第83話 スレッドごとのデバッグ

 豪華な馬車に揺られてスレーデンの遺跡に向かっている最中。

 私とルル、ディーとディオラさんが向かい合わせに座り、ディオラさんの肩にフェリア様がふんぞりかえっている。

 クロスケは私の足元で伏せて……寝てる?


「しかし、その長杖ロッドを持てるものが現れるとはな」


「フェリア様でも無理だったの?」


「我に限らず妖精族の魔素は青緑なのだ。我の場合は珍しいことに緑から青へと揺蕩っておるが、その長杖ロッドを持てるほどではなかったな」


 そう言って視覚化を発動させると、彼女の周りから二色の透き通った魔素が溢れ始めた。

 っていうか、この杖のこと知ってたの? ディオラさんに教えてなかったの?


「おお、そんなに溢れるものなのだな……」


「ふはは! すごかろう!」


「妖精族は取り込む魔素が多いのに、容量が小さいのでどうしても溢れがちになるのよ」


「容量言うな!」


 ディオラさんがあっさりとネタばらし。

 あー、うん。体の大きさからして六分の一ぐらいしかキャパないよね……


「でも、フェリア様って花の賢者なんでしょ? 魔法もすごいんだよね?」


「まあ……正直、我の魔法は大したことはないのだ。ディオラの言う通り、体内の魔素量に限りがあるからの。だが、解析と魔法付与に関しては右に出るものはおらんぞ?」


 なるほど。サイズ相応になっちゃうってことか。

 火球出してもビー玉サイズだろうし、氷槍出しても爪楊枝になりそう……


「確かに微細な魔素を操ることに関しては、フェリア様の右に出るものはいないでしょうね」


「さすが花の賢者と言われるだけはある……」


 ディーがなんか感心してるけど、花の賢者って傾いてそうに聞こえるのでやめて?


 確かに、解析に必要なのは微細な魔素をうまくコントロールすることなので、確かに小さい方が有利だと思う。

 魔法付与は詠唱の正確性だと思うんだけど、それは経験によるものなのかな。


「あれ? 隠し部屋から見つかった転送の魔導具もフェリア様が解析してれば、とっくに使えていたのでは?」


 その問いにスッと目を逸らすフェリア様。

 ディオラさんが一つため息をついてフォロー?


「正直に言うと、フェリア様がリュケリオンにいること自体が稀なので」


「稀とは失礼な! 年に一月ぐらいは居るのだぞ!」


 いや、ダメだと思いますよ、それ。


「フェリア様ってリュケリオンで一番偉いんじゃないの? なんでいないの?」


「ええい、うるさい! 我にもいろいろと用事があるのだ!」


 まあ、なんとなくロゼお姉様と喧嘩友達なのは理解できたかな。

 そんな無駄話をしているうちに、馬車はスレーデンの遺跡へと到着した。


***


 クロスケを先頭に昨日と同じ道を進むが、今日は特に魔物にも遭遇せずに隠し部屋へと到着。

 さて、昨日来たときと同じように奥の蓋はガッチリとはまったままだ。


其方そなたがこれを開けたのか?」


「開けたというか外したって感じですね。ちょっと離れててもらえます?」


 クロスケだけが私の足元で万一に備えて待機。他のメンバーは少し後ろへと下がる。


《構築》《空間》《転送:023459DC-0F70-4859-9D15-FC7A916D232C》


 ふっと大きな蓋が消えて、部屋の左側に転送された。


「あ、本当はこの部屋の入り口に転送するのが正解なんだと思うんですけど、退路が断たれても困るんで、左側に避けてます」


「無茶苦茶だな……」


「ミシャだからしょうがないよ!」


 ルルのいつものをスルーして先へ。

 一応、クロスケが先頭で警戒はしてくれたが、特に魔物が出ることもなく、例の魔法陣の部屋へと到着した。


「ここで行き止まりなのね」


「はい。中央に魔法陣があるだけです」


 ディーがディオラさんを案内し、部屋の中央へと。

 私たちはもう一度、壁に何かないかのチェック。ノティアの時みたいな壁に偽装した通路があったりするかもしれないし。

 フェリア様は……天井すれすれまで上昇し、上から部屋を眺めているのかな?


「第一階層に最深部はないよね……」


「なんでロゼ様はここを隠したんだろ?」


「多分、あの魔法陣が原因だと思うんだけど」


 結局、見て回っても昨日と同じで特におかしな場所はなし。

 私たちも中央まで来て、全員でぐるっと魔法陣を取り囲むになった。


「ミシャはこれを読めんのか?」


「はい」


 できないことはできないという人間なんです。

 そんなことで虚勢を張っても何の得にもならないことは、前世で経験済みですし?


「ふむ、素直だな。ディオラ、我も手伝うので、お前が教えてやれ」


「はあ、わかりました」


 逆らえません、上司にはといったところなのかな。

 ディオラさんはまず魔法陣とはどういうものかから説明を始めてくれた。


 魔法陣は複数の魔法付与の集合体。これは理解しているつもり。

 Aという魔法付与がB、Cといった別の魔法付与とやり取りしながら、複合した効果をもたらすもの。


「では、ミシャ。まずその部分から解析して、その状態を維持しなさい」


 私がそう言われた部分がこの魔法陣に絶対必要な部分らしい。いわゆる基幹システム的な?

 ゆっくりと魔素を流し込み、その状態を維持すると、次にディオラさんが魔法陣の別の魔法付与に解析をかけて維持する。


「ほう、やるではないか」


 うん、お褒めの言葉は嬉しいけど、ちょっと大変なので早くしてくれませんかね?

 私のそんな表情を察したのか、フェリア様がまた別の魔法付与に解析を開始する。


「我の解析部分は結界魔法だな。ディオラ、そっちは何だ?」


「空間魔法ですね」


 なるほど。私の基幹部分が解析状態でないと、他の部分を解析できないんだ……

 って結界魔法!? あああ、そのライブラリが欲しい!


「こら、落ち着けミシャ。其方そなたの魔素がぶれると我らも難儀するのだ」


 すいません、集中します……

 けど、魔法陣にある魔法付与はまだ一つ残っている。どこかの解析をやめて、そのまだのやつの解析をするのかな?


「さて、我の妙技を見ておれよ」


 と、フェリア様が残っている魔法付与に解析を始めた。先の解析をそのまま維持して。

 正直すごい。メモリ空間を共有して別のプログラム走らせてるようなものなんだけど……


「むっ、魔素制限とは小癪な……。ミシャ、お前がやれ」


「え、私にそんな器用なことやれって言うんです?」


其方そなたはロゼの妹なのだろう? これくらいは出来て当然だと思うのだが?」


 で、できらぁ!

 ……右手と左手を別に動かす感じで、その残りの一つに解析をかける。

 これは重力魔法かな。フェリア様が魔素制限に掛かったのはそれでだね。

 つまり、この魔法陣は……


 その答えが出た瞬間、遺跡を大きな地震が襲った。

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