第62話 お金を貰うから責任を持てる
「遅い時間に申し訳ありません」
誰?って感じのエルフだったけど、ディーのお父さん、セルティアさん曰く、長老の息子らしい。
その息子さんに連れられて、今、長老のお宅にお邪魔している。
「ご足労いただき、ありがとうございます。そちらにおかけください」
長老の家のリビングには机がなく、囲炉裏のようなものがあって、その周りに丸太を切ったものが椅子がわりに置かれている。
ルルを真ん中に、左にディー、右に私と足元にクロスケが座る。
椅子が低いせいもあって、クロスケは私の膝にどっかりと頭を預けて「撫でて」の模様。
向かい側には長老ともう二人。片方は私たちを長老宅まで案内した息子で、もう一人もその弟だという話だ。
さて、じゃ、話は? って感じなんだけど、三人とも私がクロスケを撫でてるのに釘付けで……
ディー、よろしくと目で合図を送る。
「あー、長老。話があるのではないのか?」
「え、ええ、ごめんなさい。実は最近、里の北側にレッドアーマーベアが出て困っているのです」
ん? クロスケがいるから勝てるだろ?的なお願いなのかな。
そのレッドアーマーベアとやらが、どういう相手なのかわからないんだけど……
「私たちでなんとかしろと?」
「いえ、そうではありません。この二人で討伐に行くので、神獣様にも御同行いただきたいのです」
また言われた。神獣ねえ……このわがままっ子がホントに?
ディーは返答に困ったのか私の方を見る。
ルルは……むふーっとやる気満々っぽい。
「そうですね。行くとしてもクロスケだけは無しです。私たち全員なら、が前提です。それと私はレッドアーマーベアを見たことがないんですけど?」
ルルの方を見ても「ボクも知らない」って感じで首を振ってるし。
少なくともノティアの辺りでは見かけない凶暴そうな熊なんだろう。
「見たことがないのに付いてくるというのか?」
長老の左側に座っている次男エルフが少し挑発的な物言いをする。
エルフにしては強そうというか……細マッチョってこんな感じだっけ?
「ルルとミシャに説明すると、レッドアーマーベアは二人が倒したオーガロードほどではない」
オーガロードという言葉に驚く長老たちだが、あれは自分の中ではイマイチだからなあ。
ディーがちょっと怒ってて、対抗意識から言ったんだとは思うけど、別にここで長老たちと揉めるつもりはない。
「あの時はクロスケもいたし。それでついて行くのは良いとして報酬は?」
ただ働きはしない主義なので、そっちの方が重要。
「なんだと!?」
さっきの細マッチョが吠える。
正直、ディーの故郷の里だから無償でもいいんだけど、そういうサービス出向みたいなのは可能な限り避けたいんだよね。マルリーさんに怒られそうだし……
「黙りなさい、トゥーロ。神獣様にご足労願うのです。報酬はあって当然です」
長老がそういうと細マッチョエルフ——トゥーロっていうのか——は黙り込んだ。
兄の方は落ち着いたもので、特に顔色を変えたりもしないのだが、長老につづけるようにこう言った。
「魔石をそちらに。肉や皮は申し訳ないが我々の里で分けたいと思います」
「了解です。引き受けましょう」
私はあっさりオーケーする。
肉や皮をもらっても荷物になるだけだし、彼らにしても換金先がない魔石は私たちに恩を売るのにちょうど良いはずだ。
「ありがとうございます」
長老はほっとしたように言うが、弟くんの方は不満げだ。
まあ、クロスケが私たちに懐いてるのが気に食わないんだと思うけど。
「それで、いつ行くのだ?」
「明日の朝、また迎えに行きます。朝食後に準備を整えて待っていてください」
優男な兄がそう答えた。
と、なると、明日ももう一日、ディーの家に泊めてもらった方がいいかな……
***
「すまんな、二人とも」
「ボクは全然!」
ルルは蔓草で作られたハンモックに揺られて楽しそうにしている。
なお、ハンモックは二つ。私は床に蔓草を敷いてもらった。寝てる間に落ちそうで怖いから……
「まあ、あの二人とクロスケで問題ないなら見てるだけだし」
「ワフ〜」
答えはしたがすでに眠そうで、ちゃんと聞いてるのか怪しい。
「ねえ、ディー。そのレッドアーマーベア、もう少し詳しく教えて」
私もそれについては聞いておきたかったので、ディーに説明を促す。まあ、凶暴な熊なんだろうけど。
「レッドアーマーベアは普通の熊が瘴気に当てられて魔獣となったと言われている。体長は大きいもので、二人が倒したオーガロードぐらいあるな」
ああ、これ、実際見ると怖いやつだ……
それにしても瘴気か。なんかおどろおどろしい言い方をされるけど、実際には動作不良を起こしている魔素のこと。
どういう理屈で動作不良になったのか。なぜ魔物になるのか。不明な点は多いけど、ダンジョンが回収していたりするので、やっぱりこの世界に良くない物なんだろうとは思う。
「普通の熊じゃないところって?」
「頭、肩、背の皮膚が岩のように硬く、赤くなっているからレッドアーマーベアと呼ばれているわけだが、足もなかなか速いので観戦だと言っても注意した方がいい。頭も良いのでな」
「あの兄弟を放っておいて、私たちの方に来たり?」
「うむ、そういう抜け目なさも持ち合わせている」
ふーむ、用心に越したことはない感じかな。ん?
「っていうか、ディーは見たことあるってことは、倒したことがあるってこと?」
「ああ、王都でまだ覇権ギルドにいた時、北西の森で遭遇したことがある。その時は盾持ち剣士と槍持ちがいて、私は臨時の案内役だったが、樹の精霊魔法で援護する程度で問題は無かった」
なるほどね。そういうことなら、大した脅威でもないと考えるべきか?
「あのお兄さんたちが危なくなったら、ボクたち参戦して良いんだよね?」
「そうね。ディーの話を聞く限りだと大丈夫な気もするけど……。ディーはあの二人を知ってるんでしょ? どうなの?」
「知ってはいるが、どうと言われてもな……」
なんだかよくわからない返事が返ってくる。
「長老の息子二人なんだし、里では有名なんじゃないの?」
「いや、そうだろうとは思うが、私は精霊とばかり遊んでいたので、正直、両親と長老ぐらいしか顔を覚えてないんだ……」
あ、うん、ディーも変なエルフだったね……
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