出張メンテナンス
第49話 不具合修正お見積もり
「クックック! 我を召喚せしは汝らか!」
「こらー、椅子の上に立つなんてお行儀悪いですよー」
椅子の上に立っていつもの病気を発動させるサーラさんだが、マルリーさんにひょいと持ち上げられて地面に下ろされる。
子供扱いするなとかどうとか揉めているみたいだけど、サーラさん結構小さいから大人と子供のやり取りに見えるよね。
「あのー、説明始めていいですかね?」
「ん、ああ、ごめんごめん。ちょっと懐かしいやりとりを君らに見せたくなってね」
「このやりとりも久しぶりですねー」
緊張感のかけらもないんだけど大丈夫なのかな、これ……
「とにかく、わざわざお呼びした理由について説明しますね」
場所はいつものワーゲイさんの邸の客室。ルル、ディー、私、クロスケに加え、マルリーさんとサーラさんがゲスト。ゲストっていうか追加人員予定なんだけど。
王都に来る途中でルシウスの塔でエリカに会ったこと。
王都でルルの付き添いで晩餐会に出たらエリカに捕まって、結局ルシウスの塔の続きに挑戦してクリアしちゃったこと。
クラリティさんに弓を頼んだら、ノティアのインターンの件にまで絡んでて、その原因というかレスタ家ソフィアさんと知り合って、何でそんなことをしたのかとかいろいろ……
「なるほどー。悪気があったわけじゃなくて、カピューレの遺跡と荒野化の問題を解決しようとしてたんですねー」
「気持ちはわかるが、もう少しやり方があったような気もするけどねえ」
「そういうことなんで、カピューレの遺跡の調査、手伝ってくれます?」
さっくりと依頼内容を伝える。交渉はここから。
「私は構いませんよー。ちゃんと報酬が用意されてるんですよねー?」
「我も同じく!」
あら、あっさり……
で、報酬に関しては普通に依頼額を五等分して渡すということになった。調査ができれば金貨五枚。解決できればプラス金貨五枚がそれぞれ一人当たりの報酬になる。
というか、金貨五十枚の依頼が塩漬けになってるとか。この依頼、どんだけ危険視されてるんだって話だよ。
「ミシャさんのことですからー、既にいろいろと調査はしてるんですよねー?」
「あ、ええ、まあ。ただ、遺跡の周りはともかく中身についての情報がほとんどないんですよね」
「あれ、そうなの?」
不思議そうなサーラさんに王城の第二書庫で調べたことをつらつらと話す。あの遺跡の歴史とか近辺にいる魔物とかロックゴーレムの話とか。
「うーん、どうします、サーラ?」
「話しちゃっていいんじゃないの? 判断に困るならロゼ様に聞く?」
は? なんか聞いたことある名前が??
「じゃ、話してしまってー、問題があったらミシャさんからロゼ様に謝っておいてもらいましょうかー」
そう言ってマルリーさんが話し始めた内容は、なかなかちょっと衝撃的な内容だった……
***
記録には残ってないけど、百年ほど前にマルリーさんやサーラさんの『白銀の乙女』という名前で有名だったパーティーがカピューレの遺跡を調査したらしい。
え? 百年ほど前ってことはマルリーさん……おっと、なんか御者台の方から殺気が……っていうか何者なの!?
ソフィアさんを含めた六人プラス一匹は今、レスタ子爵家の領地を目指し、王都を北西に進んでいる。
王都から真西にあるレスタ領だけど、間にあるトムソン子爵家の領地はレスタ領との便が悪く、あまり通りたくないらしい。いったん北西にあるリュケリオンとの国境の街ゲーティアで一泊、そこから南下する予定。
ちなみにゲーティアは国境ということで王都の直轄領らしい。なるほど。
「急な出発になっちゃったけど大丈夫だった?」
「はい大丈夫です。いつでも行けるように準備してましたので。それに、高名なお二人に来ていただけて、本当にありがとうございます」
そう言って頭を下げるソフィアさん。
ルル、ディー、私とソフィアさんはレスタ家の馬車の車内に。マルリーさんとサーラさんが交代で御者をしてくれている。
「私、よく知らないんだけど、マルリーさんもサーラさんも有名人なの?」
「傭兵ギルド関係者の間ではかなり有名です。今はお二人別々の街でギルドマスターをしておられますが、その前は『白銀の乙女』というパーティーであちこちの国で活躍されたとか……」
「へー、そうなんだ!」
「ルルは領主様やミュイ殿、ダッツ殿から聞いたりしなかったのか?」
「ううん、全然」
領主様は確実に知ってそうな気がするんだけど、あえて言ってなかったのかな。
ソフィアさんが知ってる話では『白銀の乙女』は五人いたらしい。つまり、あと三人の乙女がいるってことかな。きっとどこか別の街で『白銀の〇〇』っていう傭兵ギルドのギルマスをしてるに違いない。
で、マルリーさんがメイン盾なのは知ってるんだけど、サーラさんはいわゆる盗賊ポジらしい。斥候から罠発見・解除、物理的な鍵の開錠などなど。戦闘ではDPSとサポをスイッチしながら臨機応変に立ち回る万能職といったところ?
「それで、お二人が以前にカピューレの遺跡に潜られたことがあるのですね?」
「うん、私も驚いたんだけどね。ただ、その時は二人曰く、不完全燃焼だったんだってさ」
「はあ……」
二人の話だとカピューレの遺跡には中央付近に地下への入り口があるそうで、それを見つけてさあって思ったら、入り口の扉が開かなかったとか。
その話で気になったのが、ロゼお姉様がどう絡んでいたのか?
これに関してはソフィアさんには話せないことだけど、入れなくて悔しかったパーティーメンバー全員でロゼ様に助言を貰いに行ったら、
『あー、あそこはちょっと問題があるから開けないで』
って言われたらしい。何だそれ……
「その入れなかった扉っていうのは、私たちで開けられそうなんでしょうか?」
「ボクはミシャだったら開けられると思うね!」
ルルが自信満々に言ってくれるけど、それに関してはその場に行ってみないと何ともかな。
サーラさんの話だと物理の鍵ではなく、魔法で封がされているそうだけど、パーティーにいた魔術士さんは解析できても開けられなかったそうで。
ノティアのダンジョンの時みたいな施錠が掛かってるんだったら、開錠の数値か何かが絶対に必要だと思うんだよね。
それにしても『ちょっとした問題』ってのが怖いなあ。手に負えないような魔物がいるので、しょうがなく閉じ込めてるとかだとやだな……
***
「へー、いいところだねー」
レスタ領は西の山脈の麓にある中規模の街。
街の中心部はそこそこ建物が密集しているけど、ノティアほどではない感じかな?
西側の斜面では放牧が行われているようで、羊の群れが雲のように動いている。アル〇スの少女っぽい娘がいたりする感じ。
「レスタ子爵家の館は南西斜面にあるあの建物です」
「はーいー」
ソフィアさんがそう伝えると、馬車は街の中央を右折し、山の方へと進んでいく。
「何だかエルフの里のことを思い出すな」
「ディーの故郷と似た感じなの?」
「山の麓という意味では似ているが、私の故郷はもっと鬱蒼とした森に覆われている」
「そういやディーの故郷ってどこなの?」
あれ? 聞いたことあったような? いや、無いよね、多分。
「ああ、私の故郷はベルグとリュケリオンを繋ぐ街道沿いにある森の奥にある」
「じゃあ、リュケリオンに行くときに寄ろうよ!」
「え? みなさんはベルグを離れるつもりなんですか?」
あ、その辺の話ってしてなかったっけ。
私たちはざっくりと西へ向かう予定だよーって話をする。流石にロゼお姉様の名前は出せないので、武者修行?ってな感じに。
「もっといろいろと教えて欲しいことがあるんですが……」
「遺跡の問題が解決するまで、できる限りのことを教えよう」
「精霊魔法はディーよろしくね。それ以外は私か……マルリーさんかな?」
