仕事はさくっと終わらせたい

第67話 特別扱いは居心地が悪い

 リュケリオンへと向かう街道を馬車に乗せてもらって移動中。

 ポーションを塗ってあげたベルンという馬の怪我はすっかり治ったので、良かった良かったって感じなんだけど、おじさんがポーション代を払うという話で、


「高価なハイポーションを!」


 と銀貨三枚を出してきた。

 え、いや、普通のポーションでしかも半分だったと思うんだけど?


「あの、これは流石にもらいすぎだと思うんですが」


「いやいや、普通は金貨一枚のハイポーションを半分も。手持ちが足らんで申し訳ない……」


「あー、ご主人。本当にただのポーションなのだ。だから銀貨一枚で十分だ」


 ディーもそうフォローしてくれるが、おじさんはどうにも納得がいかない感じ。

 うーん、ホントにただのポーションなんだけどなあ……


「ねえねえ、明日リュケリオンに行くんだったら、ボクたち乗せてもらえたりしない?」


「え、ああ、それでいいのかい?」


「うん! じゃ、銀貨一枚でいいから乗せてって」


 ということで乗せてもらって移動中なわけだ。

 二頭立ての荷馬車の後ろのスペースに乗せてもらってるんだけど、意外と振動が少なくてびっくりしてる。いや、これは……


「あんまり揺れない感じだけど、ひょっとしてディーが何かしてる?」


「ん、ああ、風の精霊に頼んで振動を和らげてもらっている」


 なるほど、エアクッション。

 こういうのは命令だけ出しておけばいい精霊魔法の方が便利よね。元素魔法でも可能だろうけど、他人の馬車に勝手に魔法付与するわけにもいかないし。


「ワフン」


 クロスケは馬車には入らずに自分の足でついてきている。

 馬車も急がず進んでいるので余裕を持ってついてきてるようだ。

 昨日のこともあって、おじさんは適度な休憩を挟みながら進んでるし、その度にディーがベルンという馬の足を確認してくれている。


「あれは本当にハイポーションじゃなかったのかい?」


 そう何度も聞かれたが、その度に普通のだと答えてる。実際、普通のだし。

 ロゼお姉様の蔵書にあった本『ポーションの基礎処方』にはそう書いてあったし……


「でも、ナーシャさんには効き目がありすぎるって言われたんでしょ?」


「うん、そうね」


 やっぱりあの抽出方法のせいかなあとは思う。

 普通にポーションにすると製造過程で不純物が混じって薬効が落ちてるとかそういうのじゃないかなあ。


「今回は念のため半分使ってもらったが、それでも効き過ぎた感じだな」


「普通のポーション扱いにするには、もっと薄めないとかー」


「別にボクたちが使う分にはそのままでいいじゃん。売るつもりはないんでしょ?」


 ルルの言うとおりかなと思う。

 今回は偶然というか必然というか自分たち以外に使ったけど。


「まあ、次からはハイポーション扱いでいいんじゃないか? 実際、そのぐらいの効能はあるようだしな」


「ううう、じゃあそれで。でも、個人的にはこれをハイポーションって言いたくない……」


 本物のハイポーションと製法が違うんだもん。

 やっぱり、どこかのタイミングで街売りのポーションやハイポーションを買って、比較してみないとダメかなあ……


「お嬢さん方、リュケリオンが見えてきたよ」


 御者席からおじさんの声が掛かる。

 私たちが慌てて正面を見ると、そこには大きく高い塔、その周りに点在する中ぐらいの塔、その足元にある街並みという、魔導都市という名前がしっくりくる風景があった。


***


「本当に助かった。良かったら、お店の方にも来てくれな」


 南門の前でおじさんと分かれる。

 おじさん、この魔導都市の南東地区で雑貨屋をやってるそうで、ベルグへは月に一度くらいのペースで仕入れに来てるとのこと。


 魔導都市リュケリオンは自給率がすごく低いかわりに、魔法付与という技術で食べてる国らしい。

 とりあえずそれを聞いて思ったのは、ここにいる間は魔法付与は封印かな、と。


「じゃ、ボクたちはこっちだね」


 おじさんが自国民用の門に向かったのを見送り、私たちは旅行者用の門へと向かう。

 リュケリオンは入国と滞在にすごく厳しく、来たふりをして居つくのは絶対にダメらしい。


「自分たちの独自性を維持したいってことなのかなあ」


「ベルグも王都の南側に人が溢れ始めていたからな。ああいう事態を避けたいんだろう」


 住みやすい国に人は集まるものだ。

 そこにその人に見合う仕事があればいいが、そうでなければ問題も色々と出てくるんだろうなとは思うけど。


「皆、ギルドカードと銀貨一枚を」


「はーい!」


 ベルグならギルドカードだけで良かったが、リュケリオンではプラス銀貨一枚が必要になる。

 それも出たり入ったりすると必要というあたりが悪どい。


 一人ずつの審査らしく、最初にルル。次にディー。そして私の番。

 入管のお姉さん、この人も魔術士っぽいな。


「先の二人と同じでベルグからですね」


「はい」


 ギルドカードを渡すと読み取りだけする魔導具に通された。

 サーラさんが解析させてくれた奴と同じだから、知ってる人でないとルシウスの塔の件はバレないと思う。前二人もスルーだったし……


「ミシャさんは魔術士ですか?」


「はい、そうです」


「できる限り早めに北区の魔術士ギルド本部に足を運ぶことをお勧めします。魔術士ギルドのギルドカードに刻印をしてもらえれば、各種移動の制限がなくなりますので」


 え、ちょっと、いや、かなり驚いたけど、この街は魔術士が貴族なの?

 今のセリフだけで、魔術士がめちゃくちゃ優遇されてそうで怖い。


「あ、はい。えっと、この子の分は必要ですか?」


「相棒登録はされていますか?」


「それはもちろん」


「では、不要です。魔導都市リュケリオンへようこそ」


 見事な営業スマイルをされて顔が痙攣ひきつりそうになったが、何とか表に出さずに門をくぐり抜ける。

 なんだか今日一番疲れた気がするよ。


「ミシャ! こっちこっち!」


 ぴょんぴょん跳ねるルルを見つけ、駆け寄ったところで……


「ん? 今、揺れたよね?」


「確かに少し揺れたな」


 とディー。ルルは跳ねてたせいか気づかなかった模様。

 うーん、こっちでも地震はあるんだ。転生してからずっと無かったから、久しぶりでちょっと怖い。


「まあ、いいや。ともかく教えてもらった宿に行きましょ」


「おっけー!」

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