第26話 報・連・相はしっかりと
「って感じで最後のでっかいスケルトンも倒して大勝利だったよ!」
ルルがニッコリ笑ってVサイン。Vサインってこっちでも共通なの?
「はあ、良かったわい。マルリーやダッツがついてるとはいえ、心配したんじゃぞ……」
「はっ、あんたは心配しすぎだよ。いい加減、孫離れしな。で、その後に何かあったんだろ。ミシャ、さっさと言いな」
過保護な領主様をバッサリと切ったナーシャさんが問題の核心をついてくる。話すつもりだったから別にいいけど……
「えーっと、じゃあ話しますけど、とりあえず最後まで質問は無しでお願いします。正直、私もよくわかってないことが結構あるので」
私はそう前置いてから話し始めた。
………
……
…
アンデッドがいる部屋の奥にダンジョンコアのある部屋があること。そこに『なぜか』私だけが入れたこと。ダンジョンコアと対面し、意思疎通ができたこと。
ダンジョンコアが発生したのは二百二十年ほど前で、地上に発生する魔物やアンデッドを回収・隔離するため。だが、二度目の『不死者の氾濫』が起きた時、隔離していたアンデッドたちが一斉に外に出てしまったこと。
その後、第十階層と第九階層に扉が設置されたんだけど、それを設置したのがロゼお姉様だということ。
それにより三度目の『不死者の氾濫』でアンデッドが外に出ることはなくなったが、そのせいで新たにアンデッドを隔離しておくスペースがなくなったこと。
今日の討伐で既に隔離済みだったアンデッドに加え、回収できていなかった地上にいたアンデッドも全て駆逐されたであろうこと。
うーん、こんなところかな。
「以上、ですかね。何か質問あります?」
ざっと見回すと……。あれ? 思ったよりみんな落ち着いてるな。
「じゃ、あたしから。ミシャ、なぜあんただけが入れたのか理由はわかるのかい?」
「それはなんとも。ロゼお姉様の弟子だから、ですかね……」
ナーシャさんからのこの質問は完全に想定していたものなので、全部ロゼお姉様のせいにしてごまかす。というか、困ったらロゼお姉様のせいにすればいい気がしてるんだよね。
「では、街の東側のアンデッドに関しては脅威は去ったと考えて良いのか?」
「ダンジョンコアの言うことを信じるならそうなるかと。一応、定期調査は半年ほど続行することをお勧めします。あと、今後も地上から回収されたアンデッドが第十階層に沸くはずなので、それも確認が必要だと思います」
「そうじゃな。それはさっそくやらせることにしよう」
目で合図されたミュイさんが頷いている。うちのギルドにも依頼として来るなら受けたいところ。もう一度、あのダンジョンコアとは話しておきたいし。
「では、私からー。今回の一連の騒動ってどこからどこまでロゼ様の仕込みだったんでしょー?」
あー、マルリーさんも気付いてたのね。私がこの街に来る前に会ったって言ってたしね。
「うーん、仕込みっていうほどではないと思います。というか、第九・第十階層の魔導扉については『不死者の氾濫』が外に出ないための一時凌ぎだったのかなと。そうですよね、領主様、ナーシャさん?」
「……あたしたちが扉のこと知ってたってのかい?」
「ダンジョンコアにあの扉が設置された時のことを教えてもらいましたし、それに、どちらの扉にもロッソさんの銘が入ってましたよ。ロッソさん的には見えない位置に入れたつもりなんでしょうけど」
それを聞いて頭を抱える領主様とナーシャさん。
「じーちゃんたち知ってたんだ……」
「知ってたっていうか、ロゼお姉様に押し切られたんだと思うよ。今は危ないから閉じるけど、対処できそうになったら開けるからって」
「はあ、その通りだよ……」
多分、ロゼお姉様のことだから、そうは言ったものの放置してたんだろうなー。
「でも、設置された後も閉まったままずーっと放置されてて、しかも、最近は街の東側に出るアンデッドも増えてどうしたものかって状況だったと思うんだよね。
それが急変したのが約一ヶ月前ぐらい。多分、ロゼお姉様が私を送り出した後に、第九階層の隠し扉を開けたんじゃないかな」
「それをダッツ殿たちが見つけたと?」
「だね。で、第九階層の扉が空いて『ダンジョンにいるアンデッドに対処できる』んだろうと判断した領主様はさっそく『第十階層の踏破、第十一回階層の発見』って依頼を出した。
正直、そのままダッツさんたちが受けてれば、あのオーガロードだって倒せたと思うんだけど、実際そこに行ったのは……」
「もう、勘弁して欲しいんだが」
あ、ディー、ごめん。そんな泣きそうな顔しないで……
「しかも、オーガロードを倒したのはルルと私っていう、領主様にとってはとても困った状況になっちゃったんだよね」
「なんで、ボクとミシャだと困るの?」
「それはね。これが私たちのものになっちゃったから」
私はオーガロードを倒した時に手に入れた腕輪を取り出してテーブルに置いた。
「あー! これがないと第十階層の扉が開かないから?」
「正確にはこれに付与された魔法だけどね。ダッツさんたちは扉を開くことができないし、なんならルルが調子にのって私と二人で第十階層に行っちゃうんじゃないかってね」
「ボクそんなに単純だと思われてるの!?」
領主様が慌ててそっぽを向く。
「結局、私たちはマルリーさんもミュイさんも頼ることにしたから問題はなかったんだけどね。ただ、不思議なのはナーシャさんが私たちから腕輪を取り上げなかったことなんですが……」
