第41話 タスクコンプリート

 第二十階層の扉は今までと違う豪華で大きいものだった。


「最後にふさわしいじゃねーか。行くぞ!」


 エリカの掛け声で私たちは戦闘フロアへと進む。二十体以上いるゴーレムたちもそれに続く。

 全員が踏み込んだところで、部屋の奥で転送魔法が瞬き、敵軍が現れた。


「予想通りだったな」


「これはなかなか……」


 特大のアイアンゴーレムに大型のストーンゴーレムが二体。その前に弓を構えたストーンゴーレムが八体。盾を持ったアイアンゴーレムが十二体。


「思ったより雑魚が少ないね」


「こっちが多すぎんだよ!」


 私は掛け合ってる二人は放置して詠唱を始める。


《起動》《火球》


 圧縮火球を二発撃って前線の盾持ち数体を吹き飛ばす。弓持ちを二体巻き込んでくれたが、大型のストーンゴーレムにぶつかって止まる。


「風の精霊よ!」


 ディーが飛び道具を封じるための精霊魔法を放つ。


《起動》《全送信:操作:攻撃》


 ゴーレム群が前進を始める。相手の前衛とはほぼほぼ二体一で戦える数がいるので、私たちはゆっくりとそれを追いかける。

 それにしても、ストーンゴーレムとアイアンゴーレムってのは面倒だなあ。雷撃が効けばガツンとやれるんだけど。ナーシャさんたちはどうやって倒したんだろ。


「そろそろ行くぜ!」


 了解を得たいのかエリカが私に振り向く。前衛はゴーレム同士で問題ないので、シェリーさんとペアで弓持ちを狩ってもらう。そして、


「ルル、クロスケも行っていいよ」


 このペアは前衛を後ろから。


「オッケ!」


「ワフッ!」


 四人が前衛をすり抜けると同時に大型のストーンゴーレムが動き出した。


《起動》《火球》


 圧縮火球を食らったそいつらが後ろ向きに倒れる。特大は……まだ動かないか。

 エリカペア、ルルペアともに着実に敵を殲滅している。大型を私とディーで押さえ込んでれば、じきに片付くだろう。


「ディー、お願い」


「ああ、風の精霊よ!」


 起き上がろうとしていた大型ゴーレムの腕が払われて転ぶ。

 これは二人で新たに編み出した精霊魔法。風=空気の流れを操れるはずなので、精霊に空気砲を再現してもらった。

 威力としては圧縮火球の方が大きいが、この空気砲は風の精霊にそれを任せられる分、見えない場所でも発動でき、魔素コストも少なくて済むという大きな利点がある。

 まあ、これを教えるのに随分苦労したので、うまく効いてくれてなにより。あの大型ゴーレムの手や足を払えるくらいだし、かなりの威力が出ていたのだろう。


「こっちは終わったぜ!」


「こっちも終わるよ。はあっ!」


 鈍い音が響いて最後の敵前衛が崩れ落ちた。こちらの前衛はアイアンゴーレムが六体ほど残ったようだがひとまずは待機させる。


「大型を先に潰す!」


 いまだに起き上がれない大型ストーンゴーレム二体。それぞれにエリカ・シェリー組とルル・クロスケ組が挑むと、とうとう特大アイアンゴーレムが動き出した。


「ボスが動き出したから気をつけて!」


「ミシャ、どうする?」


「まずは近づけないように。エリカやルルが大型を始末するまでは」


 ディーが頷き、風の精霊に正面から空気砲を撃たせる。が、多少のけぞらせる程度……


「お、重すぎる……。しょうがない、ディー、やるよ」


「わかった。タイミングはこちらで合わせる」


《起動》《石壁》


 特大アイアンゴーレムが踏み出した右足の先にテーブルほどの高さの石壁が現れる。これで素直に転んでくれればいいんだけど……

 その希望はあっさりと破れ、石壁に右足がめり込んで行く。


「今だ!」


 ディーの精霊の空気砲が左膝裏を強打して下半身のバランスを崩した。


《起動》《氷槍》


 二本の氷槍が両肩に直撃し、特大アイアンゴーレムは完全にバランスを崩して仰向けに倒れた。本当はうつ伏せに倒したかったところなんだけど。


「おらぁっ!」


 エリカの渾身のストンピングが大型ストーンゴーレムの胸板を砕いた。踏み砕くって……

 ルルの方も終わりそうかな。


「せーのっ!」


 戦槌が振り下ろされ、こちらも胸板を砕く。


「さて、ラスボスを始末して終わりにしましょ。クロスケ」


「ワフッ!」


 私は足元に戻ってきたクロスケの頭に手を置き、詠唱を開始する。

 特大アイアンゴーレムが片膝をついて立ち上がろうとしたところを……


《起動》《磁鉄塵》


 磁鉄……マグネタイトの粉をその右膝付近に発生させると、びっしりとその可動部へと張り付いて自由度を奪った。

 曲げた状態で固定されたことでバランスを失ったそいつが慌てて両手を地につけて踏ん張ろうとするが……


《起動》《磁鉄塵》


 今度は左肘を固定し、その動きを阻害させる。


「これは……いったい何が起きているんですか……」


「シェリーさんは磁石って知りません?」


「い、いえ、不勉強ですいません……」


 まあ、磁場とか磁力っていう概念も無さそうだもんね。


「まあ、その鉄にくっつく粉を大量に付着させて、肘とか膝の可動部を埋めて固めちゃったってことです」


「ははっ、ミシャはホント変なこと知ってんのな!」


「だよねー!」


 そうこうしている間もなんとか起き上がろうとしているので、肘、膝、股、肩と順に固めていくと、ついに首と腰だけモゾモゾするようになってしまった。


「ふう、これで大丈夫かな。クロスケありがとうね」


「ワフッ!」


 最悪、この特大アイアンゴーレムを重さで動けなくするつもりでいた。

 で、その分の砂鉄を魔素から生み出す必要があるかと思って、クロスケの魔素をもらいつつ魔法をかけてたんだけど、どうやらその最悪は必要なさそうかな。


「それで、どうしますか?」


「うーん、壊すのは大変だと思うし停止させようと思うんだけど……」


 四つん這い状態でモゾモゾしているので、魔法付与されている背中が遠いんだよね。静止してればいいんだけど。


「これ、横倒しにできる?」


「片側から皆で押せばいけるんじゃないか?」


「やる?」


 んー、余ってるゴーレムたちに……無理か。そんな細かい命令できないし。圧縮火球やディーの空気砲は加減や周りへの影響を考えると微妙……


「しょうがない。皆で押そうか。あ、ちょっと待って。反対側に支え作るから」


 私はそう言って反対側にまわり、


《起動》《石壁》


 膝高ぐらいの石壁を作った。車止めみたいなやつ。


「オッケ。真横じゃなくて、斜め上に押してね」


「わかった!」


 私が押しても大して力にならないだろうから、とりあえず距離を取る。


「行くよ。せーの!」


 突き上げられた特大アイアンゴーレムはあっさりと横倒しになる。実は中空? いや、中空ならもっと音が軽いかな。


「なんだ、意外と軽いじゃねーか」


「だねー」


 ルルとエリカは身体強化でとんでもないパワー出すしね……


「ミシャ様、これで停止させられますか?」


「あ、うん、やってみる」


《構築》《制御:停止》《付与》


 モゾモゾが止まり、アナウンスが流れ始める。


『第二十階層をクリアしました。十分以内にゲートから待機室へ戻ってください。準備が整いましたらゲート右手のスイッチを押してください』


「おお、やったぜ!」


「最上階突破!」


 ハイタッチするルルとエリカ。


「まずは待機室へ戻ろうよ。どうなるのかよくわからないけど塔がそう言ってるよ」


「え、ミシャ?」


「ミシャ様?」


 あ、やべ。アナウンスって私にしか理解できないんだった。


「あー、その、後で話すからとりあえず今は戻ろ」


「おう、戻ろうぜ」


 あっさりとスルーしてくれたエリカを先頭に、私たちは最後の待機室へと戻る。

 転向させたゴーレムはここでお別れ。また会うことも……ないね。お疲れ様。


「これで終了ですか。予想を遥かに上回る早さでしたね……」


 確かに各階層を二十分程度で終われてる気がする。合計二百分。三時間半ぐらいかな。


「ミシャ、押していいの?」


「うん。押して」


「えい!」


 スイッチが押されると大きな扉がゆっくりと閉まった。転送魔法は……発動しないな。


『全ステージをクリアしました。ランキング一位を獲得しました。ランキング報酬、クリア報酬を準備しますので少々お待ち下さい』


 一位!? でも、まともにやったらもっとかかるし不思議でもないかな。

 まあ、ちゃんとクリアしたわけだし、ゴーレムを転向させるのもズルではないということだよね。


「状況がよくわからんがどうなっているのだ?」


「全階層を突破したので報酬をもらえるらしいよ。あとよくわからないけど、私たちが今まで突破した人たちの中でも一番らしいから、それも追加で報酬もらえるって」


「一番!?」


「おいおい、すげーな、あたしたち!」


『準備が完了しました。扉前の宝箱を開けて報酬を受け取りください。右側がクリア報酬。左側がランキング一位報酬となります』


「あ、出たよ、あそこ。報酬の宝箱。右が全階層突破ので、左が一番のだってさ」


 指差した先に二つの宝箱。結構大きくて、どっちもRPGで見たことあるようなやつ……


「エリカ開けてよ!」


「おし、あたし右開けるから、ルルは左な」


「ありがと。じゃ、ボク先に開けるね!」


 その言葉にシェリーさんが私とディーを見やるが、全く異論はないので頷いて返す。

 だいたい、この場で一番偉い人と二番目に偉い人だからね。


「むふふ、なーにっかな!」


 ルルが左の宝箱を開けるとそこには……戦槌っぽいけど今持ってるのより随分豪華に見える。今のが質素すぎるってのもあるけど。


「なんか強そう!」


「大丈夫? 変な魔法かかってたりしないよね?」


「うん、特に変な感じはしないかな。大丈夫だよ」


「んじゃ、あたしも開けるか!」


 エリカが右の宝箱を開けると……。あ、やっぱり籠手だ。

 これ、開ける人によって中身変わるようになってるの? 宝箱に仕掛けでもあるのかな?


「おお、なかなか良さそうじゃねーか!」


 今装備している籠手を外してシェリーさんに放り投げると、宝箱の中の籠手を装備する。


「エリカ様、ちゃんと外せますよね?」


「おう。ちゃんと外せるぜ、ほら」


 右手の籠手を外して見せるエリカにシェリーさんも安心したようだ。まあ、ルルの戦槌もそうだけど、ここでわざわざ呪われた武器を渡す理由はないかな。

 あ、でも、私が塔のアナウンスを理解できてて『報酬』って知ってるからか。いきなり宝箱が現れたと考えると用心するよね。


「あっ!」


 二つの宝箱が一瞬で消える。


『報酬の配布が終了しました。十分後に第一階層に転送されます。すぐに転送を開始する場合はゲート右手のスイッチを押してください』


「今度は何と?」


「しばらくしたら第一階層に転送されるって。急ぐんならアレを押せばいいらしいけど……」


「どうかしましたか?」


 私は手に入れた武器の感触を確かめるように振り回してるルルとエリカに声をかける。


「二人ともそれは後にして、ちょっとこっちきて」


「おう」


「はーい」


「えーっと、そのうち第一階層に転送されるんだけど、その前にやっておきたいことがあります。ちょっと待っててもらっていいかな?」


 ルルやディーはその意図はわかってるっぽい。エリカとシェリーは……


「危険なことではないですよね?」


「んー、多分?」


「あたしはいいぜ! シェリーも細かいこと気にすんじゃねーよ」


「はあ……」


 すいません、ごめんなさい……


「じゃ、さっさと始めますね」


 えーっと、意識しないと日本語で喋れないので日本語を忘れそうになるんだよね……


『えーっと、ログインしたいんだけど』


『報告します。管理者権限によるアクセスを確認。言語コードjaを認識。パスワードを入力してください』


 来た来た。さて、またこれが通るかが不安なんだけど……


『パスワード』


『報告します。入力を確認。認証成功しました。ログインしますか?』


 通ったよ……。この世界のダンジョンって全部初期パスワードのままなの?


『えーっと、ログインするとどうなるの?』


『回答します。この待機室から管理室に転送されます』


『この待機室にいる全員が転送されるの?』


『回答します。全員が転送されます。ただしアクセスが可能なのは言語コードjaのみです』


 なるほど。じゃ、いいか。


「えっと、これからこの塔の管理室に行くから」


「はあ?」


「えっと、ミシャ様、説明を……」


 慌てる二人に対して、


「今度はボクたちも行けるの? やった!」


「おお!」


 まあそういう反応だよね。


「このルシウスの塔もダンジョンの一種なんだけど、そのコアがある部屋に行くよって話」


「マジかよ!?」


「信じられません……。危険は無いのですか? 戻れなくなるとか」


 あ、そうだよね。


『ねえ、管理室からログアウトするとこの部屋に戻るの?』


『回答します。任意の階層の待機室に戻ることが可能です』


『もちろん全員だよね?』


『回答します。はい、管理室にいる全員です』


「確認したけどちゃんと戻れるよ。用事が済んだら第一階層に戻るつもり」


「は、はあ……」


「いいじゃねーか。行こうぜ!」


 よし、エリカの了解も得たし行きましょうか。


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