第58話 ゲートウェイの向こう側
【SubThread:レスタ子爵令嬢ソフィア】
私は休日には必ず教会に来て、
少し前まではこの世界に転生させてくれた
………
……
…
「伊藤
え、あ、はい。えーっと……
ぐるりと見回すと、えーっと星の海? これは夢?
「夢ではないよ。あなたはまだまだ若いのに死んじゃったの」
声が聞こえる先には……緑色の光の球が浮いています。
私が命を落としたとその球が言った?
「うん。それが私」
思ってるだけで伝わる? うん、夢ですよね?
「ううん、夢じゃないよ。あなたは列車事故に巻き込まれちゃったの」
その瞬間、私の記憶がフラッシュバックした。
あ、ああ、私……
「辛い記憶を思い出させてごめんね。そっちの世界の神様も不憫に思って、私たちの世界に来てもらうことになったんだ」
私たちの世界?
「そう。まだ文明も発展していない世界だけど、あなたが好きだった自然あふれる世界」
そっか……。私、そこでやり直せるんですか?
「うん。そこで一つだけお願いがあるの」
なんでしょう? 私ができることなんて、園芸ぐらいですけど……
「その園芸の力で不毛の荒野となっている場所を緑化して欲しいんだ」
目の前にふわっと映像が映し出され、そこにはヨーロッパの風景?
私が憧れたイングリッシュガーデンが広がっていて思わず見惚れてしまう。
だが……
「この土手の先が不毛の荒野。これからあなたが転生する貴族令嬢の祖先がなんとか土手を作って侵食を食い止めてくれてるんだけどね」
これは大変そう……
それに荒野になってしまった原因がわからないと解決しない気がしますけど?
「原因はこの遺跡の地下にあるんだ。でも、私たちは直接手を出せない」
映像はそのまま荒野を進んでいき、ギリシャ風?な遺跡のところで止まりました。
そこには……岩人形?でしょうか。あれってゲームに出てくるモンスターみたいなものですよね?
運動神経が人並み以下だった私にどうにかできる気がしないんですけど。
「あなた一人では無理でも、力を借りたりすることはできると思う。そのために子爵令嬢に転生してもらうからね」
はあ……。なんだか体よく丸め込まれている気がするんですけど。
失敗したらまた死んじゃうんですよね?
「いやいや、無茶はしなくていいからね? 第一はあなたがこっちの世界で幸せになること。その次に荒野のことを考えてくれれば助かるかな」
慌ててそう言ってくれる神様?に少し親近感が湧きました。
そういうことなら頑張ってみようかな……
………
……
…
『かなり時間が掛かりましたけど、荒野の問題は解決できたと思います。これから少しずつ、緑化頑張りますね』
いつも通り。やっぱり返事はありません。でも、きっと伝わっているはずです。
だから、私は一つお願い事をします。
『ミシャ様と皆様のこと、お守りくださいませ……』
【MainThread】
「ところでゲーティアの街って何か珍しいものがあるの?」
さっそく観光と意気込んだは良いものの、私には「ここへ行きたい」というような知識がないことに気がついた。今さらだけど。
「ん? 西の山脈にあるダンジョンに行くのだと思ってたんだが?」
「やっぱり、あそこだよね!」
ディーとルルが当然のようにそう話すんだけど……
「え、今からダンジョン潜るの?」
「ああ、ミシャはゲーティアのダンジョンを知らないんだな。ルルは教えてなかったのか?」
「んー、ボク、前に言わなかったっけ? ミシャが好きそうなしっかりした入り口のダンジョンが西の山脈にあるって」
そう言われ、こめかみに指をあてて記憶を遡る……
私が好きそうな? しっかりした入り口の?
「あー、ノティアのダンジョンの入り口を見た時にそんな話をしたような……」
あのあとオーガロードが飛び出してきたから完全に上書きされてたよ……
「それそれ! 入り口が広くて白い硬い石に装飾がされてたりしてすごいんだよ!」
大理石的な何かなのかな。まあ見てみたくはあるんだけど……入り口がすごく広い?
というか、今って昼の二の鐘ぐらいだから、ダンジョン潜ったら帰ってこれないんじゃないの?
