第74話 コールバックで実装可能

「おっとと!」


 私は落ちてきたカップをキャッチし、そっと机の上に戻す。

 ついでだからと空中に転送してみたけど、特に問題はない感じかな?


「はあ……」


 ディオラさんがぐったりと椅子に背中を預けて天井を見る。目の焦点合ってないっぽい。

 ディーはそれを見てあわあわしているし、ルルは、


「ミシャ、すごい!!」


 と飛びついて来た。まあ、いつものことなので慣れたけど、だんだんパワーアップしてるのがちょっと怖い。身体強化使ってない?


「説明、必要ですよね?」


「ええ、私が納得いくまで説明してもらうわよ」


 ディオラさんに睨まれ、私はゆっくりとルルやディーでも理解できるようにと話し始めた。


 ………

 ……

 …


「なるほど。まずこの世界における場所を記録すると。それが『測位』ということね」


 ディオラさん、さすがというか理解が早い。

 けど、やっぱりルルとディーは分かってるかどうか……

 まあ、この世界、地図も適当だし、緯度経度っていう概念もないみたいだしね。


「うーん、ここって目印をつけて、そこに送るってこと?」


 ルルが立ち上がって、身振り手振りを交えて話し始めるんだけど、ちゃんと理解してるっぽい。


「そうそう。目印さえ付けられれば、そこには一瞬で送れるようになるから」


「その目印との間に障害物があってもなのか?」


「おー、ディー、鋭いね。多分大丈夫だと思うから試してみましょ」


 私はカップを机の下に置き、机の上の魔導具に向かって転送を唱える。

 カップは何事もなかったかのように、魔導具の上へと瞬間移動した。


「見事に成功ね。間に障害物があるとダメなら、転送魔法の重要性なんて無くなるものねえ」


 ディオラさんの言う通りだと思う。

 しかし、どうやって転送してるんだろうね?


「では、転送先に何かある場合は?」


「そうそう、そういうのちゃんと調べないとね」


 先ほど転送したカップは魔導具の上にあるので、この状態で別のカップを転送してみる。

 だが、転送魔法を発動しても何も起きない。つまり、転送先に何かある場合は失敗するようだ。


「入れ替わったわけじゃないんだよね?」


 ルルがそう確認してくるが、カップに入ってる模様を見ても、動作しなかったが正しいかな。


「うん、入れ替わってないよ。多分、転送したら衝突しちゃうってなると、転送魔法は動作を止めるんだと思う」


 厳密に言えば、転送先にも空気(窒素とか酸素とか)があるんだけど、そういうのは衝突と見なさないのか、事前に避けてるのか……うまいことやってくれてるらしい。

 それに関してはちょっと納得いかない部分もあるけど、安全性に関してはかなり検証されてる気がする。


「半分だけ送るとかもできないの?」


「うん、ダメだと思うけど、やってみるね」


 魔導具の上のカップをどけ、さっきのカップの半分だけを魔素で包んで転送を唱えるが……

 うん、失敗。さっきの転送先に何かある時よりも、気持ち早めに失敗した気がする。


「転送が上手くいく条件はかなり厳しいわね」


「ですね。転送するものが壊れないように、気をつけてるんだと思います」


 ディーとディオラさんは腕を組んで色々と考え込んでいるようだ。

 二人が同じような格好してると、ホントそっくりでクスっと来てしまう。

 ふと、ルルが思いついたように私に聞いてきた。


「ねえ、ミシャ。これって、この魔導具の上にあるものをこっちには持って来れないの?」


「あ、逆か。うーん、どうだろ……」


 どっち向きであっても転送には変わりないけど、見えないものを「魔素で包む」ことができないんだよね。

 誰かが魔素で包んでくれれば……うーん……


「ああ、そうか」


《構築》《空間》《測位:9F174F35-4C2A-4FE9-AFBC-6DD627647E96》《付与》


 まず腕時計がわりの腕輪に測位の魔法を付与する。

 引数としてGUIDを与えることで常に測位情報は上書きされて使いまわせるはず。


「ミシャ?」


「うん、ちょっと待ってね」


 ルルだけでなく、ディーもディオラさんもこっちを注視しててプレッシャーがかかるが、私の魔法付与がそんなことでミスるはずもなく。


《構築》《空間》《認証》《転送:9F174F35-4C2A-4FE9-AFBC-6DD627647E96》《付与》


 魔素手帳に転送魔法を付与し終えて、それを机の上に置いた。


「ルル、これ持ってみて?」


「え、うん。……ビリっとしたりしないよね?」


「しないしない」


 そんな危ないものをルルに渡したりしません。とはいえ、怖がる気持ちもわかるので、急かしたりはしない。

 ルルが私の魔素手帳をゆっくりと持ち上げると……


「うわっ!」


 魔素手帳がフッと消えて、次の瞬間には私の手のひらの上に現れた。

 それを見てディーがこれでもかっていうくらいに目をむいている。


「今、ボクが転送魔法を使ったの!?」


「接触者の魔素を使って自身を転送する魔法を付与した、のね?」


「正解です」


 ディオラさんの洞察がさすが過ぎるが、ルルもディーもよく分かっていないっぽい。


「簡単に言うと、私以外が触れると私のところに転送されるような魔法を付与したの。だから、ルルが触れると私のところに転送されたわけ」


「ミシャ、すごい! これなら絶対に盗まれないね!!」


「あ、そっか。確かにそうだね。まあ、ルルやディーでも持てるようにはしといた方がいいかな?」


 ちょっとそれ取ってって転送されてくるのもビックリだし、相手の魔素を勝手に使うっていうのは、どうも電気泥棒……魔素泥棒をしてるようで嫌だ。


「はあ……。ミシャ。あなた今、何をしたか理解してるの?」


「えーっと……盗難防止的な発明ですかね?」


 ディオラさんが睨むので目線を逸らしつつ。

 だって、ルルが逆はどうなのって聞くから、実現できそうな方法を試しただけですよ?


「そもそも、自分以外の魔素かどうかって判定をどうやってるのよ……」


 ん? んんん??


「あの、ひょっとして魔素を使って個人を識別する仕組みって、実は解明されてない魔法だったりします?」


「ええ、そうね。ああ、その先は言わなくていいわよ。この魔導都市を名乗るリュケリオンでさえ、仕組みがよく分かっていない古代魔導具をなんとか複製して使ってる。その程度なのよ……」


 えええええ……

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