第65話 DMZはどこにでも
レッドアーマーベアのお肉は「非常に美味!」でした。
ちょっと恐る恐るしててディーに不思議がられたんだけど、その理由を話したら、
「ああ、血抜きや解体が遅いと酷い味になるな」
とのこと。あの時は近くに川もあってすぐに血抜きしてたもんね。
主に赤身を煮込んだシチューのようなものは、本当に美味しゅうございました。
ちなみに油は剥がして別のことに使ったりするそうだ。
里で一気に二頭分を食べられるわけもなく、大半は干し肉や燻製肉に。
私たちが買ってきた塩と、彼らが採集しているハーブを合わせて漬け込み、日陰で干したら干し肉、チップで燻せば燻製肉。
精霊魔法の力でブーストしても、流石に一日で出来るわけではないとのこと。
残念だけど、その代わりにとグレイディアの干し肉を結構な量もらえた。これでも最初に分けてくれると言った量の半分にしてもらってる。物には限度があるので。
「街道見えた!」
ルルがダッシュして街道に出る。
朝早く、ディーの両親、長老、その息子兄弟に見送られて里を出発。西に進んで無事街道に戻ってきた。ちょうどお昼前かな。
「んー、ホッとするようなしないような……」
「二人とも改めて礼を言う。里帰りに付き合ってもらっただけでなく、魔物討伐まで手伝わせてしまったな」
「ディー、それ何回も言い過ぎ!」
ルルがディーの背中をバンっと叩く。うん、強烈そうなので、私は避けることにしよう。
確かに魔物討伐は想定外ではあったけど、
「ちゃんと対価をもらってお仕事したんだし、ディーが何度もお礼いうことじゃないよ」
魔石二個で白金貨十枚(予想)。正直、稼ぎすぎになってしまったので、またディーが里帰りする時は、どっさりと買い込んでいかないと申し訳ないぐらいだ。
「むふー、リュケリオンの美味しいものたくさん食べちゃうぞー!」
「あー、うん。それはいいかも」
一瞬、無駄遣いしないよう注意しようかと思ったが、レッドアーマーベアをほぼ一人で処したのはルルだ。それに見合うご褒美があって然るべきかな、と。
それに、美味しいものって言っても、この世界は銀貨一枚も出せば十分にご馳走だし。
「……ルル、期待しているようだが、リュケリオン独自の美味しいものなんてないぞ?」
「えっ?」
「マジで?」
ルルの顔から表情が消え、私も思わず素で聞いてしまう。「マジ」がどう翻訳されたのかわからないけど。
「少なくとも都市の一般街には普通の料理しかない。そもそも食料をベルグ王国や北東に隣接するテランヌ公国に依存しているのだからな」
えーっと、テランヌ公国ってのは北部諸侯連合の一つなんだっけ? いや、そうじゃなくて普通の料理しかないってどういうこと?
「いや、でも、なんかそれっぽいリュケリオン料理とかないの?」
「私が見つけてないだけかもしれないが、少なくとも王都で食べたもの以上の料理が出てくることはないだろうな」
ディー曰く、リュケリオン独自の料理文化的なものは無いらしい、普通にベルグと同じ。
美味しいものがないわけではないが、それはベルグでも食べたことのあるものだろうとのこと。
そもそもルルは伯爵家の令嬢だから、普通に美味しい料理は食べてるよね。
「ラシオタの魚料理みたいなのを期待してもダメってことね」
「そうだな」
それを聞いたルルの足取りが露骨に重くなっている。
「じゃ、リュケリオンは早めに抜けてラシャードへ行く?」
「でも、それだとミシャの手紙の魔法のこと、調べる時間なくなっちゃうし……」
あ、うん、ごめん、ちょっと忘れてたよ。ひどいね私も。
ただ、闇雲に探すよりも、先にロゼお姉様に聞いた方がいいかなって思ってるのも事実だ。
とはいえ、まずはディオラさんに会って、マルリーさんとサーラさんからの手紙を渡さないといけないし、ディーの両親のことも伝えないと。
「あ、そうだ! ディオラさんがリュケリオンに長くいるんだったら、ディーが知らないお店とか知ってたりするかも?」
「それだ!」
トボトボと歩いていたルルが急に元気になる。
ディーはそれを見て呆れ気味だが、これ以上、水を挿すつもりもない模様。
「ワフッ!」
少し先へと進んでいたクロスケに早く行こうと急かされ、私たちは慌ててその後を追いかけた。
***
ベルグとリュケリオンの中間地点にある野営地に到着したのは昼の四の鐘の頃。
結構歩いたと思うんだけど、私以外はみんな元気だ……
「こんちは!」
「おう、嬢ちゃんたち三人か。大変だな」
ルルが野営地にいる衛兵っぽいおじさんに挨拶する。
「衛兵さん、いるんだ」
「ああ、緩衝地帯ではあるが、この街道は両国にとっては生命線だからな。お互いが半分ずつ街道の安全を担っているそうだ」
ディーがそう説明してくれる。
一日に二人ずつがゲーティアからこの野営地に来て、一泊してゲーティアに帰るそうだ。
「リュケリオン側もそうなの?」
「ああ、向こう側の野営地にいるだろうな」
街道を挟んで向かい側にも野営地があって、そちらはかなり混雑模様。エリカの結婚式のお祭りが一月ぐらい続くらしいしね。
逆にこちら側が空いてるんだけど、こっちはリュケリオンに向かう人たち用らしい。左側通行で片方のサービスエリアにしか行けない、みたいな?
「こんちは!」
「やあ、こんにちは」
ルルがすれ違う商人さん?に挨拶して行くんだけど、こういうこと素直に出来るのってホント偉いと思う……
「あのあたりがいいんじゃないか?」
「ん、そういうのは詳しいディーに任せるよ」
野宿なんてほとんどしたことないからなあ。小学生の頃に学校主体でキャンプとか行ったぐらい?
田舎で育ったので山歩きはそんなに苦痛じゃないけど。
「ふむ、ではここにするか」
森からは少し離れた程よい草むらだが、以前も誰か使ったのか焚き火の跡があり、そこだけ草が無い状態。
同じように使わせてもらう感じかな?
「ここで焚き火するのでいいの?」
「ああ、周りの草が燃えないようにしてもらえるか?」
「ボク、薪拾ってくる」
ルルが森の方へ向かったので、慌ててクロスケに一緒に行くように伝える。
さて、じゃあ石で囲いでも作ればいいかな。
《起動》《石壁》
石壁っていうか石かまど?
こっちの世界の暦で五月。全然寒くはないけど、魔物避けの意味でも火はつけておいた方が良いんだろうね。
「作ってもらってから気づいたが、ミシャがいるからお湯を沸かす必要もないんだったな……」
「うん、ごめん」
バックパックから皆のカップが取り出されて石かまどの側に置かれる。
とりあえずお茶にしましょ。他の人たちは……こっち見たりしてないよね。
一応、見えないようにしつつ、エルフの里でもらったなた豆茶?を淹れる。
ふわっと香ばしさが漂い、なんだか少し落ち着いた気持ちになれた。
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