第80話 意味不明なコードがあります
クロスケを先頭にアイアンゴーレムを追いかける。ただし、慌てず急がず慎重に。
近づいたことで一時停止が解けたアイアンゴーレムが再度前進し始めるが、歩行スピードはたいして速くないので引き離されるということはない。
「ある程度は進むけど、長くなりそうなら引き返すからね?」
「「了解」」
念のため皆にそう伝えたが、どうやら杞憂だったようで、アイアンゴーレムの隊列の隙間から次の部屋と思われるものが見えた。
このままアイアンゴーレムを突っ込ませ……一蹴されちゃったらヤバいよね……
「部屋の前で停止させるね」
《起動》《全送信:操作:停止,警戒》
私はそう言い放ってゴーレムたちを部屋に入る直前で止め、警戒モードへと移行させる。
まずクロスケが追いつき、そして私たちも追いついて、その部屋の中を覗くと……
「あれ、空っぽだよ?」
うん、何にもないね。
普通の今までと同じ石壁の部屋で、サイズもこの手前の部屋と多分同じ。違うのは天井が今までよりも高いぐらいかな。
ただ、ディーの光の精霊がいなくてもいいぐらい明るい。その高い天井に照明……魔導具? が備わっているようだ。
そのおかげでこの部屋からさらに続く先はないように思える。まあ、ノティアの時みたいな壁のフリをした通路とかがなければだけど。
「とりあえず、ゴーレムを入れてみる?」
「そうだな。ぐるっと巡回とか可能か?」
「うーん、隅から隅までは難しいかな……」
「じゃ、動ける範囲で!」
「そうね。了解」
《起動》《全送信:操作:探索》
アイアンゴーレムたちが部屋に侵入し、なんというかうろうろし始めるが、特に魔物が降って湧いたりもしない。
ロゼお姉様の仕込みだからって、警戒しすぎたかな?
「うーん、入ってみる?」
「ワフ」
ルルの問いにクロスケが答えた。先頭は任せろっていう顔。
「よし、ぐずっててもしょうがないし、入ってみましょ。ただ、ここはロゼお姉様が『転送』を仕込んでた場所なんだし、お互い離れすぎないようにね?」
「なるほど、了解だ。何か起きた場合は皆一斉にここまで戻るでいいか?」
「うん、ディーの案で!」
意を決した私たちは、慎重にその部屋に足を踏み入れた……
***
「ロゼお姉様はこれを見せたかっただけなのかな?」
急に魔物が! ということも全くなく、部屋はがらんとしたまま。
アイアンゴーレムはそれぞれ部屋の四辺をぐるぐると巡回中というシュールな光景。
ただ一つ不明な点、それは部屋の中央、私たちの足元に書かれている魔法陣。
一辺がルルの身長、百五十センチぐらいの正方形。その内側に付与された魔法の術式が詰め込まれている。
「ミシャ、これわかったりしないの?」
「うーん、部分的にはわかるかもしれないけど……」
魔法陣はいくつかの術式の集合体のようなものなので、部分では理解できても全体としてどういうものなのかは難しい。
魔導具がメインスレッドしかないプログラムだとしたら、魔法陣はメインスレッドに加えていくつものサブスレッドが同時に実行されていて、それぞれが連携して複数の効果を出す感じ。
「ふむ。これを持ち帰って調査というわけにも行かないのが大変だな」
「そうなんだよね。ノティアの時もそれで諦めたし……」
ノティアのダンジョンの最深部にあった「地上にいるアンデッドを転送してくる魔法陣」も、大きい斜面にびっしりと書かれていて解析どころじゃなかった。
ダンジョンコアに聞いても、備え付けの設備については扱えるだけで原理は全く知らないって話だったし。
「でも、ロゼ様はこれを勉強しろってことだと思うんだよね……」
「ミシャ、頑張って!」
「ワフッ!」
ルルとクロスケの励ましが辛い。とても辛い。
簡単に「頑張れ」って言っちゃいけないんだよって教えないといけない。
と、その時、結構な揺れが……
「うわっ!」
ルルが私に飛びつき、皆が中腰になって周りを警戒する。
震度は三ぐらい?
しばらく続いた揺れは、徐々に小さくなって収まった。結構長かった……
「なんか怖いし、今日はもう帰りましょ。蓋もちゃんと戻してね。で、帰ったらすぐにディオラさんに報告」
ルルもコクコクと頷く。
今ちょうど、朝の六の鐘が鳴ったぐらい。昼の三の鐘が鳴る前にはリュケリオンに戻れると思う。
「うむ。魔法陣は伯母上なら何かいい方法を知ってるかもしれない」
「あー、それだ。せっかく魔導都市に来たんだし、こっちもちゃんと教わらないとだよね」
ディオラさんに魔導都市の実態を聞いてちょっと諦め入ってたけど、それならそれで別方向の進歩があってもおかしくないはず。
とりあえず、入るたびに銀貨三枚も払ってる分は回収したいなあ……
***
部屋の脇に避けていた蓋を元の位置に戻し、地上に戻ると昼の一の鐘が鳴ったころ。
長く地下にいたわけじゃないけど、太陽の光を浴びると外に出たなっていう感じがする。
「んー、まぶしー!」
「やはりずっと地下は疲れるな」
「だね。さて、帰りの馬車は……」
あー、まだ来てない……
そりゃそうか。まだお昼過ぎたばっかりだから、帰りの迎えに来る馬車なんていないよね。
私はがっくり来て近くの岩に腰を下ろした。
「ワフッ!」
クロスケがキラキラした目で「散歩しながら帰ろう!」って感じ。
馬車待つとリュケリオンに帰りつくのは昼の五の鐘ぐらいになるかな。
いや、意外とあと少し待てば来たりしない?
「さて、馬車はまだまだ来ないだろうし、歩いて帰るしかないな」
ディーがさくっと私の幻想を打ち砕く。
クロスケも嬉しそうに尻尾をブンブン振っている。
さらにルルが無謀なことを言い出した。
「クロスケ、リュケリオンまで競争する?」
「ワフッ!」
「待て待て、ミシャを置いていくつもりか?」
ディーが止めてくれたからいいけど、ルルもクロスケも本気なのか冗談なのかわからない。
でもまあ、座っててもしょうがないんだよね。
今日の出来事を早めにディオラさんに伝えておきたい気持ちはあるし。
「ん、大丈夫。行きましょ」
覚悟を決めて重い腰を上げる。
重い腰……重力魔法で軽くならないかな?
私自身の自重を軽くすればスィーっと移動……月面歩行が!
確か月の重力って地球上の六分の一だっけ?
《構築》《重力》《重力変更:0.166》
ルルに向かって軽く幅跳びジャンプ!
「ミシャ!?」
激突しそうになったルルにキャッチされ、そのまま抱き上げられた。
「ミシャ、軽過ぎなんだけど……何かしたの?」
うん、ごめん。次は別の方法を考えるよ……
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