第78話 バグチケットがまわってきた

「ミシャからダンジョンに行こうなんて珍しいよね」


 ルルがニコニコしながらそんなことを言う。

 長杖ロッドを購入した翌日、ディオラさんは研究グループの輪講もあるので、私との魔法論議はお休みに。

 じゃあ、街でもと思うところだけど、先にあちこち回ったルルとディーの話では、たいして見るところもないという話だし……


「それならスレーデンの遺跡にでも行ってみたら?」


 ディオラさんにそう言われたという訳だ。


「個人的に進んで危険な場所に行くのはどうかと思うんですけど……」


「そういう心構えは大事だけど、それで何もしなくなったら退化するわよ?」


「うっ……」


 それを言われると辛い。

 なまじルルもディーも強いもんだから、何がなんでも危ないからダメと言えないし。


「それともう一つ確認して欲しいことがあるのよ……」


 ディオラさんが困った顔でそう話し始め、それを聞いた私たちはスレーデン行きを決めたわけなんだけど。


「お姉様、ホント勝手だよ……」


 朝の二の鐘が鳴って出発したスレーデン行きの乗合馬車に乗っているのは、ルル、ディー、私、クロスケだけ。

 もっと多いかと思ったんだけど、スレーデンの遺跡を調査しようとする人たちは、だいたいあちらで寝泊まりしているそうだ。お陰でお喋りもできるのだけど……


「まあ、時期からして……そうだろうな」


「だよねー」


 スレーデンの遺跡で隠し扉が開いたのは二ヶ月ほど前らしい。実際にはもう少し前かもしれないけど、開いているのを見つけたのがその頃なんだろう。

 つまり……ロゼお姉様が来て開けたと見るべきというのがディオラさんの見解。

 うん、そうですね、私もそう思います。ノティアでもそんなことあったしね……


「行くしかないよね。行けってことなんだろうし」


 例の隠し扉だった場所は第一階層の南西側らしい。その隠し扉の先の部屋に、ディオラさんが持っていた転送先が付与された魔導具が数枚落ちていたそうだ。

 で、その部屋にはもう一つ開かない扉があるという。見つかった当初は魔法都市の魔術士を総動員してその扉を調べたらしいが収穫はゼロ。


「ミシャだったら開けられるんでしょ?」


 ルルが当たり前のようにそう聞いてくるが、正直、見て解析してみないとなんとも。

 やっぱりノティアのダンジョンやカピューレの遺跡で使ってた例の数字で施錠されているのかな? それならいいんだけど……


「簡単に開けられるか、全く開けられないかどっちかだと思う」


「そうなのか?」


「今まで通りの仕組みだといいけど、そうじゃない気がしてるんだよね」


 空間魔法の存在を知らせるかのように開いた部屋だし、きっとそれを使ってどうにかしろって話だと思うんだよね。


「お嬢さん方、着いたぞ〜い」


 御者のお爺さんの声とともに馬車が止まる。

 降り立った私たちが見たのは、ちょっとした村となっているスレーデンの遺跡前だった。


***


 村っていうか……難民キャンプ?

 ここは一応、魔導都市リュケリオンの所属となっているらしいが、保護対象はあくまで遺跡だけで、探索に来る人たちのことまでは面倒をみないとのこと。


「みんな野宿なんだね」


「鐘一つほどでリュケリオンに戻れるとはいえ、中に入るのに銀貨一枚だからな。毎日戻っていたら、全く割に合わないだろう」


 メンバーで銀貨一枚ならまだしも、一人一枚だもんねえ。


「さあ、行きましょ。早めに行って早めに帰りましょ」


 まだ朝の四の鐘が鳴る前、鐘三つ……三時間掛かったとして、昼の一の鐘ぐらいにはいろいろと終わらせて戻ってきたい。


「おっけー!」


「うむ!」


「ワフッ!」


 意気込みは十分。

 入り口に立ってる衛兵さんの指示通りにギルドカードを石碑にかざし、遺跡の中へと足を踏み入れた。


***


「ボクたちの前に入った人たちは、第三階層に隠し扉がないか探してるんだっけ?」


「そうらしいな。第一階層の隠し扉が見つかったせいで、最初から捜索をやり直してるそうだ」


 今まで見つからなかった隠し扉。

 それを解いたのがロゼ様だとしたら、確かに他にもそういう場所はあるかも?

 まあ、その時は後でまた来ればいいかなと思う。


「ワフ」


 少し離れて先頭を歩いていたクロスケが振り向く。

 敵はいなさそうで、また前を向くとスタスタと進んでいく。


「ここはノティアのダンジョンとかと違って、道が分岐してたり……普通っぽいよね……」


「普通なの?」


「ミシャに普通と言われてもな」


「はいはい……」


 見つかった隠し扉までは鐘一つ弱、約一時間弱歩くそうだが、その道順はディオラさんに教えてもらっている。

 まあ、クロスケがかしこかわいいので、お任せなんだけど。


「ワフッ!」


 おっと、敵っぽい。

 ルルもディーも戦闘態勢を取り、私も新しい長杖ロッドを手に正面を見据える。


「グギャギャ!」


 ディーの出してくれた光の精霊が走ってくるゴブリンたちを照らしてくれる。五匹ぐらい?


「ディー、よろしく」


 クロスケが脇に避け、ディーの矢が何本も風を切り裂いて飛んでいく。

 矢継ぎ早ってこういうことか……

 その全てがゴブリンを打ち抜いて戦闘はそれで終了。


「ディーすごい!」


「まあ、たまには私も活躍しないとな」


 いやいや、レッドアーマーベアの時にも随分活躍してた気がするけど。

 まあ、本人が活躍できたと思えるのは良いことかな。自信にも繋がるしね。


「ゴブリンの魔石は放置しましょ」


「そだね」


 面倒な魔石取りに時間をかけるのはもったいない。

 時給で考えても、今の私たちには割に合わないと思う。多分。


「ミシャ、この遺跡のダンジョンはどういうタイプだと思う?」


「んー、ノティアと同じだと思うけどね」


「魔物を回収して、ボクたちみたいなのに倒してもらおうって奴だっけ?」


「多分ね」


 設置したのが誰なのかはダンジョンコア自身も知らないらしいけど、この世界の創造主クリエイターなのかな? もしくは彩神様さいしんさま

 動作不良の魔素が暴走して魔物化しちゃったのを回収したいらしいけど、なかなか面倒な仕組みだよねえ。神は直接手出しをできない系ってやつかな。


 ちなみにこのダンジョンも悪質な罠とかは無いそうだが、場所によってはそういう罠があるダンジョンもあるんだとか。

 できれば、そういうのはパスしたいんだけど……


「ワフワフ」


 クロスケが尻尾フリフリしてるので、どうやら目的の場所に到着したようだ。

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