気がつくと増える仕事
第35話 フラグはだいたいtrue
「ルル! おかえり!」
ルルのお父さん? いや、お兄さんかな。ノティアの領主様、ルルのお爺ちゃんを若くしたような感じ。領主様みたいな白髪でなく、艶のあるブラウンなのが若々しい。でも、ドワーフの髭があるとどうしても若くは見えないんだよね。
「ん、もう! にーちゃん痛いって!!」
お兄さんであってた。それにしても、これは完全に……シスコンだ。まあ、領主様もこんな感じだったし、兄がこれなら父親もこうなんだろうなあ。
隣を見ると、ディーも『なんだこのシスコンは……』って顔してるし。
「ルシウスの塔に行ったそうだが怪我はなかったか? ああ、やっぱり傭兵ギルドなんて危ないところにいるのは心配だ……」
さて、割り込んでいいものかどうか。久しぶりの兄妹の再会に水を差すのもどうかとも思えるし、でも、依頼の手紙を渡しに来たんだよね。
用があるのはルルのお父さんなので、玄関前で長々とぐだぐだしてていいのかな。いや、ルルがいいならいいのかな。
「お帰りなさい、ルル」
「かーさん!」
と、現れた女性はルルのお母さんか。って、今、お兄さんを盛大に突き飛ばしたよね、ルル……
ルルに似て活発そうなショートカット。だけど、歳相応に落ち着いた雰囲気があって大人の女性感がすごい。ルルもああいう風になるのかな。
「お二人がミシャさんとディーさんね。ルルの母のルーナです。娘がお世話になってます」
「ど、どうも! ミシャです」
「ディアナと申します。こちらこそ、ルル殿にはお世話になってます」
ルルのお母さん、ルーナさんっていうのか。
「さあ、中へどうぞ。クロスケさんもね」
「ワフッ」
私はクロスケのリードをはずしてあげ、誘われるままに館へと入る。
「しばらくは泊まっていってくれるんでしょ、ルル?」
「うーん、そうだね。あ、そうそう、じーちゃんからとーさんに手紙を預かってるんだけど、まだ帰ってきてないんだよね?」
「ああ、父上は五の鐘が鳴る頃になるだろうな。ちなみにボクは今日は休みを取ったんだ。ルルのためにね!」
「ミシャはここ、ディーはここに座ってね」
ソファーの真ん中に座り、左右を私とディーで固めさせるルル。
スルーされたお兄さんがガックリしてるけど、正直、私もドン引き気味なので素直に従った。
向かいにはルーナさんとルルのお兄さんが座る。ルルのお兄さん……名前聞いてない。
「今日来たお仕事の話は主人が戻ってからにするとして、ミシャさんはナーシャさんのお弟子さんと聞いたのですが」
「あ、はい、そうです。えーっとナーシャさんから……ルルのお兄さんに手紙を預かってます」
「う、す、すまない。ワイルという、ルルが、妹が大変お世話になっている。それでその手紙というのは……」
「はい、にーちゃん、これだよ」
ルルがワイルさん宛ての手紙を出してローテーブルに置いた。
「あ、ああ、ありがとう」
普通にしてたら普通なのに……。シスコンなところだけが残念なんだろうか。
「では、失礼して」
封蝋を割り、中身に目を通し……二度三度と私をチラチラ見た上で……大きなため息をついた。
「にわかには信じられないのですが……」
そう言いながら手紙をルーナさんに渡す。っていうか、私も何書かれてるかわからないから、すんごい気になるんだけど。
私のこと書かれてるに違いない。うーん、ロゼお姉様の弟子だってことは内緒のはずなんだけどなあ。
「珍しいこともあるのね。あのナーシャさんが……」
あーもー、気になるんですけどー!!
「ねえ、ボクたちも知らないんだけど、なんて書いてあったの?」
「ミシャさん。あなたはナーシャさんの弟子であり師であるということですが……」
「は?」
は? はー? はーー??
「あー、確かにそうだね」
「いやいやいや、なんで?」
「だって、すごい威力の火球とか、火をあっという間に消せる氷の魔法とか教えてたじゃん」
あ、うん……
「魔導具の改良だってしてたと思うが?」
アッハイ……
「えっと、評価されてるのは嬉しいんですが、えっと、多分、ナーシャさんの冗談……」
「ミシャは常識を知らないからそれぐらいにしてあげてね」
「ああ、わかっているよ、ルル。あの人は魔法に関わることで冗談なんて言わないからね」
ダメだ、なんの言い訳にもなってない……
「ミシャさんが困ってるし、その辺にしておきましょ。あの人が帰ってきたみたいよ」
ルーナさんが助け舟を出してくれて立ち上がると、玄関方面から大きな足音が聞こえてきた。
そして、応接室の扉が盛大に開かれる。
「ルル!」
ルルも立ち上がって……ルルのお父さんだよね?に飛びついた。
「とーさん! ただいま!」
「ああ、おかえり。たくましくなったようだな」
飛びついたルルを引き剥がす様子を見ると普通の人みたいね。領主様とお兄さんがおかしいだけかな。
「ルル、そこのお二人を紹介してくれるか」
「うん! こっちがミシャで、そっちがディアナ、ディーね」
私たちは慌てて立ち上がって礼をする。
「「よろしくお願いします」」
「ああ、楽にしてくれて構わないよ。さあ、ルルも」
ルルのお父さんが向かいのソファーに座り、ルルが戻ってきて着席するのを確認し、私たちも腰を下ろす。
「ベルグ王国ノティア領の王都駐在官ワーゲイだ。まずは父上からの手紙をもらおうか」
「はい、これ!」
ルルが取り出したのは領主様からの手紙。ノティアの封蝋がされているそれをテーブルに置くと、ワーゲイさんがそれを手に取って開く。
「ふむ……」
内容をゆっくりと読んでいき、二枚目に差し掛かったところで眉をひそめる。そして、最後まで読んだところで大きくため息をついた。
「ワイル、君も後で読んでおきなさい。後でな」
念を押されたことでワイルさん、余計に気になってる感じかな。まあ、しまってから渡したところを見ると、今すぐ読まれると問題があると判断したのかな。ルルがこのまま西側へ旅に出ることは書いてあるだろうし。
「さて、しばらくはここに泊まってくれるのだろう。部屋を案内させるので、まずは一息ついてくれたまえ。そのあと夕食にしよう」
そう告げられ、その場は一旦お開きとなった。
***
「さて、では落ち着いたところで、報告の再開といこうか」
夕食が終わり、場所は執務室に移った。
参加者はルルのお父さんのワーゲイさんと私たち三人。クロスケはご飯をもらったあと、私たちが案内された客室でお休み中。うらやましい……
「大まかなところは先に報告を聞いているが、最初から説明してもらえるか」
「じゃ、ボクから何があったか話すね!」
ルルの説明ももう何度目だろうね、これ。私と出会ったところから話し始めるのも毎度のこと。
そこからオーガロードの件、インターンの子たちの暴走、ダンジョン第十階層の扉、アンデッドの群れ、そして……
………
……
…
「なるほど。にわかには信じがたいがダンジョンコアと話したというのか」
視線が私の方に向く。ルルも助けを求めるかのように私の方を向いた。
「はい、まあ信じてもらえないのも仕方ないかと思います。私だけしかコアのある部屋に入れませんでしたし。
ただ、実際に第十階層の掃討が終わってから一ヶ月間、アンデッドの報告はありません。
それにダッツさんたち……覇権ギルドの人たちにノティアの東から南にかけて偵察に出てもらいましたが、アンデッドの報告はまったくありませんでした」
「その結果から見るとダンジョンコアが言っていたことは正しいと見るべきか。できれば、半年程度は継続調査という形にした方が良さそうだが……」
ワーゲイさんがもっともな懸念を述べる。
「じーちゃんも同じこと言ってた。だから、半年は様子を見るけど、街に近いところから開発も進めていくって言ってたよ」
「なるほど。確かに開発を進めていけば、安全圏の拡大もやりやすくなるということだな」
私はワーゲイさんの言に頷く。切り開いた土地をどう使っていくかに関しては領主様にお任せなんだけど、一応、果樹園あたりが妥当なんじゃないかとは言っておいた。単に森の館の近くにあったオレンジっぽい果物が食べたかっただけだけど……
「じゃ、こっちからも質問なんだけど、ボクたちにふざけたこと言ったご子息さんたちってどうなったの?」
「ん、ああ、あの子たちは自宅謹慎中だ。本人たちは多少は反省しているようだが……多少だな」
それを聞いたディーが心底『勘弁してほしい』という顔をしてため息をついたが、
「あの……先に帰った娘さんたちの方は?」
「ああ、彼女たちは先に王都に戻って全てを先に話していたのでな。流石に注意はされたが、それで終わりだったよ」
「そうですか。良かったかと思います」
ディーの表情が明らかにホッとしたものになる。先に帰った子たちはそんなに悪い子じゃなかったのかな。
「第二陣として行った子たちはどうだったかね?」
「その子たちはスッゴイ素直でいい子たちだったよ! 地味な依頼を真面目にこなしてたし、それで喜ばれたのがすごく嬉しかったみたい」
「そうかそうか。安心したよ。元々、第一陣に関しては非常に揉めたのだ。あちこちからうちの子を行かせろとな」
ああ、なるほど。それで適性も見ずにコネを使ったボンボンが来ちゃったわけか……
「で、第一陣が酷いことになったので、まともにやる気のある子たちが繰り上がって第二陣になったってことですかね?」
「ははっ、察しのいいことだ。叔母上が一筆書かせるだけのことがある」
「ミシャだからね!」
あ、しまった。言わなくても良かったよね、これ……。あと、その『ミシャだからね』っての、便利に使いすぎだよ、ルル。
「ふむ。他に何かあるかね?」
「すいません。そのインターンってのを始めようとしたのはどなたですか?」
「ん、ああ、レスタ子爵家の長女だな。ソフィア嬢と呼ばれているよ。王都の学園を主席で卒業した英才という話でギルド管理の役職について早々の提案だったらしい」
ふむ……。名前を聞いた感じだとこの世界の人っぽいけど、だとしたら転生した人かな。
「第一陣は失敗しちゃったわけですが、その辺どうなんでしょう?」
「期待されていただけに色々あったが、罰せられるようなことはなかったよ。戻ってきたご子息らの親から突き上げをくらっていたがな。まあ、一度の失敗で全てを否定するようなことは避けるべきだと、父上からも陛下に伝わっていたようだ」
ルルのお爺ちゃん、ずいぶんと発言力あるんだなあ。まあ、不死者の氾濫やその先の東側の国難もあるだろうし、そこを任せるだけの信頼はあるってことなのかな。
「第二陣がうまく行っていますし、これからは評価も上がるかと。ただまあ二言三言、文句は言いたいところですけどね」
「はは、正直なお嬢さんだが、残念ながらそういうわけには……」
ええ、そんなめんどくさいことは別にいいです。実際に文句言ったところで何がどうこうなるとも思わないし。
「んじゃ、報告は終わりでいい? 依頼書にサインが欲しいんだけど」
ルルが差し出した依頼書にワーゲイさんがサインして戻す。これで金貨三枚の報酬……ルルのお爺ちゃんからのお小遣いだけどやっぱり多いよ……
「これでいいかい?」
「うん! ありがと! じゃ、明日はギルドに行かないとかな」
「さて、それとは別件でルルに話がある」
ワーゲイさんがそう切り出したので、私はディーは顔を見合わせて席を外そうとする。
「ああ、気を使わせてすまない。だが、君たち二人も聞いていて欲しい」
そう言われて座り直す。
「急な話なんだが、ルルには週末にベルゼ大公姫が開く晩餐会に出て欲しい」
「えー! ボク、今までそんなの出たことないから無理だよ! っていうか、なんでボクが出なきゃいけないの? にーちゃんでいいじゃん!」
「……それがな。先方がルルをご指名なのだ」
眉間をつまんで悩ましそうなワーゲイさん。
「ルルは伯爵令嬢なのだろう? そういうのは一通りできると思っていたのだが」
ディーが『え、なんで?』みたいな顔をして聞く。
「王都の学園にいた時に一応習ったけどさ。苦手だったからいつも及第点ギリギリだったし、だいたいもう忘れてるよ……」
うん、まあ、そうだろうね……
「知り合いってわけじゃないんだよね。それか王都にいる友人から紹介があったとか?」
「えー、同級生で仲が良かった子たちってそういうのと縁のない子たちだったよ」
うん、まあ、そうだろうね……(二度目)
「だいたい、ボクがこっちに来てるのを知ってる人なんて、家族以外いないと思うんだけど」
「ああ、そうなんだ。なぜ大公姫はルルがここにいることを知っているのだ」
ルルがここにいることを知ってる人間……
「あ、あー……」
思わず声が出る。というか、フラグの回収が早すぎる気がするんだけど。
「ミシャ、心当たりがあるのか?」
「うん。ワーゲイさん、大公姫様って美人で……背が高くて……言葉遣いがその……いろいろと武闘派じゃないですか?」
「あ、ああ、その通りだが……」
「「エリカ!?」」
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