第33話 データマイニング
「へー、思ったより狭いね」
塔の入り口を潜ると、そこは円の内側に仕切りがあるような部屋? 正面の壁右側に薄らと光るスイッチらしきものがある。
『ようこそルシウスの塔へ。開始には正面右手にあるスイッチを押してください』
は? い、今のは日本語?
けど、周りを見ると他にそれが『言葉』であることには誰も気がついてないようだ。
「あの音がなったらあそこの光ってる出っ張りを押して開始だそうだ」
「よし、じゃ、行くよ!」
「おうよ!」
と、とりあえず今は黙っとこ。エリカっていう客人もいることだし……
ルルがスイッチを押すと後ろの扉が閉まる。部屋が淡い光に包まれたあと、一瞬の浮遊感があり、気がつくと……違う部屋かな。正面に扉があり、その右手にあるスイッチは光っていない。話は聞いてたけどこれが転送魔法か……
『第二階層です。正面ゲートが開きますので五分以内に移動してください。移動しない場合は第一階層に転送されます』
な、なるほど……
「扉が開いたら突入して戦闘開始だからね」
「前衛はあたしとルルだな。任せとけ!」
また
正面の扉重々しい音を立てて開かれ、二人が小走りで進む。私もディーもクロスケもそれを追う。
『第二階層での競技を開始します。所定時間内での全ての敵を無力化してください。時間切れもしくは続行不能と判断した時点で失敗とみなします』
扉を潜ったところでそうアナウンスが響いてくるが、私以外には戦闘開始のサイレン程度にしか聞こえてないのかな。
入った部屋は切り取られた残り全部か。向こうまでは三十メートルくらいあるようだ。
「ミシャ、出てくるぞ」
入り口の反対側に光の柱ができ、それが晴れると……デッサン人形? ああ、あれがウッドゴーレムってやつかー。もぞもぞと動き始めている。
「四体いるから一人一体な!」
エリカの提案に皆が頷く。
「では、私からだな!」
ディーが弓を引き絞り、放たれた矢は、過たずウッドゴーレムの胴体中心を貫いた。
「おお、やるじゃねーか!」
エリカが声を上げて見やる先ではウッドゴーレムがこちらに向かって動き始めたようだ。
「じゃ、次は私ね」
さて、相手は木だし、小さめの圧縮火球でいいかな。
《起動》《火球》
エリカもいるので、形だけ短杖を構えて、いつも通りに火球を放つ。それは少しずつ圧縮されていき、着弾したところで大きく爆発した。
「ミシャ、手加減して! 周りまで巻き込みそうだったじゃん!」
「あー……ごめん」
今までの『着弾前にぎゅっと圧縮』ではなく、ナーシャさん推奨の『放った後に徐々に圧縮』の方法にしてみたけど、こっちの方が圧縮率高くなって威力が上がっちゃうな……
「おいおい、めちゃくちゃだなお前ら」
「ミシャだからしょうがない、だよ」
「すまんな。ミシャだからしょうがないと思ってくれ」
はいはい、そういうことでいいです……。さて、ここから先は近接組の出番かな。
「エリカ、ボクは右側ね。左側は任せた!」
「おうよ!」
足の速さはエリカの方が上かな。コンパスが長いからなー。
「おらよ!」
長いリーチから胴体に打ち込まれた右ストレートがウッドゴーレムを吹っ飛ばす。なにあれ……
「よっと。えい!」
ルルは相手の右手の振り下ろしを左の円盾で跳ね上げ、体勢を崩したところに戦槌の一撃を叩き込んで相手を吹き飛ばした。身体強化の使い方も随分と様になってきてるなー。
「ははっ、おめーらつえーな!」
「エリカもすごいじゃん!」
籠手と円盾でハイタッチ?する二人。大柄なエリカに対し、ルルは小柄だし円盾だしでジャンプしてハイタッチしてるのが微笑ましい。
『第二階層をクリアしました。十分以内にゲートから待機室へ戻ってください。準備が整いましたらゲート右手のスイッチを押してください』
「はいはい、次行くよー」
皆を引き連れて待機室へと戻る。ふと左右を見るとあれは……
「ねえ、あれって……お手洗い?」
「ああ、そうだ。赤い印が付いている方が女性用らしいぞ」
うーん、やっぱりダンジョンは地球の文化っぽいものが混じってる気がする。でも、地球には魔法なんてなかったし。
「ミシャ、お手洗い行くの?」
「ううん、大丈夫。次行きましょ」
私たちは頷き合い、次の階へ進むためのスイッチを押した。
***
まるで、というか、そのものなんだけど、乾いた大木が倒れる音が響く。オーガほどある大きいウッドゴーレムが倒れた音だ。
「ま、でけぇだけで大したことなかったな」
そいつの胴体を正拳突きで打ち抜いたエリカには、まだまだ全く疲れは見えない。それは私もルルもディーもクロスケもそうだ。
『第九階層をクリアしました。先行パーティーが第十階層にて行動中のため時間調整をおこないます。待機室にてお待ち下さい。開始可能になるとゲート右手のスイッチが点灯します』
思わず「電車か!」ってツッコミそうになって思いとどまった。
やっぱり他のみんなはわかってないみたいで、普通に待機室に戻ったところで、
「あれ? スイッチ光ってないけどいいのこれ?」
「ああ、それは先に塔に入ったものが上の階で戦闘中だとそうなる。別々に入ったパーティー同士が合流することはないらしい」
「待ってりゃいいのか?」
「光ったら押せばいいらしい」
