第79話 テンポラリに移動します
「ここ?」
「ワフッ!」
普通に真っ直ぐ進んだ先に、テニスコートぐらいの大きさの部屋が繋がっていた。
入り口は人が二人並べるぐらいの幅があるし、これが隠し部屋だったと言われると違和感が。
「ミシャ、ここに何か……術式が書かれている気がする」
ディーが部屋に入る手前でしゃがみ込み、足元を指差している。
「え、あ、ホントだ。よく見つけたね……」
「よく見つけたと言われてもな。ミシャがノティアの時に調べていたじゃないか」
あ、あーあー、やってたね。うん、私が。はい。
そうか、ここに壁に偽装した扉があったら「あ、行き止まりか」ってなるよね。
うん……それはそれとして心の棚に収納して、この足元の術式を解析をしよ……
《起動》《解析》
「ん?」
何でここに転送先設定の術式が書かれて……
「あ、そういうことか!」
「なになに? どうしたの?」
ルルとクロスケが駆け寄って来たので、私は正解を探すべく二人に問いかける。
「この入り口とぴったり同じ大きさの壁? 扉? 部屋のどこかになかった?」
「あるよ! あれ!」
ルルが指差した先には開かないという扉が。
つまり、あの扉がずっとこっちにあったと考えていいのかな?
「とりあえず、アレがどういう扉か調べよっか」
「よくわからないが、あの扉とここが関係あるんだな?」
「多分ね。推測通りなら、向こうの扉も開けられると思う」
ルルとディーは顔を見合わせて首を捻っているが、種明かしはあっちの扉……の下を確認してからかな。
うまく隙間から魔素を流し込んで解析できればいいんだけど。
「これだね。扉っていうか蓋みたいだよねー」
ルルの言うとおり、ドーンと鉄の塊で蓋されているような状態なので、これを扉っていうのはどうなんだろうと思う。
さて、その蓋の足元はというと……両端はぴったりと接地しているが、中間六割は凹んでいて地面が見えた。やっぱり確認できるように凹ませてるんだと思う。
「えーっと……」
その真ん中を覗き込むと、予想通りこちらにも転送先設定が付与されている。
つまり「隠し扉が開いた」とは、この今こちらにある扉が、私たちが入ってきた入り口にあった、ということなんだと思う。
部屋の内側から見ると、ただの鉄の蓋に見えるけど、この蓋の裏側は通路そっくりに偽装されてるに違いない。
さて、これをみんなにどう説明しよう……
………
……
…
「つまり、ミシャはこの扉……いや蓋を転送魔法でここから、あそこへと移動させれば、それで奥へ行けると?」
「おー! すごいじゃん!」
「ワフッ!」
地面に小さい土壁で部屋を模し、魔素手帳を蓋に見立てて説明すると、皆があっさりと理解してくれて助かった。こういう時、言葉でうまく説明するのって大変よね……
「さて、で、どうする?」
「え、蓋を転送して開けるんじゃないの?」
「待て待て、ルル。ノティアの時のことを忘れたのか」
ディーの鋭い指摘がルルを襲う! まあ、私もそれが心配なんだよね。
それに今回は蓋を動かすと退路を断つので余計怖い……
「むー、いったん帰ってディオラさんに報告かな」
「そうだな。それが無難だと思うのだが……ミシャはどうなんだ?」
「んー、ちょっと考えさせて」
開け方がわかれば十分だけど、できればその先も確認はしておきたい。
ノティアの時みたいに魔物が大量に隔離されてる可能性もあるわけで……
「今、朝の五の鐘が鳴ったぐらいか……。よし、十分に作戦を立ててから開けてみましょ」
「やった!」
「ふむ、わかった。その作戦を聞こう」
「じゃ、えーっとね……」
………
……
…
「クロスケ、誰も来てないよね?」
「ワフッ!」
「よし、まずは」
《起動》《白銀の守り手:鉄》
ゴーレムの生成から制御魔法の付与までを一つにした独自魔法でアイアンゴーレムを生成する。
出来上がったゴーレムが待機状態になっているが、とりあえず放置。
「やっぱこの杖すごいね……」
前の
というわけで、あと三体を追加生成し、合計四体を何かあった時のための対処要員として確保する。
「ミシャ、すごい……」
「まあ、強さは微妙だから硬さ重視の壁役だね」
《起動》《全送信:操作:警戒》
コマンドを受信したゴーレムが一斉に蓋の前に進み、警戒モードに変わったので一安心。
「じゃ、蓋を転送するよ?」
「おっけー!」
一つ大きく深呼吸し、魔素がしっかりと満ちてきたのを確認。続いて、大きな蓋を魔素でしっかりと覆う。
かなりのサイズだが、
よし、行ける……
《構築》《空間》《転送:023459DC-0F70-4859-9D15-FC7A916D232C》
目の前の蓋が消え、次の瞬間には部屋の左の壁際に張り付いていた。
「成功かな?」
「うむ、さすがだな」
部屋の高さと通路の高さが同じなので、ぴったりと張り付いていて倒れても来ない。
入り口に転送すると退路が断たれるので、部屋の左に新たな転送先を作って付与した。要するにテンポラリを用意した感じかな。
「とりあえず、通路に敵はいなさそうだよ」
ルルがうっすらと見える通路をアイアンゴーレムの隙間から覗いている。
いきなりオーガロードとか出てこなかったのは良かった。
「灯りを別に用意しよう」
ディーが光の精霊をもう一つ呼び出し、通路の方へと進ませた。
じゃ、アイアンゴーレムたちも前進かな。
《起動》《全送信:操作:前進》
二かけ二の隊列でアイアンゴーレムが前進していくのを、私たちは部屋から見守る。
万一トラップに引っかかっても、あのゴーレムが潰れるくらいなら安いもの。
「あれ? 止まっちゃった?」
「多分、私の魔素が届く範囲を超えたんだと思う。離れすぎたら止まるようにしてあるから」
まあ、ある程度離れたら止まるようにしたのは、暴走対策でもあるんだけどね。
「ふむ、どうする?」
「うーん、正直、迷ってる。ルルはどうしたい?」
「行こ!」
「わかった。クロスケ、先頭お願い。ルル、私、ディーの順で。後ろも一応気をつけて」
私たち三人と一匹は頷き合い、ゴーレムに追いつくように通路へと進んだ。
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