来た?」


「いや、誰も来てないな」


 なら、オーケー。

 昨日も蓋を退けたのは確認されてないし、この先のことを知っているのは今いるメンバーだけだ。

 それに、正直、蓋を開けたことをディオラさんとフェリア様以外に説明するのは苦痛……


「じゃ、元通りにしとくよ。ここは開かなかったってことでいいですよね?」


「……まあ良かろう。この先に何かあったのならともかく『何もなかった』のだからな」


 フェリア様がそう言うと、ディオラさんも察したようで頷く。

 そのうち、この蓋は開けるのではなく転送すると気づけば開いてしまうとは思うけど、その先の部屋には『もう』何もない。

 部屋の左側に作った転送先の付与は残しておいていいかな。ヒントってことで。


「じゃ、さくっと転送して帰りましょう」


 私はルルに後ろから抱きつかれたまま、蓋を元の位置に転送した。


***


「さて、そろそろ何があったかお話いただけます?」


 馬車に乗り、少しペースを取り戻したディオラさんがそう問いかける。

 フェリア様が私に目で合図をするので、仕方なく私が話すことになった。まあ、あのフロアが最深部で管理室に繋がってる可能性に気づいたのも私だしね。


「えーっと、転送された先なんですけど……」


 ………

 ……

 …


「というわけで、ダンジョンの管理室に逃げ込んだ後、フェリア様に結界魔法を教わって、転送魔法で戻ってきたわけです」


 説明を終えた反応。

 ルル、私の腕を抱え込んだままで聞いてたのか不明。

 ディー、うんうんと納得のご様子。

 クロスケ、足元でくぁ〜っと大あくび。

 ディオラさん、……ギギギと首を捻って、肩に座っているフェリア様を凝視。


「ミシャの説明した通りだぞ?」


 その返事にガックリとこうべを垂れる。

 まあ、聞いただけで信じられる内容でも無いと思うけど。


「しかし、大量のゾンビとは……。スレーデンの遺跡のダンジョンは余り探索されていない?」


「ええ、そうね。隣のテランヌ公国は東に隣接するヴァヌ王国と国境紛争で揉めているわ。なので、傭兵は常に東側に張り付いている感じね。あそこに探索に来るのは、それに嫌気がさした人たちが多いのだけど、リュケリオンは魔術士以外にはね……」


 なんともめんどくさい話。

 正直、入国に関して毎回の銀貨一枚をやめれば、もう少し人も集まりそうなものを……


「ノティアは不死者の氾濫はんらんっていうのが百年に一度起きてるそうですけど、こっちはそういうのはないんですか?」


「似たようなことが起きてるという話は聞くわ。ただ、四方八方に分散するから、氾濫はんらんというよりは大量発生ぐらいの受け止められ方ね」


 なるほど……

 ノティアの場合は進行方向が街……人がいるのがノティアの街だけに限られてるからなのかな?

 実は東のパルテームの方にも発生している?


「そろそろリュケリオンも潮時かのう……」


「フェリア様!?」


「戯言だ。忘れよ」


 そう言ってディオラさんの肩を離れ、私の肩——ルルがくっついてない方——へと着地する。

 思うところはいろいろあるんだろうなとは思う。ただ、先にロゼお姉様が逃げちゃったから、今さらという感じなのかな。


「ロゼお姉様って、昔はリュケリオンにいたんですよね? なんで出て行っちゃったんです?」


其方そなた、詳しくは知らんのか?」


「ええ、シルキーにロゼお姉様が魔術士ギルドを嫌ってるとしか」


 今思えば、シルキーのその言葉も一面しか捉えてなかったんだろうなとは思う。

 ナーシャさんやディオラさん、マルセルさんといったちゃんとした人もいるし。まあ、私を勧誘したようなおっさんもいたけど、少なくとも本部の受付にいた人たちは普通だった。

 シルキーが自宅に戻ってきたロゼお姉様の愚痴だけを記憶していたんだとしたら、それは正しくもあり誤りでもある。

 前世でも「好きの反対は嫌いではなく無関心」というのはよく聞いたけど、ロゼお姉様はなんだかんだ言いつつもリュケリオンが好きだったんだろう。多分、今だって気になってはいるはず……


「まあ、よかろう……」


 フェリア様はそう言うと、少し遠い目をして語り始めた……

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