第63話 突発対応は先手必勝
翌朝の朝食も大変美味しゅうございました。
ディーのお母さんは「昨日のスープの残りでごめんなさいね」と言ってたけど、一度こしてあるのか、鹿肉とキノコと野菜の旨味だけが凝縮されていて……雑炊が食べたい味。
朝早くに来るかもとさっさと準備。
皆、完全武装状態で待機すること一時間弱……。これ、こっちから行った方が良くない? って頃に兄弟が現れた。
兄は
「それではよろしくお願いします」
兄の方は物腰も穏やかで村長の血が濃いんだなーって感じだけど、弟の方は不遜なままだ。
まあ、ディーも覚えてないぐらいどうでもいい相手っぽいし、喧嘩するだけ無駄な相手っぽいのでスルーしておく。
前世でもヘルプで入った先にやたら攻撃的な人とかいたけど、ああいうのと揉めるのはホントに時間の無駄だったしね。
私たちは街道を外れて里の南側から入ったけど、今日の熊討伐の先は北側。
村長の息子二人について歩いていると、今日もクロスケを見て両膝をついて拝む人が多い。
「ワフ?」
「クロスケは気にしなくて良いよ」
頭をなでなでしてあげて、やっぱりまた少し大きくなってるのに気づく。
この子、どこまで大きくなるの……
「ここから先は里の外になります。しばらくは大丈夫ですが、一応、気をつけてください」
「わかりました。ディー、任せちゃって良い?」
「ああ、ルルとミシャは温存していてくれ」
ディーにはレッドアーマーベアとの戦闘経験があるし、何かあってもルルがタゲ奪いに割り込んでくれれば、その間にポーション飲ませてなんとかなるはず。四肢欠損とかなければ、だけど……
そんなことを考えていると、先頭を歩いていた兄の方——トゥーリというらしい——が足を止め、がっつりと樹皮を剥がされた大きなヒノキを指差した。
「これはヤツの仕業です」
思ったよりもガッツリ削られているので、それなりの大きさがあるのは理解。
ディーが私の方を見たので、治してあげたいってことなんだろうなとポーションを一つ取り出す。
「ミシャ、数滴で良いからな?」
はいはい、理解してますから。
コルクっぽい蓋を開けて、数滴を魔素で包んで取り出すと、水で百倍ぐらいに希釈してかける。
ディーがそれを見て精霊魔法を唱えると、爪痕が残っていた部分が塞がった。応急手当という感じだけど、やらないよりはマシだろう。
前世でもツキノワグマだっけ?が植林されたスギやらヒノキやらの皮を剥いで大被害、みたいな話を聞いたことがある。
あれはダメな樹を減らしてるなんて説もあるらしいけど、実際はどうなんだろうね……
「その、ありがたい……」
おっと、弟はツンデレですね。
兄の方はその樹の根元にある足跡を見つけたようで、それを踏み消さないように注意しつつ調べている。
「意外と近いかもしれません」
ふとクロスケを見ると、かなり真剣な顔で足跡の辺りを嗅ぎ、スルスルと足音を全く立てずに進み始めた。
どうやら付いて来いということなのか、チラッとこちらを振り向き、また先を見る。
皆がその意味を理解して頷き合うと、少し距離をおいてクロスケの後ろをついていくことにした。
首を低くして、スッスッと進んで行くクロスケがカッコ良すぎて感動しそうになる。
そういえば、前世でも熊と狼は敵同士なんだっけ? 漫画で見た知識だけど……
クロスケがピタリと止まってこちらを見た。その雰囲気からして、おそらく目標を見つけたのだろう。
「(少し下った先は滝の下ですね)」
小声でいう兄。
熊と川っていうと魚でも採ってるのかな? 鱒でもいるんだろうか……
「(では、手筈通りで行こう)」
ディーがそう返し、エルフ三人が音も立てずにクロスケに近づいていく。
手筈と言っても、ディーと兄が遠距離から弓で狙撃し、その後は弟が斬り伏せるというだけ。
ディーはもちろん、兄の方も精霊魔法は得意だということなので、問題はないはずだ。クロスケもついてるしね。
三人が追いついたところで、クロスケがこちらを見た。
大丈夫だよ、ちゃんと見てるからと頷いて返すと、ぐっと伏せて襲いかかる体勢を取る。
ディーと兄が弓を取り出して矢を番え、ゆっくりと引き絞る。
目標まで下りが続いてるということなら狙いやすいとは思うけど……
ヒュン!!
風切音は一つ、放たれた矢は二本。
少し遅れて弟とクロスケが飛び出す。
「(ミシャ!)」
「(うん、私たちも行きましょ)」
もはや足音を消す必要もないが中腰で静かに、けど、急いでディーたちのところまで進む。
そこから見えたのは、首筋に二本の矢が刺さって暴れるレッドアーマーベア。
「あれでもまだ動けるとは」
「援護に向かうぞ!」
私たちが追いついてきたのを知ってディーも躍り出る。
弟とクロスケは既にレッドアーマーベアに届く位置まで進んでいる。
「はあっ!」
その瞬間、クロスケの地を這うような爪薙ぎが右足を襲う。
「グゴアァァァ!」
苦痛に悶えるレッドアーマーベアから血飛沫が舞い、河原の石を赤く染めた。
ディーも兄も援護したそうにしているが、生憎、河原では樹の精霊を扱いづらい。
弟とクロスケの動きを中途半端に邪魔するわけにもいかないと思ったのか、いつでも弓を打てるように構えるに止まっている。
油断はできないが、弟とクロスケのコンビが着実に敵の体力を奪っているようで、私が少し安心したんだけど……
「ミシャ!」
ルルが反射的に飛び出す。
次の瞬間、滝の上からもう一匹、レッドアーマーベアが飛び降りてきた!
まずいっ!
「くっ! 風の精霊よ!」
ディーがルルに当たらないよう曲射するが、矢は頭部の硬い部分に当たって弾かれてしまう。
私も何かと考え、でも、どれもルルを巻き込んでしまう可能性に至ってしまって手が出せない。
「ルルの援護に!」
私もルルを追いかける。
滝上から降ってきたレッドアーマーベアは、弟に狙いをつけて疾走し始めた。
《起動》《土壁》
これでルルが間に合ってくれるはず!
「お兄さんは弟さんの援護で!」
あっちは優勢を維持できれば良い。クロスケもいる。
私はルルの方へ走る。ディーも。
進路を妨害されたレッドアーマーベアが向きを変え、その前に立ち塞がるルルに大きく立ち上がると、
「グガアアァァ!」
振り下ろされた右腕の一撃をルルの
よし、大丈夫!
「やあっ!」
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