祝勝会はサプライズとともに
第44話 実績を解除しました
翌日。エリカからは一日休んでから呼ぶと言われていたので、今日は完全にフリー。ということで『白銀の短剣』ギルドに向かう。
ルシウスの塔に行く前にいろいろとお世話になってたのでお礼に。で、ついでに、エリカの件について何かしら情報があればいいなーって。
ただ、ルルは流石に有名になり過ぎたのでお留守番。まあ、少しは親孝行というか家族とゆっくり過ごして欲しい。
そんなわけで、今日は私とディー、クロスケというメンバー。このメンバーなら普通に出歩いて問題ないかな、と。
貴族街を出て王都西側に向かう。お昼前でそんなに人通りは多くない感じ。昨日の凱旋時は本当にすごい人集りだった。百年以上ぶりのルシウスの塔の最上階突破だしね。
「一晩たって落ち着いたという感じか?」
「そうだねー。でも、改めてお披露目っていうか何かするみたいなこと、シェリーさんも言ってたし、それが終わるまでは王都にいないとだろうね」
「ふむ。まあ、しょうがないか。クラリティ殿にお願いする弓の件もあるしな」
そんな他愛のないことを話しているとクロスケが左手をペロっと舐める。これは二人の間で取り決めてる合図なんだけど。
クロスケを撫でてあげつつちらっと左手後方に目をやると、どうやら尾行がついてるようだ。エリカが手をまわした護衛とかならいいんだけど……。そんなことを考えながら歩いてると目的の『白銀の短剣』に到着した。
***
「こんにちはー」
「よく来たな! 盟約により結ばれた同志たちよ!」
相変わらずの厨二っぷりを披露してくれるギルドマスターのサーラさん。ルルの肩ほどもない背の高さだが、ワーゲイさんからハーフリングだと聞いたのでなるほど感がある。
「まあ、座るがいい。強者の証明を手に入れたその叙事詩を我に語ってもらおうではないか!」
「あ、えーっと、それはいいんですが……」
私は声を落として尾行がついていることを伝える。と、ディーが慌てて振り向こうとしたので頭を鷲掴みにして止めた。
「い、痛い痛い!」
「気づいてるのバレちゃダメでしょ」
「そ、そうか」
ディーを離し、サーラさんに目を向けると、大きく頷いて後ろにある階段の方へと歩き出した。
「クロスケ、また階段下で見張っててくれる?」
「ワフッ!」
『白銀の盾』にいた頃と同じようにクロスケに留守番を頼んで、私たちも後に続く。
階段を登った先はリビングになっていて奥の扉の先はサーラさんの寝室だそうだ。『白銀の盾』のように裏庭があったりはしないので、応接室や客室なんかはない。
「ノティアみたいに広い場所もうらやましいけどね。王都の便利さからはなかなか離れられないんだよね、これが」
そう言いながらサーラさんがお茶を入れようとしてくれるので、私たちもそれを手伝う。
お湯を沸かす手間を取らせるのもなんなので、私がいつもの魔法でお茶を淹れる。
「あんた……器用なことするね……」
「魔法の練習みたいなものですし」
全員がソファーに腰掛けてゆっくりとお茶を飲む。なかなかいい感じかな。最初の頃は濃すぎたり、薄すぎたりと失敗したもんだけど。
「さて、君たちが作り上げた伝説を語ってもらおうか!」
「は、はあ……」
………
……
…
サーラさんは第十五階層は突破していて十六に行かず、そのまま続きは行ってないということなので、第十五階層までを話す。
とはいえ、第十一階層でストーンゴーレムを魔法付与の書き換えで転向させたことは秘密にしたいので、そこに関しては伏せて話した。実際、第十五階層まではゴーレムいなくても何とでもなる感じだったし。
「なるほど。距離がある間は君とディー君で敵を減らし、近づいたらシェリー君とルル君がそれを受け止め、エリカ様とクロスケ君が遊撃として各個撃破。なかなかいい戦術だね」
「たまたまでしたけど、いい編成だったなって思います」
「しかし、そのまま一日で最上階まで突破するとは誰も思ってなかったんじゃない?」
「周りはそう思ってたんですかね? 私たちは一日で終わらせるつもりで、それが無理そうだったらすぐ諦めてたと思います」
これは偽りなく本音。途中で休憩はまだあるかもって思ったけど、そもそも休憩挟まないといけないほど時間かかるようなら、力量不足なんじゃないかなって思ってたし。
「なるほど。それは正しい判断だね」
サーラさんは納得したようで、お茶を一気に飲み干して続ける。
「で、尾行してるのはどちらさんなのかわかる?」
「エリカが気を回して護衛目的でつけてくれているのではないか?」
「うーん、私もそう思いたいんだけど、それなら別にあそこまで隠れる必要はないと思う」
護衛目的なら別に隠れなくていいし、なんなら『護衛してます』って言ってくれそうな気がするんだよね。
「どうするつもり?」
「放置……ですかね。今日はこれから買い物に出るくらいなので、まさか襲ってくることはないと思いますけど」
「向こうが手を出してこないなら、それ以外に手はないだろうな。それか直接聞いてみるか?」
いや、それはちょっと危険かなって気もする。こちらからわざわざ藪を突く必要はない。
……これ、フラグになってないといいんだけど。
「で、ですね。報告とは別にちょっと聞きたいことがあって……」
「ほう、我が叡智の欠片が必要とな!」
思い出したように厨二されるとびっくりするのでやめて欲しいなあ。
それはそれとして、エリカについての話を聞いてみる。あくまで王都にずっと住んでいる人からの意見が欲しいってぐらいだけど。
サーラさんから聞いたエリカの話では、エリカが王位を簒奪する可能性は限りなくゼロって感じだった。
そもそも、そういう話が数年前、エリカが十五歳で成人する時にあって、結果的に本人が『たとえ資格があったとしても王位を継ぐつもりはないし、次の王となる王子を支えていく』と宣言したことで落ち着いたとのこと。
まあ、それなら今さら王位を簒奪しようなんてことはないよね。ルシウスの塔はやっぱり単純に力量を測りたいってだけの線が濃厚……
あと、結婚相手についても現状では候補ゼロらしい。本人がそんなつもりがなさそうなのは見ててわかったけど、国王も消極的だとか。相手の問題もあるもんね。
「ルルのお父さんもお兄さんも考えすぎってことかな?」
「そうだな。これ以上は我々が考えてもどうにもなるまい」
ディーに頷く。ぶっちゃけ、エリカがどう考えてるかわかっても、私たちにできることってほとんど無いんだけどね。
「こればっかりは庶民がすごい裏話知ってるとか無いし、これ以上は逆立ちしても何も出ないよ」
「ありがとうございます。前に騒ぎがあったことは私も知らなかったので助かりました」
私がそう言って立ち上がると、ディーもそれに続く。
今のところ聞いておきたいことはこれくらいかな。いろいろ落ち着いたらここで依頼でも受けて小遣い稼ぎをしようと思ってたんだけど……
「クックック、再び会い見える日を楽しみにしておるぞ」
「いろいろと落ち着いたらまた来ますね」
サーラさんの厨二を軽くスルーし、私たちは階下へと降りる。お昼寝していたクロスケが顔を上げてこちらを見ると首を横に振った。
ん、尾行してた人たち居なくなったの? いったい、何が目的だったのやら……
まあ、これで街をゆっくり見てまわれそうだし、気にし過ぎてもしょうがないか。
「さて、この後どこへ行くつもりだ、ミシャ?」
「うーん、まあ適当に街を見てまわる感じかな。でも、人通りの多い所にしましょ。どうやら尾行は消えたみたいだけど、用心にこしたことはないしね」
ほどほどに注意はしつつ、ゆっくりと街を見てまわって帰ったのは夕方ぐらい。
ルルが随分とお冠だったので、やっぱり落ち着いたらまたみんなで街をまわらないとかな。
***
「んー? あたしは尾行なんて指示してねーぞ? なあ?」
「はい、そういった指示は受けていませんし、私の方でも出していませんね。日中、王都の街壁内で人攫いのような真似はほぼ不可能ですし……」
「うーん、気になるけどいいか。今すぐ実害があるわけじゃないし」
「次は捕まえようよ!」
ルルが気楽に言うが、それはそれで余計なフラグが立ちそうで怖い。
シェリーさんから改めて護衛をつけるかどうか聞かれたが、今のところは無くていいと答えておいた。今日みたいなのだったら気にするだけ無駄だしね。
で、今日、エリカの屋敷に呼ばれた理由は別にある。
「明後日、王城であたしらの偉業を讃えてくれるそうだ。ルルには王との謁見から付き合ってもらうが、ミシャとディーはその後開かれる祝勝会からだな」
「うえー、大変そう。明後日とかすぐだし……」
「あー、ルル、頑張ってね」
「祝勝会の方はそんなに形式ばった感じではない、ということか?」
「はい。そちらには貴族だけではなく、各ギルドの幹部などの一般市民も参加しますので、気を使わなくて問題ありませんよ」
んー、形式ばった場所でないのはありがたいけど、私とディーがエリカに手を貸したのは完全にバレることになるのか。それはそれで大変そうな予感。
「うーん、私たちのことバレちゃうのか……」
「わりーな。まあ、来てる連中には言い触らさないようにさせる。それで勘弁してくれ」
「はあ、わかった。それで、どういうかっこで出ればいいの?」
エリカが合図すると、シェリーさんが頷いて退出し、しばらくして戻ってくる。その腕には薄い紺色のローブがかけられている。
「ミシャ様、これをどうぞ」
「あ、うん」
受け取ってそれを見てみると……すっごくお高い感じに見えるんだけどこれ。
エリカに促され、シェリーさんが後ろにまわって袖を通してみたところほぼピッタリ。若干大きいかもだけど、短いよりはずっといい。
表側は目立った装飾がほぼ無いんだけど、裏地には刺繍なのか模様が入っている。で、その模様に使われてる糸なんだけど……なんかよくわからないけど特別な糸っぽい?
「おお、ミシャ、似合ってる!」
「いいのこれ? 裏地のこれとかよく知らないけどすごそうだし……」
「あたしにもよくわかんねーんだよな。まあ、あたしのお袋が着てたやつだし、かなり良いやつだと思うぜ?」
「ちょ! そんな大事なのダメでしょ!」
「いいんだって。あたしは着る予定まったくねーんだし」
カラカラと笑うエリカ。けど、これってルシウスの塔で獲得したエリカの籠手やルルの戦槌よりも値が張りそうで怖い。
「エリカに子供ができたら、その子にあげれば良いじゃない」
「んー、そん時はミシャがもっといい奴をくれんだろ?」
「どうやら受け取らないわけにはいかないようだな」
「はあ、そうだね。ありがとう、エリカ。ちゃんと大事にするし、もっと良い物で返させてね」
エリカはその言葉を聞いて満足そうに頷く。と、邸の表から馬車の止まる音が聞こえた。
「誰か来たみたいだけどいいの?」
「ええ、少し外しますが、ちょうどここにお呼びした方かと思いますので」
そう言って、シェリーさんが部屋から出る。
私は着ていたローブをいったん脱ぎ、改めてソファーに腰を下ろした。
「ドレスじゃなくてこれを着てこいってことは、塔に行った時みたいな完全装備で来いってことでいいんだよね?」
「ああ、あたしもルルもシェリーもそうだ。ま、あたしはいろいろ終わったら着替えろって言われてるけどな」
「ボクも着替えなきゃなの?」
「ルルはそのままでいいぜ。ただ、めんどくせーからって早々に帰らないでくれよ」
「それはわかったけど、私たち祝勝会でなにしてればいいの?」
「ルルはディーと、あたしはミシャと来客対応だな」
うわー、一番面倒なやつだ……。とりあえず隣でニコニコしてるしかないかな。
ルルが少し不満そうな顔をしているが、それが妥当な線と理解しているのか、文句を口にはしない。
「ミシャ、あたしたちはちょっと問題のある貴族を相手にすることになる。すまねーが、変な小細工がないように気を張っといてくれ」
「え、私にそんなことできるの?」
「例のレスタ家の令嬢ってのも来るはずだ。ミシャなら何されてるのかわかるんじゃねーの?」
「あー、そういうことか。じゃ、いくつか思い当たることがあるし、それはちゃんと考えておくことにするよ」
精神操作が魔素を使った何らかの無詠唱魔法。光を使った催眠術や香料を使った精神誘導とか……マインドコントロール系の話を前世でも聞いたことがある。
そういうのを感知する仕組みは早めに作っておいた方が良さそうだしね。
「お待たせしました。クラリティ殿がお越しくださいました」
戻ってきたシェリーさんの隣には、弓作りの名人、クラリティさんの姿があった。
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