第81話 チョットデキル人がいるらしい

 結局、重力魔法は使わずに普通に徒歩でリュケリオンに向かってる途中。だって、体重を軽くすると風で飛ばされそうになるし。

 そういえばロゼお姉様はフクロウに変身してたけど、アレは私にも可能なのかな? あの変身が魔法だとすると身体変化? 身体強化の親戚っぽいから私には無理かな……


「ミシャ、また何か考え込んでる?」


「ん、あ、ごめん。魔法で空を飛べないかなって」


 なんか言ってて恥ずかしいセリフだ……


「さっきちょっと浮いてたのじゃダメなの?」


「浮くっていうか軽くなってたけど、あれだと風で飛ばされちゃうんだよね……」


 無重力を手に入れたからといって、自由自在に飛べるわけじゃないのを実感した。もうちょっとちゃんと考えないとダメかな。

 それにあんまり高いところを飛んで、落ちて死んだりしたら間抜けすぎる。むしろ、高いところから落ちても無事なような魔法を開発しておく方が先なのかも?


「まあ、ミシャならそのうち空を飛んでも不思議ではないな」


「ミシャだからしょうがないよね」


「ワフワフ」


 はいはい、いつものいつもの……


***


「ああ! 白銀の盾の皆さんですよね!?」


 リュケリオンに入る門の列に並んだところで、衛兵さんが駆け寄ってきた。

 って、何事なの?


「そうだよ!」


「ディオラ様から、戻られたらすぐに北区の門まで来て欲しい、と言伝ことづてがありまして」


「何かあったのだろうか?」


「多分ね」


 さくっと銀貨三枚を払って門をくぐる。

 一瞬、「払わなくてもいいのでは?」と思ったけど、あとで難癖つけられてもシャクだし。


 急ぎ足で北区の門へと向かうと、今度はそこの衛兵さんが私たちに気づいて手を振っている。

 なんていうかご苦労様です……


「急いでいただいたようで助かります。ディオラ様がご自宅でお待ちですので、そのままみなさんで向かってください」


「おっけー!」


 ルルがそう答え、急ぎ足から駆け足に変わる。

 うん、正直、辛くなってきたんだけど手加減してくれませんか?


「とうちゃ〜く!」


「はあ、はあ……、ちょっと……かなりつらい……」


 ルルの目的が完全に別のことになっている件について……

 ルルとクロスケは全然平気で、ディーも少し息が荒いがまだまだ大丈夫といった感じ。

 私だけがぜいぜい言ってるのが恥ずかしい。


「あー、なんだかごめんね。そこまで慌てなくても良かったんだけど」


 ドアベルを鳴らすまでもなく私たちの到着に気がついたディオラさんが、かなり申し訳なさそうな顔で出迎えてくれた……


***


「ふぅ……」


 入れてもらったお茶を冷やして一気に飲み干す。

 ディオラさんがすぐにおかわりを注いでくれたので、今度は適温のまま少しいただくことにする。


「ありがとうございます。落ち着きました……」


「ミシャはもうちょっと体鍛えよ?」


「私、頭脳労働でいいです」


 そのやりとりをにこやかに眺めていたディオラさんだが、私たちに戻ったら直ぐにと呼んだ理由を聞かないと。


「えっと、今日中にって用件ってなんでしょう?」


「それなんだけど、めんどくさい上司が戻ってきてあなたに会いたいっていうのよ……」


「めんどくさい、ですか……」


 めんどくさい上司。

 ひたすら自慢をするタイプとか、昔語りをするタイプならまだいいとして、意味不明に怒ってたりするタイプとかだと最悪なんだけどなあ……


「伯母……ディオラさん、先方がミシャに会いたがる理由とは?」


 がっつりと睨まれて言い直すディー。

 ディオラさんが一つ咳払いをして答える。


「今日の輪講で空間魔法の命令、測位と転送について講義をしたんだけど、それを盗み聞きされてたのよね……。まさか戻ってきてると思ってなかったから油断してたの。ごめんなさいね」


 えーっと、今の話に突っ込みどころが二つ。

 まず、盗み聞きって何? ディオラさんより偉い人なら別に盗み聞きなんてしなくてもいいのでは?

 次に「まさか戻ってきてる」とは? どういう上司なのかさっぱりわからないんだけど……


「え、えーっと、それで私たちはどうすれば?」


「疲れてるところ悪いんだけど、今から本部でその上司に会って欲しいのよね。急いで帰ってきてくれたから時間は十分あると思うし」


 うーん、どうしたもんだか……

 ディオラさんがそんなに深刻そうではないので、ただのめんどくさい人って気はするけど。

 とか思ってたら、ルルが直球を投げ込んだ。


「その人ってどういう人なの?」


「そうねえ、詳しくは本人が自分でって言ってたから、私から言えるのはロゼ様の喧嘩友達ってことぐらいかしら?」


「うわっ、それは確かにめんどくさそう……」


 そう思わず声に出てしまう。


「ミシャが危険な目にあったりはしないよね?」


「ええ、それは大丈夫よ。魔法の実際の威力でいえば、あの人は私よりも下だもの。ただ、解析や付与といった事については雲の上の人よ」


「ミシャ、それは好都合ではないのか?」


 あー、うーん、そうなんだけどー……


「いったん、その話をおいてですね。今日何があったか話していいですか?」


「あ、ええ、そうね。例の隠し部屋には行けたのよね?」


「はい。それでですね……」


 ………

 ……

 …


 話を聞いたディオラさんが、また天を仰いでいる。


「えーっと、今回は新しく突拍子もないことをしたつもりはないんですけど?」


「ミシャ、ゴーレムのことだと思うぞ?」


「あっ!」


 うん、すっかり忘れてました。

 よく考えなくても、魔法付与が難しい時点でゴーレム生成からの制御付与なんて超難易度だよね。


「後日、ちゃんと教えなさいよ?」


「はーい。それでまあ、その不明な魔法陣について教えて欲しいなーって」


「不本意ながら、今から行く相手に聞くのが一番でしょうね……」


 不本意ながらと来ましたか。

 うーん、ロゼお姉様と喧嘩友達っていうからには、かなりあくの強い人だとは思うけど。


「私がゴーレムを作れることは話しても?」


「ええ、その方が話が早いと思うわよ。なんて言うか話があっちこっちに飛ぶ人だから、実際に手を動かしながらの方が良いと思うの」


 それを聞いて私は何となく相手の像が見えてきた。

 うん、大学時代の先輩にいたなー、頭良すぎて話が飛ぶ人……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る