やっぱり経験でしかこの塔の規則を把握してないっぽい。あ、いや、誰か日本語……いや言語コードjaだっけ?かを理解できる迷い人がいたのかもしれないか。
「ふーん、どれくらい待つんだろうね。結構いいペースで来てたから、無駄に待たされるのはやだなあ」
確かに第二階層から第九階層まで一時間ちょっとで突破しちゃったからなー。敵が大したことないのもあったけど。
第二階層から第六階層までだんだんと増えたウッドゴーレムだけど、みんな足が遅いので一撃で倒せちゃって脅威でもなかった。
第七階層で初めてオーガほどの大きさのウッドゴーレムが二体、普通のウッドゴーレムが四体出たけど、あっさり倒せちゃったんだよね。
第八、第九ではそれぞれ、大ウッドゴーレム一体と中ウッドゴーレムが二体が追加されたが、これもまあ問題なし。
数が増えたので私は圧縮火球を遠慮せずぶっ放し、まわりが怯んだところをディーが射抜く。
さらにはクロスケも戦闘に加わり、素早い立ち回りで敵の足を壊して回ったことで、ただただ殲滅する作業になった。
そのせいで流石に体内の魔素が半分ぐらいになってきたが、次の第十階層で終わりの予定だから問題はなさそう。
『第十階層が使用可能となりました。十分以内に待機室へ戻ってください。準備が整いましたらゲート右手のスイッチを押してください』
アナウンスが響き、スイッチに光が灯る。
「お、行けるようになったみたいだせ!」
「よし、次が今日の目標階層だよ。準備いい?」
皆が頷いたのを確認し、ルルがスイッチを押した。
***
「あっはっは! なんだあのでけーのはよっ!」
エリカが指差して大笑いしている。うん、私も目が点だよ。現れた特大ウッドゴーレム、若干、中腰なんだけど……
「えーっと、あいつだけかな……」
「のようだな」
「どうするの?」
「まあ、とりあえず吹き飛ばして、関節を破壊して、動けなくしてから壊す、かな?」
「おっしゃ! ドカンと頼むぜ!」
「耳塞いでおいてね!」
《起動》《火球》
少し大きめの火球を放ち、可能な限り圧縮していく。バレーボール大の火球がテニスボール大まで小さくなって着弾し、轟音が鳴り響いた。
爆発の衝撃で特大ウッドゴーレムが仰向けに倒れる。
「行くぜ!」
「うん!」
駆け出す二人。私は続いて唱える。
《起動》《土壁》
特大ゴーレムの両手首、両足首を土壁で埋めた。
「ディー!」
「樹の精霊よ!」
精霊魔法が放たれ土壁から生えた木の根が土壁を補強する。
「おらぁ!」
「せーのっ!」
ルルが右膝に、エリカが左膝に、渾身の一撃を与える。が、流石に一撃では壊れないか……
けど、二人がごりごりとボコりつづけることでひび割れが進み、ついには関節が砕け散った。
「うしっ!」
「次行くよ!」
が、その瞬間に両手首を拘束していた土壁が破壊され、絡みついていた根っこも引きちぎられる。
「離れて!」
ルルとエリカが飛び退いたところに特大ゴーレムの振り回された腕が通り過ぎる。
「しぶてぇやつだな!」
エリカが更に距離を取ったのち思いっきり助走を始める。そして……
「っしゃおらー!!」
フ、フライングレッグラリアット!?
いや、腹部を薙いだからラリアットじゃないか。って、そうじゃなくて!
「うっわー!」
ルルも呆れている。
足を失って両腕で起き上がろうとしていた特大ウッドゴーレムは、腹部を強烈に蹴られたことで今度はうつ伏せに倒れた。
「ディー、もう一回!」
私はそう叫びつつ、小瓶からポーションの球を作って土壁に飛ばした。
「樹の精霊よ!」
足を拘束していた土壁の根がポーションの力とディーの精霊魔法で成長し、特大ウッドゴーレムの両腕を、さらには頭まで再度拘束する。それはもうぐるぐる巻きってレベル……
慌てすぎてポーション希釈するの忘れてたよ!
「今度は腕!」
ルルがいち早く右肘に戦槌を叩き下ろしてそれを砕くと、エリカも左肘を強烈なサッカーボールキックで粉砕する。
よしよし、あとは胴体を粉砕して終わりかな?
「あ、エリカ! とどめはちょっと待って!」
「お? ルルがとどめ刺したいのか?」
「ううん、ちょっと待ってくれるかな。ディー、拘束はそのままね。ミシャ、こっちきて!」
そう急に呼ばれて警戒しながら近づくと、ルルが戦槌で特大ウッドゴーレムの背中を指した。
「これって魔法が付与されてるんじゃない?」
「えっ? あ、ホントだ!」
そこには付与された魔法がうっすらと輝いていて……あ、消えるかも!
「一分だけ待って!」
《起動》《解析》《付与》
内容把握は後回し。とにかく解析した内容を左手の短杖にコピーしておく。起動しなければ動かないから、杖がいきなりゴーレムになったりはしないはず、多分……
「なあ、ルル。『いっぷん』ってなんだ?」
「あー、ミシャはたまに変なこというから気にしないでいいよ」
あ、思わずこちらの世界で通用しない時間単位を口に出してしまうレベルで焦ってた……
「終わり! とどめ刺していいよ」
コピーを終えた私はそう言いつつ元の位置まで離れた。
「じゃ、僕はこの辺ね」
「んじゃ、あたしは背中だな」
「「せーのっ!」」
二人のラストアタックが放たれ、第十階層での戦いに終わりが告げられた。
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