第64話 原因は元から断っておきたい

「グゴアアアァァァ!」


 えええええ……

 ルルの戦槌ウォーハンマーが直撃した熊の左腕、変な方向に向いてるんですけど……

 隣のディーも目が点になってるし。


「あっ!」


 流石に分が悪いと思ったのか、くるりと背を向けて逃げ出すレッドアーマーベア。

 川を渡って逃げようとしたところで、


「水の精霊よ!」


 川の水が持ち上がってその巨体を覆う。

 うーん、えげつない……っと、兄弟とクロスケは?


「せいっ!」


 あ、片手半剣バスタードソードが喉にグッサリと。クロスケが足を攻めて動きを止めたからなあ。

 剣が抜かれ、どうと前のめりに倒れるレッドアーマーベア。


 ディーの方も終わったみたいだし終了かな。

 あれ? 私、ひょっとしなくても土壁作っただけ?


「すまん、正直、助かった……」


「まさか二匹いるとは思いませんでした……」


 ぐったりした様子の兄弟が戻ってきて、


「ちぇっ、もう一発殴れるかと思ったのになー」


「いや、アレはちょっと相手が可哀想になったぞ……」


 ルルとディーも戻ってくる。

 そして最後に、


「ワフッ!」


 褒めてと言わんばかりにクロスケが戻ってきたので、遠慮なく頭を撫でてあげると、満足したように一歩進んで、


「ウオォォォォ〜〜〜ン」


 と勝利の遠吠えを上げた。


***


 二頭のレッドアーマーベアの解体がエルフの男たちの手で行われている。

 一頭ならまだしも、二頭を持ち帰るのは無理なので、兄とクロスケの二人に里に行ってもらって、人足を呼んでもらった。

 解体に関しては私もルルも素人。ディーは一応できるらしいけど。


「皆さんはゆっくりしていてください」


 兄はそう言って、手伝いにきた人足にテキパキと指示を出していく。

 弟の方は解体の名人っぽく、自分が倒した方の熊をあっという間に解体し終わっていた。


「これを」


 血塗れの手で持ってこられると猟奇っぽいので洗ってからにしてくれないかな?

 とは思うものの、すぐに渡そうという気持ちからだと思うので黙っておく。


《起動》《清浄》


 どうせもう一体で汚れることになるだろうけど、ガッツリと清浄してからそれを受け取った。

 大きさはテニスボールくらい?


「あ、ああ、すまない」


「気にしないで。もう一体の方、手こずってるみたいだし、行ってあげたら?」


 そう答えるとすごすごと弟が戻って行った。


「相変わらず、ミシャは容赦がないな」


 いや、ちょっと疲れてるんです、ホントに。何もしてなかったけどさ。

 ルルが乱入した方のレッドアーマーベアと対峙したときに肝が冷えたのもある。

 強いし大丈夫だと思ってはいるけど、やっぱり何かあったらと思うと……


「ミシャ、大丈夫?」


 ルルが心配したのか声をかけてくれ、私は現実に引き戻される。

 受け取った魔石……まだほんのり生暖かいそれをルルに手渡した。


「わあ! これなら白金貨五枚ぐらい?」


「そうね、オーガロードのよりも小さいし、それくらいかな」


 魔石は大きさで指数関数的に価値が上がる。

 オーガロードの魔石は結局白金貨十二枚だったので、一回り小さいから半分ぐらいかなと。


「すまん。今度はちゃんと洗ってきた」


 また弟が来てディーが溺死させた方のレッドアーマーベアの魔石を渡してくる。


「え? 二つとも良いの?」


「そりゃそうだろう。一つは俺たちが倒したが、それは元々渡す予定だった。そして、後から来た奴は君らだけで倒したんだからな」


 なるほど、確かに。


「じゃ、受け取るけど。あ、肉とか皮はやっぱり持っていくのは手間なので、そっちで処分してくださいね」


「わかった。ありがたい」


 それを聞いて弟はほっとしたようで、人足たちに肉と皮は里へと運ぶように指示を出し始める。

 いや、うん、もらうって言っても、そんな量は運べないし。


 念のため、清浄をかけなおしてルルに渡すと、


「にゅふふ、これで白金貨十枚」


 とか言い出した。

 もう既に共有財産が結構あると思うんだけどなあ……


「お待たせしました。里へ戻りましょう」


 兄の方が撤収を伝えてくれたので、私たちも引き上げ。

 途中、少し気になってたことを聞いた。


「二匹いたのは予想外だったとは思うんですけど、このレッドアーマーベアって頻繁に出現するような魔物なんです?」


「いえ、数年に一度といったところです。前回は父もいましたし、一匹だけだったので」


 ちょっとセンシティブな話をされてしまったがスルーしておく。

 それにしても数年に一度の魔物が同時に二体出てきたのは気になる。


「それって大丈夫? もう少し周りを調べといた方がいいんじゃない?」


 ルルも気になる模様。

 だが、ディーはそんなには気にしてないようだ。


「まだレッドアーマーベアがいるようなら長老が勘付くはずだ。その時は念のため二人だけではなく、誰か他もいた方がいいだろうな」


「そうですね……」


 少し気落ち気味の兄だが、今日も相手が一頭だったら兄弟だけで倒せてたかなとは思う。クロスケがいたので出番少なめだっただけで。

 だが、


「これは伝聞なのですが、ここより北西のエルフの里では、ここ数年で魔物の発見数が増えていると聞きます」


 と余りよろしくないことを聞かされた。


「えーっと……街道は問題ないんだよね?」


「街道はベルグとリュケリオンからそれぞれ巡回が出ているから大丈夫だろう」


 ディーがそう言ってくれたので少しホッとしたが、まあ用心には越したことはないか。


「皆さんは明日もう立たれるのですよね?」


「うん、そのつもりだよ!」


「月並みな言葉ですが、道中お気をつけて。今日は宴席になると思いますので、しっかり英気を養ってもらえればと思います」


 その言葉にルルはうきうきだったが、私は「熊肉って臭いって話だけど大丈夫なのかな」とか考えていた……

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