偉い人にもいろいろあるよ
第82話 意識気安い系上司
私たち三人プラス一匹は、ディオラさんに連れられて魔術士ギルド本部へと。
また会った受付嬢さんに凝視されたので、なんとなく手を振ってみたら、嬉しそうな顔で手を振り返されてちょっとほっこりする。
「むー、ミシャ、ちょっと自重して」
「え、あ、うん、ごめん」
なんだかルルがご立腹なので適当に謝っておく。
ディーはというと、本部内に興味津々といった感じでキョロキョロとお上りさん状態。
うん、クロスケが一番ちゃんとしてる気がしてきた……
「ここから転送されて最上階へ向かうから」
本部の一階の奥の方にある丸い小部屋へと通される。
ん? 転送?
「この塔ってひょっとしてダンジョンなんですか?」
「ああ、聞いていないのね。かつて魔術士の塔と呼ばれたダンジョンを、そのまま魔術士ギルド本部にしたのよ」
「すごい!」
うん、すごい。よくそんな発想になったなあと。
というか、途中に魔物が沸いたりしないの? いや、カピューレの遺跡、神樹育成ダンジョンはそんな機能なくて、ただの温室?だったし、別にありなのか……
「さ、行くわよ」
小部屋に全員が入ったところで、扉がスライドして閉じられ、
『ご利用ありがとうございます。行き先階ボタンを押してください』
エレベーターだよ!
いや、この小部屋が上下したりするわけじゃないから、エレベーターというのは間違いかも。
などと、どうでもいい葛藤をしてたら、ディオラさんが一番上のボタンを押した。
押されたボタンには『29』と書かれているので妙な感じ。最上階は三十階なのでは?
ルシウスの塔と同じ浮遊感があって、次の瞬間にはもう目的階に着いたようだ。
扉の上にある階数表示に『29』って書かれてるし。
ピンポーン♪
『二十九階です』
妙に馴染みのあるチャイムとアナウンスが鳴って扉が開く。
「はい、出てちょうだい」
エレベーター(私の中でそう決めた)を降りると、ちょっとした広さのある通路、要はエレベーターホールになっていた。
「右側に呼び出した上司の部屋があるの。ちなみに左側は……昔ロゼ様がいた部屋よ」
「えっ……」
上司との面談とかどうでもいいので、ロゼお姉様の部屋が見たいんですけど……
「上司の許可が下りたら、あっちの部屋を見に行ってもいいわよ。もちろん鍵が掛かってるから、扉ぐらいしか見れないけどね」
アッハイ。普通に鍵掛かってるよね。
でも、「いつもの数字で開くんじゃないかな」とか思いながら、私たちは右側、呼び出された上司の部屋へと足を運んだ。
***
コンコン
ディオラさんが二度扉をノックしてガチャリと開ける。
「失礼します。ルシウスの塔の最上階を突破したメンバーを連れてきました」
頭を下げたまま続けるが、私たちは少し後ろで控えているので、中の様子は不明。
ゆっくりと頭をあげたディオラさんが……なんかキョロキョロしてるんだけど?
「フェリア様? はあ……」
上司の名前はフェリアという名前らしい。まあ、女性かな?
何かを諦めた感じのディオラさんが、私たちに向き直る。
「そのうち来ると思うから、中で待ちましょ」
「はーい」
ルルの返事に私も頷く。
通されたのは応接室というか、リビングっぽい感じの部屋。
長ソファーにルル、私、ディーと座り、ディオラさんは下座の一人掛けに腰を下ろす。
クロスケは私の足元……は狭いので長ソファーの後ろに伏せ、ふわぁ〜と大きな欠伸を一つ……うらやましい……
「ごめんなさいね。急いで来てもらったのに」
「いえいえ、急いで来たのは報告のためだったので。それより、フェリア様? どういった方なんでしょうか? さっきの話だと……」
「こういう方なのだ! とうっ!」
声が! 上!?
「ワフッ!」
皆が見上げた瞬間、クロスケが私の真上を横切り、
「ぎゃふん!」
おー、ホントにぎゃふんって言う人いるんだ。いや、そうでなく!
クロスケが向かい側の長ソファーにスタッと着地すると、その背中に虫が……いや妖精がへばりついていた。
「ワフワフ」
クロスケがしっぽをフリフリしてるので問題はなさそう。背中で拾われた妖精さんは……目を回してる感じ? うん、この人がフェリアさんなんですよね?
「フェリア様……」
ディオラさんは右手をおでこに当てて深いため息を。大変な上司なんですね。
「うう、まさかこんな伏兵がいるとは思わなんだ……」
「ワフン?」
「いや、責めておるのではないぞ? むしろ素敵なクッションだったと言えよう!」
「ワフ♪」
なんだか置いてけぼりで仲良くなり始めた件について。
えーっと、ディオラさん?
「フェリア様!」
「わかっとる」
クロスケの背に横座りしていた妖精さん——フェリア様は一つ咳払いをして続ける。
「我は三賢者が一人にして魔導都市リュケリオンの魔術士ギルド長、花の賢者フェリア=フラウナなのだ」
「ルルだよ!」
「ミシャです」
「ディアナです」
「ワフッ」
とりあえず話の舵取りはディオラさんに任せた方がいいと思うのだけど……
ちらっとそちらを伺うと、ディオラさんが頷いて話を切り出してくれる。
「フェリア様、皆さんをお呼びになったご用件を」
「ふむ、ミシャと言ったな。
「この指輪ですか?」
話が飛びまくってる気がするが、この程度ならなんとか対応できると思う。
この手の天才とは幾人か仕事したけど『興味あることが最優先』『わかってることは言わない』ってだけだから。
「どの程度、扱えるようになった?」
「スレーデンの遺跡の隠し扉は動かせましたけど」
「その先に何があった?」
「魔法陣ですね。私、まだ魔法陣解析がうまくできなくて」
「ふむ。では、明日だな」
「朝の二の鐘に東門の乗合馬車が出るので」
「我が馬車を用意するから三の鐘でいい。ディオラー、朝起こしてー」
さくさくさくと会話が続くせいで誰も割り入れないけど、まあ偉い人が良いというなら良いんだと思う。
「あ、はい。えっと……私も行くんですか?」
「当たり前だ。何を言っとるんだ」
あ、ディオラさん、青筋がピキピキなってる。大変ですねとしか言えませんが。
「向こうのロゼお姉様の部屋、見ていいです?」
「ダメ〜」
「けち〜」
「
フェリア様はそう言って大笑した。
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