「よろしくお願いします!」
そんなやりとりをしているうちに、目的のレスタ子爵家の館に到着した。
***
レスタ子爵様やその奥方に丁寧に迎えられ、豪勢な羊料理をご馳走になり、客室にて作戦会議。
ルル、ディー、私が泊まる部屋に、マルリーさん、サーラさん、ソフィアさんが来て、明日からどう動いていくかを確認する。なお、クロスケは私のベッドでごろ寝中……
「ではー、作戦会議を始めましょー。はい、ぱちぱちぱちー」
いつものペースで開会を宣言するマルリーさん。何だかノリで拍手させられてるソフィアさん、ごめんね変な人で……
とはいえ、明日からどう進めるかの指針は必要なので、私の方で考えていたアイデアに皆がダメ出しをしてもらう感じで。
とりあえず明日は荒野地帯との境界まで行って視察。その境界までは二時間ほどで行けるらしい。
「質問! 今ってその境界に壁とか作ってるの?」
「はい。しっかりした石壁とかではなく、土手といった感じでしょうか。荒野からの乾燥した風を防ぐ意味が強いですが」
「魔物はそれを越えてくるのか?」
「ええ、去年末から少しずつ増えてる感じです……」
「え、今、大丈夫なのそれ?」
「臨時の衛兵詰所を建て、交代で領兵に詰めてもらっています。退役した方達にもお願いしていたりするので、なかなか心苦しく……」
ノティアもかなり領兵は少なめだったけど、それよりさらに少なそうだもんね。ノティアだとあのがっちりした街壁もあるからいいけど、土手だとすると結構厳しいかな……
実際、領兵さんたちも侵入してきた魔物を駆除できてるわけではなく、何とか追い払ってるというレベルらしい。それで十分だと思う。命には変えられないし。
「なるほどね。で、ミシャちゃんはどうするつもりなんだい?」
「とりあえず土手を見て、そこを改良して魔物が入ってこれないようにする感じですかね」
「……そんなことできるの?」
「ミシャならできちゃうね!」
「できそうだな」
「ですねー」
身内からの高い評価が辛い。とても辛い。
それにしても、カピューレの遺跡から広がる荒野ってレスタ子爵領だけが接してるわけじゃなさそうなんだけど他はどうしてるんだろ?
セラードから王都へと北上する時に西側に見えた荒野は、そのカピューレの遺跡から続く荒野だと思うんだけど。
その辺りを聞いてみると……
「東側のトムソン子爵領はもともとその地域に住む人が少なかったので、荒野化する地域を完全に捨てて今に至ります……」
「なにそれ! ちょっと無責任だと思う!」
ルルが抗議の声を上げるが、領内の統治は領主の権限なのでなんとも。
まあ、レスタ子爵家は諦めずにそれを食い止めてるわけだし、その土地を治める者としての義務を放棄してる気がするのもわかる。
ここに来るのにいったんゲーティアを経由したけど、その辺の事情もあったりするのかな。
「これを言うべきか迷いますがー、トムソン子爵家のご子息は最初のいんたあんパーティーのリーダーさんですよー」
「うげー」
ルルが露骨に嫌な顔をし、ディーは顔を
なるほど、お隣さんってことは最短ルートを抑えられてる圧もあったのか。辺境領の統治とか大変すぎでしょ……
「うーん、そうするとカピューレの遺跡で原因がうまく解決できた時のことを今のうちに考えておかないとダメかもね」
「ん? どういうことだ、ミシャ」
「あの荒地に緑が戻ったら、当然そこに人が住めるようになるし、収入が期待できるようになるよねえ」
「ですねー。あの場所は今はどこの領地になるんでしょー?」
「あっ! そういうことか!」
「これはエリカに相談しておくべきだったな」
そうなんだよね。気づいておくべきだったなあ。
サーラさんの言う通り、荒野化した箇所が全て緑の大地に復活すると、当然そこに利権が発生することになる。
もともとあったカピューレっていう村?街?も昔の話で境界線なんてなかっただろうし、そもそももうそこに統治権がある人がいない。
となると、マルリーさんの問いに対する一番無難な答えとしては『直轄領』だと思う。現在接している領地は全て荒野の端までを領地として確定し、荒野の部分は全て国で一時預かりってのが妥当な線かなあ。
「ま、頑張って全部解決できてから、エリカに相談することにしましょ。原因が取り除けたからって一瞬で緑の大地になるわけじゃないんだし」
取らぬ狸の皮算用って言うし、そういうことは解決してからってことで、今日の会議は終了となった。
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