王都ベルグ
プロローグ:職務経歴書
一歩進むごとに海の香りが強くなるのは……気のせいだよね。というか、気の持ちようって奴なのかな?
元の世界の実家は山奥の田舎だったから、海を見るのはホントに久々。
二ヶ月ほど前、ブラック勤務中だった私は、どういう理屈かはさっぱりわからないけど、こっちの世界に転生?転移?してきた。中身だけが。
外側は17,8歳の金髪ウェーブヘアー少女で、高貴そうな服を着てて、気がついたら崖から落ちたところだった。乗ってた馬車ごと落ちたらしい、多分。
ロゼ=ローゼリアっていう美人のお姉様に拾われ、魔法を教わったんだけど……すぐに放置された。正確には「あとは自習で頑張れ」って感じかなあ。
「ワフ?」
回想に浸っていた私をウィナーウルフのクロスケが心配してくれる。かしこかわいい。
この子はロゼお姉様に出されたミッション「森にいるゴブリン掃除」の時に助けてあげた。それ以来、ずっと側にいてくれる。
ウィナーウルフってかなり希少種らしいので、首輪に掛けてある毛色変化の魔法でただのブラックウルフに変装してもらってたりする。
かく言う私も金髪ウェーブヘアは封印し、魔法で黒髪ストレートに擬態?してるんだけどね。
「ミシャ! こっちこっち!」
少し坂を下った先が平坦になっていて、道を外れたところに草むらが広がっている。
ドワーフ娘のルルが私をそこへと急かした。
彼女は私たちが出立したノティアの街、そこを治める伯爵様の孫娘なんだけど、そういう立場的なものは嫌いなようだ。
まあ、嫌いっていうか邪魔に思ってる感じかな。私がルルに妙に気に入られてるのは、彼女そのものしか見ないからだと思う。
「はあ、そんな急がなくても時間は十分あるじゃない」
草むらに腰を下ろす時、危うく「よっこいしょ」と言いそうになってやばかった。
「ミシャはもう少し体鍛えよ?」
「えー……」
私、これからも頭脳労働で行きたいので勘弁して下さい。
多分、げっそりした顔でそんなことを考えていると、
「少し木の実でもないか見てこよう」
エルフ娘のディーがそう言って樹々の方へと向かう。
「ごめん、クロスケ。ディーについて行ってあげて」
「ワフッ!」
追いついたクロスケに一礼して先を譲るディーを見てると可笑しくなる。
普段はキリッとしたクールビューティーなのに、結構なおっちょこちょいで、感情がすぐ顔に出るタイプなので見ていて飽きない。
私たちに出会うまでは大手のギルドに所属していたが、いろいろあって私たちが引き抜いた。
オーガロードを倒したり、ダンジョンに封じられてたアンデッドをどっさり倒したりと、ノティアでは本当にいろいろあった。
でも、まあ無事にロゼお姉様が待つ西側へと旅立てたし、結果オーライってことでいいよね?
今、私たちはノティアを離れ、王都へと向かっている。
ラシオタ〜ルシウス〜セラード〜王都ベルグという行程。予定では五日ののんびり旅だ。
「ミシャ、グリーンベリーだ。美味しいぞ」
戻ってきたディーが渡してくれたのは……緑色の木苺? まあ、食べられるんだろう。
ポイっと口に放り込むと……
「すっぱ!」
思わず声に出てしまった。
生でレモンかじるよりも酸っぱいんだけど!
「あははは! やはり食べたことは無かったか。だが美味しいだろ?」
そう嬉しそうに言うディー。
悔しいことに酸っぱさが通り過ぎると甘みが押し寄せてきてかなり美味しい。
ポンコツエルフだと思って侮っておったわ……
「ボクもこれ好き!」
そう言って口に放り込んで「ん〜〜!」っと酸っぱさに耐えるルル。
ん、クロスケ? 君も食べてみたいの? ふふふ……
「クゥ〜〜〜」
お? 吐き出しちゃうかと思ったら、ちゃんと我慢してる。えらい!
うんうん、だんだん甘くなってきたかな?
「ワフ〜」
目を細めるクロスケが可愛くて、思わずわしゃわしゃしてしまう。
「どうだ。疲れは取れたか?」
「うん、ありがとう。なんだか気分もスッキリした」
「じゃ、そろそろ出発しよ!」
「そうだな」
ルルとディーが差し出した手をとって立ち上がる。
なんだか足に来ていた疲れが取れたような? ああ、筋肉痛に効くのって酸っぱい奴……クエン酸だっけ?
この世界にはまだまだ知らないことがいっぱいで楽しい。
この先、たくさん知らないことに出会えるのかと思うと、やっぱりワクワクしてくる。
「よし、行きましょ!」
「「「おー!(ワフッ!)」」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます