アフターサポート
第27話 帰ってもいいですよね?
「おはよー!」
「おはようございます……」
「ワフー」
翌日、いつもと同じ朝の二の鐘の時間にギルドに。
「おはよう。二人とも早いな。昨日は大変だったし、今日の会議もお昼からだから遅いと思っていたんだがな」
「うーん、朝ごはん食べ損ねるのもったいないしね」
宿代に朝夕ご飯分が入ってるから、ご飯奢ってもらえる時以外はちゃんと宿で食べたいんだよね。宿のご飯美味しいし。
「マルリーさんは?」
「マルリー殿は一応起きていたようだが……」
「ふーん」
「日ごろの運動不足がたたって、今日は筋肉痛で辛いとかじゃないかな」
正直、私も軽く筋肉痛があって辛いし……
「今日は会議までどうするつもりだ?」
「あ、ボクたち、会議出ないつもりだよ!」
昨日話した『あとはマルリーさんに任せよう』作戦を実行予定。
「昨日のうちに詳しいことは全部話したし、私たちが行ってうかつなこと話さないほうがいいかなって」
「なるほど、それは同感だな」
とはいえ、さすがに話してから出かけたいので、マルリーさんが起きるまで待ちかな?
ただ、今日は北に行きたいから、お昼前には出たいところだけど。
「とりあえずお茶でも飲みながら、マルリーさんを待ちましょ」
ディーがカップを用意し、私が魔法でお茶を入れ、ルルが待ってるっていつものルーチンが済んで、みなでテーブルを囲む。
マルリーさんを待つ間、ディーには昨日夜にルルと話したことを改めて伝えることにした。
………
……
…
「ふぁー……、おはようございますー……」
まだまだ眠そうなマルリーさんが降りてきたのは朝の三の鐘が鳴った後。
「早くないよ。遅いよ!」
「皆さんは元気ですねー」
ディーがマルリーさんのカップを用意してくれたので、それにお茶を注いであげる。
「今日の会議はマルリーさんにお任せしたいんですけどいいですよね?」
「ボクたち、薬草採集に行ってくるね!」
そう言われて少し驚いたようだが、抵抗しても無駄そうだと悟ったのかため息を一つついた。
「わかりましたー。でも、報酬の分配とかに後で文句言わないでくださいねー」
ま、まあ、マルリーさんなら酷い事にはならないと思うし……
「そのような心配は不要だろう。ルルもミシャもそんなことで文句は言わないだろう?」
「うん、先にもらったしね!」
「あ、うん、そうだね……」
キメラスケルトンの魔石、オーガロードより大きかったんだよね……
「そろそろ行こうよ!」
「あ、薬草採集の依頼が出てるならそれ受けてからね」
「ああ、出ていたはずだ。取ってこよう」
出発待ちに飽きてた私たちはさくっと準備を済ませ、北の森へと向かうのだった。
***
「じゃ、クロスケ、道案内お願いね」
「ワフッ!」
北門を出て一時間弱進んだところで道の東側の森へと入った。ここから先は道と言えるようなものはないので、クロスケの野生の力を借りることに。
「ねえねえ、大丈夫だと思うけど、この辺ってゴブリンが群れてるって聞いたよ?」
「あー、うん、それは駆逐したから大丈夫。ひょっとしたら生き残りがいるかもだけどね」
「は? ミシャがやったのか?」
「半分ぐらいはそうかな。もう半分はロゼお姉様が雷撃落として黒コゲにしちゃったし」
あそこで実働部隊の大半を倒してくれてたから、残りの掃討も楽だったんだろうなー。
「なら安心か……」
「ミシャだしね」
「ちょっと油断はしないでね? 私もクロスケも索敵は出来てるけど、森だとディーの方がずっと鋭いからね?」
「ああ、了解だ」
まあ、多少なりとも知能があるなら、この辺りにいると痛い目に合うってわかるはずだから、生き残ってたとしても逃げちゃってると思うんだよね。
クロスケも脅威は全く感じない風でスタスタと前進してるし、もうすぐコプティの群生地に到着するはず。方向感覚がずれてなければ、そのまままっすぐ進めば館に着くはず。
「前方に拓けた空間があるようだ。気をつけてくれ」
「了解。多分、そこがコプティの群生地だから」
「ミシャ、ずいぶん詳しいんだけど、ゴブリン倒しただけじゃないの?」
「あー、うん、このあたりから……半日ぐらい東までは全部行ったことあるよ」
「なんで!?」
「まあ、いろいろあって……ロゼお姉様の修行ってやつかな。その辺はあとで話すから、先に採集を終わらせよ?」
「ワフ」
うん、嘘はついてない。あれは修行。きっと修行。
ルルは納得が行ってないようだが、クロスケに急かされて先へと進む。
樹々で遮られて薄暗かった視界が明るくなり、コプティのあふれる丘に到着した。
「すごいな。ずっと鬱蒼とした森が続いていると思ったが、こんな場所があったとは」
「この辺ぐらいだけどね」
小ぶりの運動場ぐらいある丘。ここだけ妙に樹々がないんだよねー。
……ロゼお姉様が薬草を取るために開拓した気がしてきた。
「二袋分以上は採らなくて良いんだよな?」
「うん、ギルドにまだまだポーション残ってるしね」
「わかった。ルルも採り過ぎないようにな!」
「大丈夫だって!」
そんなやりとりをしながらしばらく採集に勤しむと、麻袋二袋分をあっさりと回収し終えた。
「終わった! 早い!」
「それにしてもこんなところがあったとはな」
「だよね。ダンジョンの近くとか街の東側よりもこっちの方が良かったんじゃないの?」
「……ここはちょっと遠くて時間かかるでしょ?」
そう言われて納得した二人だけど、採集にあちこち探す必要が無くなるから、効率的にはこっちの方が良いんだけどね。
「ねえ、一休みしていかない?」
「ふむ、賛成だな」
んー、もう少し進めば館に着くんだよね。そう考えているとクロスケが足元に擦り寄ってきた。
「どうしたの、クロスケ?」
「ワフ」
そう答え、森の先の方に頭をやる。うん、やっぱり近いよね。
「ごめん。もう少し先に進ませて。安全な場所があるから」
「そうなの?」
「ふむ、なら行くか」
草むらに腰を下ろしていた二人が立ち上がると、クロスケは館の方へ歩き始めた。
***
「ワフッ!」
うん、ここだね。今あらためて『そこ』を意識すると魔素の壁がある。これはシルキーの魔素なのかな。
手をかざして壁に触れると、一瞬の反応があってそれがゆっくりと開いていく。
「えええっ!」
後ろから訝しげに覗き込んでいたルルの驚きの声が上がる。
ディーは……その驚くと間抜けな顔をする癖は直したほうがいいと思うんだよね……
「ワフ」
若干ドヤ顔のクロスケが開いた結界を潜ると、その先には久しぶりの……いや一週間ぐらいしか経ってないよ! シルキーに会うのが急に気恥ずかしくなってきた……
いや、今さら引き返すわけにもいかないか。こういう時は逆に堂々としてたほうが突っ込まれにくいはず。
「ここはロゼお姉様の館だから大丈夫」
そう告げ、ルルとディーが潜ったのを見て私も潜り終えると、結界はゆっくりとふさがる。さて、と振り返ると、玄関の前にシルキーが立っていた。
「お早いお帰りですね、ミシャさま」
「うん。いろいろあってちょっと調べたいこともあるし、友人を紹介しておきたいから」
いきなりの登場に驚かされたが、なんとかポーカーフェイスを維持してそう返事をすると、シルキーはルルたちを一瞥した後、ゆっくりと扉を開けてくれた。
「お荷物は入り口付近に置いてください。お茶を用意しますので、リビングの方へどうぞ」
「ありがと」
奥へ消えていくシルキーを見送って振り返ってみると……
「ディー、その顔やめたほうがいいって。普段はすごく理知的に見えるのに……」
「いや、その……あの子はシルキーだよな?」
「そうだけど初めて? ディーは精霊魔法を使うし、見たことあると思ってたんだけど」
「森に住むエルフは樹を家とするから純粋な家精霊に会うことはないな」
なるほど。他種族とあまり関わらない種族でもあるし、自然の精霊以外に会う機会ってそんなにないのか……
「『ミシャだからしょうがないね』」
「ルル、なんで棒読みなの!?」
というか、この辺はさらっと流して欲しいんだけど。ここから怒濤の暴露大会を予定してたから、そっちが心配になって来たよ。
とりあえずみんなを座らせて、クロスケは私の足元に丸まってるけど、シルキーが淹れてくれたお茶で一息つく。
さて、まずは軽めのからにしようかな。
「クロスケ、ちょっとそこでお座りして」
「ワフッ」
ルルとディーから見えやすい位置に移動してもらい、クロスケの毛色変化の発動を止めた。
あっという間にクロスケに金色の毛並みが戻り、ウィナーウルフと呼ぶにふさわしい威厳が復活する。
「うんうん、やっぱりカッコいいね!」
ルルは一度見たことがあるので問題なし。っていうか、私だってこの姿で連れて歩きたいけどね!
ディーは……ん?
急に立ち上がったかと思うと、クロスケの前で跪いた。すると、クロスケが右前足をディーの肩にぽんと……ってそれ思い出すからやめて?
ルルは完全にツボだったからか、吹き出し笑いを堪えている。
「ねぇ、ディー、何してるの?」
「あ、そ、そうか、ミシャやルルは知らないか。ウィナーウルフは森のエルフからは神の使いとして崇められる存在なんだ。この行為は当然だ。いや、むしろ今までを考えると土下座したいくらいなのだが……」
「神の使いって。何か言い伝えでもあるの?」
「そもそも、ウィナーウルフという名は我らエルフの侵略者との戦いを常に勝利に導いたことからつけられた名前なのだが」
「「えっ?」」
ルルと揃って驚いてしまった。この館にあった図鑑にはそんなこと全然書いてなかったんだけど。
いや、でも、ディーの話の方が真実味があるかな。元々森に住んでるらしいし、貴族が勝手にいい話風に盛ったってほうがありそうだ。
「ま、まあ、ともかく、クロスケにそんなに畏まらなくてもいいからね?」
「ワフッ」
「はっ」
一礼して席に戻ってくるディーだけど、すでにその態度がいろいろおかしいから!
ルルはルルでそのやりとりがまたツボったのかお腹抱えて悶絶中だし。
「はあ、クロスケでそれだけ驚かれると次が不安なんだけど……」
「ははっ、これ以上は驚かないぞ」
「ボクももう笑……驚き疲れてて、これ以上は体力残ってないよ」
ホントだね? ホントにホントだね?
じゃ、解きましょう、私に掛けられた地味化の魔法を!
***
「もう驚かないって言ってなかったっけ?」
完全にグッタリしている二人からの返事はない。
「むー、やっぱりこの髪は馴染まないなー」
ふわふわ金髪ウェーブヘアー。可愛いけど自分じゃない感が半端ない。自分のことなのにウィッグ付けてるのでは?って思えてくるぐらい。
「ミシャ様、お調べするものがあるとのことでしたが?」
「あ、そうだった。二人が復活するまでちょっと書庫に行ってるね」
席を立つ時にシルキーにこっそりと伝えておく。彼女たちが落ち着いたら、私のことについて質問してもらって、素直に答えてあげて欲しい、と。
これ以上は本人の口から聞くより、シルキーから聞くぐらいのほうがショックも少ないだろう。というか、私が驚かれ疲れしてきたよ……
「えーっと、魔素についての本、身体強化の魔法の本、あと何だっけ……。まあ、並んでる背表紙見てるうちに思い出すかな」
つらつらと本棚を眺めていくと、目的だった二つはすぐに見つかったので確保。あと何だったかな。いや、とりあえず先の二冊のどっちかを……
「魔素本が先かな」
まずは目次を確認。中盤までの基本的なことは飛ばして……あった『魔素同士の干渉』ここからかな。えーっと……
………
……
…
やっぱり魔素同士の干渉については予想通り。いわゆる『魔法障壁』の実現はちょっと考え方を変えないとかな。
魔素の本を本棚に戻すとき、ふと視界の片隅に目に入った本があった。あ、そうだ、これこれ。魔導具の本。ダンジョンにあったあの扉について何かわかればいいんだけど……
ぱらぱらとめくっていくと序盤は生活に役立つ魔導具、着火道具なんかが書かれていて面白い。そういえばこういうの街で見なかったけど、ひょっとして高価な物なんだろうか。
「魔法付与の成功率がすごい低いから高価になっちゃってるのかな」
そもそもなんであんなに付与が失敗するのか。それは簡単で正確に魔法を構築できないからなんだけど、それだけならもっと『正確に魔法を構築できる人』が多くてもいいはず。
ナーシャさんなんかは経験でそれをカバーしてるようだしやっぱり……
「もともと微妙に間違えた魔法を教えられてる? いや、それは悪く考えすぎかな。情報が経年劣化していって歪んでいったって考えた方が自然かも」
でも、これはロゼお姉様に聞くしかないかな。
「ミシャ様、お二人とも落ち着かれたようですし、一息入れてはいかがですか?」
「あ、うん、ありがと。戻るよ」
身体強化の本だけを持って書庫を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます