第85話 フレームワークが同じでした

【MainThread】


「おっと」


 手のひらの上に魔素手帳が降ってきたので慌ててキャッチ。

 どうやらちゃんと気づいて連絡は取れたようだ。


「あやつらは大人しくしとるかの?」


「大丈夫だと思います。まあ、都度連絡してあげないと不安がるとは思いますけど……」


 とはいえ、今の状況はあんまり伝えたくはない。

 今のこの状況を知ったルルが騒ぎ出すとディーじゃ止められないだろうし。


 それよりもうっすらと伺える巨大なアンデッド。あれっていわゆるドラゴンゾンビなのでは。

 こちらに気づいていないからなのか、それとも警戒ラインに入っていないからなのか。今のところは全く動く様子がない。

 フェリア様には余り照らさないように頼み、アイアンゴーレムも護衛専念のままで、アレを刺激しないように気をつける。


「さて、どうするか。戻って逆に進むか?」


「うーん、ちょっと確認したいことがあるので、もう少し、ギリギリまで明るさを絞ってもらえます?」


「それはかまわんが……どういうつもりだ?」


 怪訝なフェリア様にノティアのダンジョンの件を簡潔に伝える。

 要はこのまま壁づたいに行けば、どこかにダンジョンコアがある管理室へと続く幻影の壁があると思うんだけど……


「聞いたことのない話だが、其方そなたが言うのであれば信じよう。しかし、その話だと我やクロスケは入れぬのではないか?」


「私が抱えて入れば大丈夫だと思います。ルシウスの塔では皆で管理室に入れましたし」


 ちょっとした賭けだが、最悪、私が通過を許可すれば入れると思う。

 単純にダンジョンコアと会話できるのは言語コードjaを話せる私だけって話で。


「良かろう。我もその管理室とやらには興味がある」


 よし! ノリのいい賢者で良かった!

 光の精霊が低くを飛び、私たちはコソ泥のように壁づたいをそろそろと進む。

 気がついたゾンビが近寄ってくるが、正面はアイアンゴーレムが押し退けるし、側面は氷壁に張り付いて動きを止めている。


「もう少し……」


 ぼんやりとした光が斜面を映し出した! この辺のはず!


『報告します。管理者権限アクセスを確認。言語コードjaを認識。パスワードを入力してください』


 来た! パス通って!


『パスワード』


『報告します。入力を確認。認証成功しました』


 通った!

 私は右手にフェリア様を掴み、左脇に長杖ロッドとクロスケを抱える。


『ログイン』


 そのまま幻影の壁を突き抜ける。

 やっぱりこうしてれば通れる!


「ワフ!」


「なんなのだ……ここは……」


 嬉しそうなクロスケ。

 そしてフェリア様は鷲掴みにされていることも忘れて、この部屋に驚愕していた……



【SubThread:異端の白銀ディオラ】


「ルル!?」


 ディアナを振り解いて、ルルがその音のところへと走る。

 そして……


「ミシャ、無事だって!」


 彼女の手に握られているのは、ミシャが先日、転送魔法を付与してみせた魔素手帳と呼んでいたもの。

 それがなぜ急にあそこに?

 転送……。そう、ミシャが転送したのだ。蓋があった場所は測位が付与され、場所を特定できるから。


「はあ……、ひとまずは安心ね」


 私もぺたりと座り込んでしまう。

 ディアナが立ち上がって、ルルに駆け寄るとそれを覗き込んでいる。


「我々には『ここでしばらく待っていろ』とのことです。あと、伯母上に渡せばミシャのところに転送されると……」


「ああ、例の盗難防止機能が働くってことね。あなた達は持って大丈夫なのね」


「うん、ミシャがギルドカードを解析した人は大丈夫になってるよ!」


 その用意周到さに驚くしかない。

 そして、今また彼女はそれを使って連絡が取れることに気づいた。不意の出来事で不明な場所に飛ばされても……


「じゃ、それを送り返して、私たちが読んだことを伝えないとダメね」


「はい、伯母上、お願いします」


 さっきからディアナがずっと伯母上と呼んでいるが、もうそれをとがめる気もなくなった。

 私は、いや、マルリーやサーラもすでに彼女らと張り合う気を無くしてしまったのだろう。私たちはもう彼女らを見守る側に居るべきだということ。


「じゃ、送り返すわね」


 ディアナから受け取った瞬間、それは手のひらから消えていた。



【MainThread】


「ここが管理室です。あれがダンジョンコア」


 鷲掴んでいたフェリア様を離すと、ホバリングですいーっとダンジョンコアに近づいていく。


「うう、苦節一千年強。ようやっとダンジョンコアをこの目で見ることができた……」


 へー、って一千年強!? そんだけ生きてたってことですか!? まあ、妖精ならそういうもの?

 っと、ルル達に連絡を入れておこう。ダンジョンコアのある管理室にいますよっと。転送魔法で入り口のところに帰るつもりなので、場所あけて待っててねっと。


「ほい、転送」


 スッと魔素手帳が消える。

 さて、戻ってくるまでにいろいろと済ませておきたい。まずは恒例のやつから。


『パスワードの変更を』


『了解しました。まず現在のパスワードを入力してください』


 いつもの手順でパスワードを変更。しかし、ここも工場出荷時パスワードのままとは、設置者はどういうつもりなんだか。


『さて、あなたはどういうダンジョンなの?』


『回答します。私は不良魔素回収用ダンジョン施設。管理番号C0037です』


 番号若い! すっごい初期に作られたってことだよね……


『稼働年数を教えて』


『回答します。現在、稼働から千二百三十四年が経過しております』


 1234……

 時計を見ると何故か12:34っていう現象は、単にそれが記憶に残りやすいからっていう話、どこかで聞いたことあったなー……


其方そなた、さっきから何をしとるのだ?」


「え、ああ、すいません。ダンジョンコアと話してました。やっぱり言葉には聞こえませんか」


「むむむ……、納得はいかんが、ここから帰る手段を問うていたのか?」


 いや、パスワード変えて、型式と稼働年数を聞いただけです……

 ちょうどいいタイミングで魔素手帳が帰ってきたのでごまかそう。


「手帳と同じようにあの場所に転送できればいいと思うんですけど……どうですかね?」


「ふむ。それが一番だが、我には他人を運べるような転送魔法は無理だぞ」


 ええ、それができるくらいなら、すぐ帰ってますよね……

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