「うーん、見たいけどダンジョン入っちゃったら、今日中には帰ってこれなくない?」
「ああ、そういうことか。心配ないぞ、ミシャ。ゲーティアのダンジョンは入り口から最初の部屋の手前までしか入れないんだ」
ディーのその説明にダンジョンとは一体何なのかと更に混乱するだけだった……
***
「これがゲーティアのダンジョン……」
ゲーティアの街から南西に向かって一時間弱、鐘一つ分ぐらい歩くと、二人の言っていたゲーティアのダンジョンに到着した。
そう、到着したんだけど……
「ここってただの観光地なの!?」
ホントに月並みなセリフだけど、そういうしか無かった。
だって、ダンジョンの入り口までの道の両側に屋台がずらっと並んでるんだもん。
王都にいるときに前もって他のダンジョンの情報とか調べとけば良かったよ……
「ボク、肉串買ってくる!」
「ワフッ!」
ルルとクロスケは完全に観光気分で屋台に突撃していった。
呆然としている私の肩をディーがポンと叩き、
「ミシャ、あっちにグリーンベリージュースが売ってるぞ」
ニッコリ微笑んでそう教えてくれる。
はいはい、期待した私がわるーございましたよ!
「はあ、じゃ、ルルたちの分もお願い」
そう言ってディーを送り出す。あんたも観光気分でしたか、そうですか。
来る途中に聞いた話では、このゲーティアのダンジョン、一般人は入り口から最初の部屋の前までしか入れないらしい。
その最初の部屋に入るには、これまた大きい扉があって閉め切られているんだとか。
私はそれ聞いて「また、ロゼお姉様が何かしたの?」と思ったが、四百年ほど前に見つかった時からそうだとのこと。
それでも油断はできないけど……
「ミシャ! はい、あ〜ん」
「ん、あ〜ん」
戻ってきたルルが肉串を差し出すので一欠片分もらう。
こっちの世界はタレの概念がないようで、素朴な塩味だが美味しい。
「ミシャ、三人分買ってきたぞ」
ディーも戻ってきて、私とルルにカップを渡してくれる。
鉄製のタンブラーっぽいカップは飲み終わったら返すことになってるそうだ。
「んー! 酸っぱ美味しい!」
「はい、ミシャ、もう一口〜」
「あ〜ん」
完全にダメな大人になってきた……
***
「確かにこれは大きいね……」
屋台を巡りながらようやく門の手前にたどりつく。
十段もない階段を登ると、そこには巨大な入り口が待ち構えてくれていた。
馬車四台が並走できる王都の主要道路ぐらい広く、高さは二階建て分ぐらいまである。
「装飾がまたすごいんだよ!」
ルルに引っ張られ、大理石風のそれに近づいてみると、なかなかの細かさで模様が彫り込まれていて芸術性も高い。
「この門に彫り込まれている装飾は劣化しないそうだ」
「(ミシャだったら何かわかったりしない?)」
小声で聞いてくるルル。
確かに気になるけど……
状態保存の魔法?とかってどうやって実現するんだろ。
自分が持ってる知識で考えると、一番に思いつくのは時を止める系の時空魔法かなあ。
あ、でも、魔法がかけられた時の状態に、常に修復されてればいいって線もありかな。形状記憶復元魔法?
「(いくつか思いつくけど、ここで試すのはダメでしょ)」
小声で返す。だって、門のそばで普通に衛兵さんが見張ってるんだもん。
そりゃ、ルルの身分があれば怒られない気もするけど、それでまたノティアの領主様やエリカに迷惑がかかっても申し訳ないし。
あと、ナーシャさんにバレたら絶対に怒られる……
「さあ、奥に行こう」
ディーがちょうど良く先に促してくれたので、私たちはダンジョンをそのまま進む。
しばらくすると、真ん中でぴったりと閉められた扉が現れた。ここで行き止まりという扉だ。
ぱっと見、開くドアではないよね、大きすぎるし。引き戸かなと思うけど取手もなし。
「昔見たまんまだね」
ルルは王都の学園に通っている時に、見学に来たことがあるそうだ。
社会見学とか修学旅行とかそういう雰囲気なんだけど、こっちの世界にもそういうのあるのね。
「以上だが、ミシャ、感想を」
ディーが良くわからない〆を求めてきたので、少し考えてこう言っておくことにした。
「まあ、次ここに来るときは、この扉の向こう側から来ることにしましょ」
と……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます