第42話 ベリファイ
転送魔法の光が収まると、そこは待機室の半分ぐらいの小部屋だった。
「ここがそうなの!?」
「うん、管理室だね。ほら、あれがダンジョンコア」
私が指差した先にはバレーボール大の真っ白い球。ノティアのダンジョンと一緒かー。
こちらもまた土台に据えられており、淡い光を放っている。
「へー、こうなってんだな」
「なんというか、夢を見ているわけではないですよね?」
「ミシャだからな。慣れてくれ」
ディーがいつもの無茶苦茶を言ってるがとりあえず無視。
「椅子出してもらうからちょっと待ってね」
『人数分の椅子、出してくれるかな』
『了解しました』
スッと五人分の椅子っぽいものが現れた。椅子っていうかただの出っ張りだよね。いいけど。
「えーっと、いろいろ聞きたいことがあると思うけど、まずは頭の中で整理しててください。その間に私は自分の用事を済ませるから」
「はい! はいっ!」
いきなり手を挙げるルル。はあ……
「どうぞ」
「ミシャの用事ってなんなの?」
「このダンジョンの用途とかを確認したいだけだよ。あと、ホントに攻略に来た人たちを殺す気がないのかとか?」
「おー、なるほどー!」
納得してくれたのを確認し、私はダンジョンコアとの対話を始める。
『えーっと、まずはパスワードの変更を』
『了解しました。まず現在のパスワードを入力してください』
おなじみの手順でパスワードを変更。とりあえずこれで私以外は入れなくなったはず。
『で、えーっと、あなたはどう言ったダンジョンなの?』
『回答します。私は対魔物訓練用ダンジョン施設。管理番号P0182です』
『対魔物訓練用ダンジョン?』
『回答します。不良魔素により魔物化した生物およびその子孫を駆逐するためには一定の技量が必要となります。その訓練を行うためのダンジョン施設です』
うん、やっぱり思ってた通りだったかな。
『訓練ってことは殺すつもりはないんだよね?』
『回答します。訓練対象を殺害するつもりはありません。不慮の自体が発生した場合も可能な限りの生命維持を行います』
ふう、それなら安心。しかし、生命維持って……治癒系の魔法があるんだろうか……
『じゃ、えーと、あなたは誰に作られて、誰に管理されているの?』
『回答します。私の制作者は不明です。管理者は現在あなたのみです』
これもノティアと同じか。誰が作ったのかしらないけど、放置してるのも理由があるんだろうか。
『ここに設置された理由はわかる?』
『回答します。設置者が不明のため推測となりますが、大都市近郊で比較的治安の安定したこの場所が選ばれたのだと思われます』
確かにそっか。王都から約一日のルシウスの塔は開けた丘にある感じで見通しもいい。訓練場所としては最適なのかも。
『稼働年数はどれくらいになるの?』
『回答します。現在、稼働から五百十二年が経過しております』
古っ! ノティアのダンジョンの倍以上って。
『ありがとう。ちょっと相談もあるし、しばらく待ってて』
『了解しました』
あらためて皆を見回すと全員が不思議そうな顔をしている。あ、私の足元で丸くなってるクロスケは除いてだけど。
「ミシャ。お前、今さっきまで変な声を出してたが、ひょっとしてあれが言葉なのか?」
「うん、そうだよ。塔の攻略で聴こえてきた音があったけど、あれも塔からの言葉」
「な、なるほど。ミシャ様はそれを理解できるのですね?」
シェリーさんの問いに頷く。
「そいつはわかったが、なんでお前はその言葉を理解できんだ?」
「正直よくわからないんだけど、理由の一つは私が迷い人だからだと思うよ」
「えっ!?」
驚くシェリーさんだが、エリカは特に驚いてもいないみたい。
「ほう、エリカは驚かないのだな」
「んー、まあ、クロスケが毛色を変えてるのはわかるが、ミシャが髪型や色まで変えてた理由がわかんなかったからな。ま、なんかあるとは思ってたぜ」
おー、鋭い。
「ま、詳しい話は後でするとして、さっきまでダンジョンコアと何を話していたか説明するね」
私がさっき聞いた、このダンジョンの目的、ほぼ死ぬことがないこと、この場所にある理由、いつからあるのか、といった話を説明する。
「五百年以上前!?」
「ベルグって国になる前からあったらしーからなー」
そういえば、このベルグの建国からの歴史はざっと本で読んだっけ。
「じゃ、何か質問がある人ー」
「あー、なんか、あたしたち一番って話だったが、どういう判断なんだ?」
なるほど。それは確かに。エリカに頷く。
『私たちがランキング一位だそうだけど判断基準って何だったの?』
『回答します。ランキングのスコアは第一階層から第二十階層までの延べクリア時間です』
単純なクリア時間じゃなくて『延べクリア時間』なんだ。
『私たちの延べクリア時間ってどれくらいだったの? 二位とどれくらい差が?』
『回答します。ランキング一位の延べクリア時間は約三十二時間です。ランキング二位に対し約十時間リードしています』
『えっ、十時間も!?』
『回答します。最大人数六名のところを五名にてクリアしていることが主な理由です』
あ? あー、クロスケはやっぱりノーカンなんだ……
「えっと、最初から最後まで突破するのにかかった時間だって。私たちすごく早かったみたい」
「おお! やるじゃん、あたしたち!」
「今日もまだお昼ぐらいですよね。私は途中で一度塔を出て休憩を挟み、夕方までかかると思っていたんですが……」
あ、そっか。続きから行けるから別に都度出てもいいんだっけ。普段は入場料がかかるけど、今日は貸し切りだから気にしなくていいし。入ったからにはクリアして出なきゃって思ってたよ……
「はいはーい! ボクたちってじーちゃんたちよりどれだけ早かったの?」
「ん、聞いてみるね」
『えーっと、ワーゼル=ノティアって人がいたパーティーは記録はある?』
『検索します。該当一件。ランキング二位です』
ぶっ、一位から蹴落とした相手が領主様だったとは……。延べ時間で説明するとややこしいから、ざっくりした時間で答えておくかな。
「えーっと、私たちの方が鐘二つ分ぐらい早かった感じだね」
「やった!」
あ、そうだ。ノティアのダンジョンの時に確か……
『ランキング二位のパーティー全員が映ってる記録画像とかある?』
『回答します。存在します。表示しますか?』
『うん、じゃ、この辺に出して』
指差した先に平面映像が浮かぶ。ダンジョンが持ってる技術は地球よりも圧倒的に進歩してるんだよね。いや、これって魔法かな。幻影魔法とか?
「「「「!?」」」」
一様に驚いた皆がその画像に釘付けになる。
「あっ、じーちゃんとばーちゃんだ! ほらここ!」
「このエルフはクラリティ殿か? その隣はナーシャ殿とロッソ殿だな」
ルルが指差した先、若い頃の領主様か。で、隣がその奥さんでルルのお婆ちゃん。ルルによく似てるんだけど……ちょっと大人の魅力がある。ルルもそうなるのかな。
と、シェリーさんが震える指先でクラリティさんの隣を指差す。白銀の鎧と方盾に長剣姿。金髪イケメンでかなり強そうな騎士。
「エ、エリカ様、こ、このお方は……」
「ああ、こいつが初代国王だな」
「エリカ様!」
「わーったわーった、初代国王様な」
いや、そっちだけじゃなくて『こいつ』の方もでしょ。
「わー! じゃ、エリカとボクが一緒のパーティーで塔に来るのも運命だったのかもね!」
「だな!」
そう言ってグータッチする二人。確かに血筋ってやつなのかもね、これ。
「さて、そろそろ終わりにして戻る?」
「おう、あたしは賛成だ」
エリカがそういう分にはシェリーさんに異論はなし。
「ボクもかな。ディーもいいよね?」
「ああ、そうだな。そろそろ外の空気を吸いたいところだ」
じゃ、他に何かあったかな……
「あっ、ちょっともう一つだけ」
『あなたがここで付与してる魔法、それを私にもらえる?』
『了解しました。魔法術式を転送保存するための記録媒体を提示してください』
『えーっと、じゃ、これに』
私が
『記録媒体を確認。転送します……同一魔法の存在を確認。前衛ゴーレム用魔法術式を上書きしますか?』
『はい』
『了解しました。転送中……転送終了しました』
『ありがと』
「お待たせ。じゃ、帰りましょ」
皆が立ち上がったのを確認して、私は最後の言葉をダンジョンコアに投げかけた。
『ログアウト』
***
転送が終わり、そこは多分、第一階層の待機室。
そして、閉まっていた扉がゆっくりと開き始める。
「あっ! ミシャ、髪! クロスケも!」
え? あっ! あっ!!
《起動》《地味化》
慌てて地味化を唱えて黒髪ストレートにする。そしてクロスケを……
「ワフッ!」
あ、自分で毛色変化してるし。いつできるようになったの君。
顔を上げると私と扉の間にエリカとシェリーさんが立ち、扉側からの視線を隠してくれていたようだ。
「ごめんごめん。ありがとう」
「おう。まあ、誰もいなかったけどな」
「もう、ミシャってたまに抜けてるよね」
なんか、ルルに言われるとすごく釈然としないんだけど。
ともかく、扉が全て開いて外の風景が見えたが、エリカの言う通り誰もいないようだ。はあ、良かった。
「私が先に報告に行きますので、皆さんはゆっくりと来てもらえれば」
「ああ、頼むぜ」
シェリーさんが駆け出していくのを見送り、ゆっくりと塔を出る。
入る時に並んで警備していた衛兵さんたちも、まさか私たちがこんなに早く塔から出てくるとは思ってなかったのかな。
ゆるゆると歩いて行くと、衛兵さんたちが慌てたようにやってきて左右に展開した。ホント、ご苦労様です。続いてシェリーさんが走ってくる。
「お待たせしました。ギルドカードでの確認はこの先の詰所で行えるよう手配しました」
「おう、行こうぜ」
「おー!」
で、詰所っていつもは入場証を売ってるところなのね。
そこに入るとかなり上等な装いの老紳士が例のギルドカード発行魔導具を持って立っていた。
「大公姫様、非常に早いお戻りでしたが……」
「あ? いいから、これ、さっさと通せよ」
そう言ってシェリーさんにギルドカードを渡すエリカ。口悪いなあ。
相手は多分、覇権ギルドの偉い人なんだろうけど、エリカからしたらほとんどの人が下だもんね。
「は、はい、では……」
シェリーさんが渡したエリカのギルドカードをその魔導具に挿してボタンが押されると……なんか前見た時よりもずっと眩しく光り輝いたんだけど?
「お、おおお……これは、最上階突破の紋章……」
「おい、済んだらちゃっちゃと返せ!」
エリカがそれを取り上げて自分で確認するとニヤリと笑う。
「シェリー、あとルルたちも。ほら」
嬉しそうにそういうエリカに私たちもギルドカードを首から外してシェリーさんに渡す。
それらは次々と光り輝いて最上階突破の紋章が刻まれていった。
「むふふ! これでまたじーちゃんとばーちゃんに近づいた!」
なるほど。ルルはそういう目標もあるのか……
「私は今回はほとんど役に立っていないと思うのだがな」
「そんなことないでしょ。飛び道具は完封してくれたし、最後に磁鉄を飛ばした時もそれが飛び散らないようにしてたし」
「うっ、バレていたのか……」
磁鉄の粉塵がぶつかった後、妙に綺麗に関節に吸い付いてたからね。そういう細かい気遣いができるのがディーらしいところ。
「よっし、凱旋すっぞ!」
「おー!」
エリカを先頭に、ルルとシェリーさんが並んで続き、ディー、私、クロスケと続く。
最上階突破の報せはあっという間に伝わったのか、沿道には人があふれてすごいことになっていた。観客整理の衛兵さん、ホントお疲れ様です……
加えて、エリカのクリア報酬の
ルルの方はちゃんとエリカに華を持たせようと考えているのか、
「ルルは新しい
「えー、ミシャだって新しい魔法を覚えたからって空に撃ったりしないでしょ」
あ、うん、ごもっともな話でした……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます