第84話 状況報告が一番大事

「ワフッ!」


 クロスケの体毛が元に戻り、その金色の毛なみが発光した。

 えっ、それ発光するの? って感じだけど、今はそれどころじゃない。

 うっすらと周りが照らされたところで、


「光の精霊よ!」


 フェリア様が精霊魔法を唱え、周りがある程度明るくなる。

 この人、両方使えるとかやっぱり天才なのでは……って!


《起動》《白銀の守り手:鉄》


 アイアンゴーレムを四体召喚し、


《起動》《全送信:操作:護衛》


 全方位を護衛させる。

 周りはどう見てもアンデッドの群れ。ってか臭い! 骨じゃなくてゾンビとかグールとかそういうやつ!?


「ウァァァ……」


 どう見ても腐乱した……人じゃない。ゴブリンとかオークとかっぽいが気分は最悪。


「魔素をしっかり循環させるのだ! さすれば気も落ち着く!」


 フェリア様の言う通りに……でも深呼吸はしたくないので、クロスケだけを見て心を落ち着かせ、体内の魔素を意識して流す。

 うん、瘴気みたいなものが気分を悪くするから、それを溜めないようにすればいいのか……


「ウウゥ〜」


 クロスケが低く唸って私の前に。絶対にここを通さないという構えと共に、気持ち悪さが収まっていく。この子が瘴気を払ってくれてる?


「くっ、厄介な場所に飛ばしおって」


「すいません……」


其方そなたのせいではない。あんな地震なんぞ、誰が予測できるというのだ」


 フェリア様が光の精霊を二つ三つと増やしていく。

 解析中に不意の地震に襲われ、私は解析の制御を誤った。

 そのせいで魔法陣が発動してしまい、とっさに私に飛びついたフェリア様とクロスケの三人がその魔法陣の効果——転送魔法によって飛ばされた……らしい。


「部屋の端が見えぬ。かなり広いのう」


「ゴーレム増やします」


 私はさらに四体のアイアンゴーレムを追加する。

 エリカにもらったローブと、マルセルさんに売ってもらった長杖ロッドが無ければ、とっくに魔素切れを起こしているところだが、この二つが合わさると持久力が無限に思える。


其方そなた、ゴーレムの生成まで瞬時にできるのか。呆れて物も言えんわ」


 言いたいことはわかるけど今はスルーでお願いします。

 寄ってくるゾンビは動きが遅いのでアイアンゴーレムの壁を突破できずに突っ返されているが、私たちもこのままでは何も解決しない。

 さて、どうするべきかな。ルルもディーもディオラさんもパニックになってないといいけど……

 あ、そうだ!


「ルルたちに連絡を入れます。何か伝えることはありますか?」


「何? そんな手段があるのか?」


「私のこの手帳に言伝ことづてを書いて、転送魔法であの部屋の入り口に送ります」


 あの蓋があった場所には転送先が付与されているので、ここから転送できるはず。

 あっちからの伝言は前にディオラさんに見せたように、魔素手帳に付与された盗難防止の転送魔法で私の手元に戻ってくればいい。


其方そなた、ロゼより頭が良いな。ふむ、しばらくはそこで待っておれと伝えよ。無闇に動くなとな」


「わかりました」


 私は手短に要件をまとめて魔素手帳に書き込む。

 転送されたが無事なこと。その場で待つようにとの指示のこと。ディオラさんが持つことで私に転送されること。


「よし、転送」


 手元から魔素手帳が消えたので、無事に転送されたと思いたい。


「さて、まずは落ち着ける場所を探すしかあるまい。其方そなた、氷壁は作れるか?」


「できますけど、土壁でなく?」


 フェリア様が精霊魔法も使えるなら、土壁と樹の精霊っていうパターンかと思うんだけど。


「氷壁ならあいつらが触ると張り付いて動きづらくなるからの。氷壁で安全地帯を作って、ともかく部屋の端を探すのだ」


 なるほど、まだ水分が残ってるから氷に触るとくっついてくれるからか。


《起動》《氷壁》


 私の背と同じ高さで事は足りそうなので、氷壁に挟まれた道をクロスケとアイアンゴーレムを護衛に前進する。しばらく進むと壁が見えたので一安心。

 サイズ的には転送前の部屋の四倍ぐらいはある感じ? ノティアでアンデッドを収容してたフロアもこれくらいあったし、ダンジョンのタイプとしては同じなのかもしれない。


「ふむ。壁沿いに行くしかないの」


 ともかくこのフロアを出たいので出口を探すしかない。

 右手を壁側に、左手側に氷壁を出しながらじわじわと進む。


其方そなた、魔素の容量が大きいのか? 回復が早いのか?」


「回復が早い方です。この杖とローブのおかげで」


「杖はわかるが、そのローブ……」


 胸元でホバリングしてローブの裏地を確かめるフェリア様。

 なんかすごいローブなのは知ってますよ? なにせ前ベルグ王妃様のものですし?


其方そなた、これをどこで手に入れた?」


「ベルグの大公姫……皇太子妃にもらいました。ルシウスの塔の件の報酬で」


 そう答えると私の肩に座ってうーむと考え込み始める。

 えーっと、もう少し緊張感持ってもらえないですかね?


 ようやく部屋の隅に到達したらしく左折する。

 私たちがこの部屋の真ん中に放り出されたとしたら、やっぱりノティアの時と同じ大きさぐらいと考えられそう。

 と、なると、このまま進めば当然……


「あれは……」


 いますよね、でっかいアンデッド……



【SubThread:異端の白銀ディオラ】


「「「ミシャ!」」」


 目の前で二人と一匹が消失する。

 突然の地震に体を揺さぶられても何とか解析を維持していたが、さすがにミシャには酷な事態だ。

 むしろ、私が解析をやめるのが正解だった……


 クロスケと呼ばれるウィナーウルフは地震が起きた瞬間にミシャに飛びついていた。神獣らしく何かを察知したのかもしれない。

 そしてフェリア様は……ミシャに飛び移っていなければ自身は免れたはずなのに。


「ミシャ……」


 ルルと呼ばれるドワーフ娘がぺたんと両膝をつく。


「伯母上! ミシャたちはどこへ!?」


「わからないわ……」


 そう答えるしかない。転移先の情報は書かれていたが、私にはその場所を知る方法がない。

 おそらく、ミシャもフェリア様も飛ばされた先がわかっていないだろう。


「そんな……私たちはどうすれば……」


 ディアナもぺたんと尻餅をつく。

 どうするも何も……手段が全く思いつかない。できることが何もない。


「ボク探しに行く! きっとこのダンジョンのどこかにいるよ!」


「待て、ルル! どこにいるかも見当がつかないんだぞ!」


 立ち上がって駆け出そうとするルルをディアナがすがって止める。

 心の片隅で「ディオラは頭が硬いわね」とロゼ様が言った。

 次の瞬間、何かが落ちた音がした。

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