「ふむ。まあ、ちょっと感情的になってたのもあるけどね。ロゼ様から『オーガロードを倒した者だけが扉を開けられる』って言われてたからだよ。あの時だって、腕輪をあんたたちが持ってるってわかっても取り上げる気はなかったさね」
「なるほど。っていうか、あのオーガロードってずっと閉じ込められてたんですね……」
そりゃ怒り狂うし、外に出たくもなるか。だいたい、どうやって生き続けてたのか気になるんだけど、ダンジョン的な何かなんだろうか。
「ひょっとして、あの倉庫整理の依頼も関係あるのか? 私たちに『不死者の氾濫』のことを伝えたかった?」
「ディー、鋭い。あれは領主様がアラフさんに頼んだ依頼なんですよね? 前回の『不死者の氾濫』の記録があの倉庫にあるはずだから整理して欲しいとか言って」
「そのとおりじゃ……」
「なるほどー。スッキリしましたー。私もロゼ様から『弟子が街に来るのでよろしく』とは聞いていましたがー、ダンジョンや『不死者の氾濫』も込みでよろしくということだったんですねー」
ほぼ全ての事象が繋がって、大筋でロゼお姉様の狙い通りに事が済んだ感じ。
しかし、ミュイさんが一点噛み合わない部分を突いてくれる。
「一つ疑問があります。王都から来た貴族の子息やディーさんは、ロゼ様からしても予想外だったということでしょうか?」
「だと思います。ダッツさんたちが第十階層の扉を突破し、やっぱり討伐隊が組まれて、私たちはサポートぐらいの立ち位置だったと思います」
今日の活躍を見てる感じだと、ダッツさんとマルリーさんがいれば何とかなったし、もっと早くに扉が開いてても良かった気はするんだよね。
とか考えてたんだけど。
「それは違うだろうね。ロゼ様はあんたがダンジョンのアンデッドを駆逐できる切り札だと考えたんだろうさ」
「そ、それはちょっと買いかぶり過ぎじゃ……」
「あんた、キメラスケルトンがファイヤブレス吐くのを未然に防いだだろ? あれがなかったら、とてもじゃないけど無理だったよ……」
あ、あれバレてたかー。確かにファイヤブレスをあのまま吐かれてたらちょっとやばかったかもしれない……
「あいつの骨を砕けたのもミシャのおかげだしね!」
「あー、うん、まあ、それなりにね……」
私は魔法付与を応用しただけ。適切な場所に当てたのはディーだし、止めを刺したのはルルなんだよね。
さて、だいたいみんな納得してくれた感じかな。お腹も空いたし、そろそろ終わりにして欲しいオーラを乗せた視線をマルリーさんに送る。
「ではー、報告は以上で終了でよろしいでしょうかー?」
「うむ。また何かあれば後日ということで今日はご苦労だった。夕食を準備させてあるので、良かったら食べて行ってくれ」
断る理由なんてなかった。
***
「はー、今日は疲れたー」
短杖を外してベッドにダイブする。
領主様のところでお腹いっぱいになったのもあって、帰りの馬車で既に眠気が大ピンチ状態。
あ、もうダメかも……
「ねえ、ミシャ。ちょっといいかな?」
向かいのベッドに座ったルルが私を天国から呼び戻す。
「んー、どうしたのー?」
「前も聞いたけど、ミシャはそのうちここを出て旅に出ちゃうんだよね?」
「うん、そのつもりー」
ゆっくりと起き上がって、向かい合うように座った。
ルルがいつになく神妙な顔をしててビックリする。
「あのね。できれば、旅に出るのはもうちょっと待って欲しいんだ。ボクがじーちゃんに許可をもらうまで。そしたら一緒に行けるから……」
ん? んん?
「えーっと……ごめんなさい」
「え……、ボクついてっちゃダメ?」
「ち、違う違う! 私、ここから出るときはルルもディーも一緒だと思ってたから、全然そんなこと考えてなかったなって。ごめんね、一緒に旅するんだと勝手に思ってた。だから、二人が一緒に行けるようになるまではこの街を出る気はないよ?」
「ミシャ!」
ルルのダイブがお腹に直撃する。
「ちょっ、ルル、苦しぃ……」
「クゥン……」
心配したクロスケがベッドに飛び乗ってくると、私のほっぺたをペロペロと舐め始めた。
「ありがとね、クロスケ。ほら、ルル、もうわかったから。それよりも領主様に許可をもらわないとだめなんでしょ?」
「うん、そうなんだよね。どうしたらいいと思う?」
「どうって……普通にお願いしてみたら?」
「それで許してもらえてたら、二年もこの街にいないよ……」
あらら。まあ、ルルは領主様の孫娘だし、わからなくもないんだけど……
「じゃ、外堀を埋めましょ。まずはナーシャさんかな。あとはマルリーさん、ダッツさんあたりも味方にしておきたいね」
「ふむふむ」
「あとはいきなり遠くに行くとか言わない方がいいかな。治安がいい地域に行く方が安心してくれるんじゃない?」
「なるほど。だとすると西側かな。そういえばミシャは行き先って決めてたりするの?」
「あ、うん、ロゼお姉様が大陸の西の端の国にいるらしいから、そこに行くつもりだったけどね」
あと東側はちょっとまずい気がするんだよね。私、いや、私の元の体は多分東側の貴族だったんだろうと思う。
この街に来て、普通の人は私が着ていたような立派な服を着てないのもわかったし……
もし、転生するまえの私が何かしら東側の国で追われる立場にあったんだとしたら、姿を変えてたとしても戻るべきじゃないよね。
「じゃ、三人で西側へ行こう!」
「ワフッ!」
「うんうん、クロスケも一緒だよ!」
そろそろ本当のことを話す時期なのかな。でも、その前に聞いておきたいことが……
「ねえ、ルル。聞いていいのかどうか悩んでるんだけどいい?」
「何を?」
「その……ルルのご両親って?」
「王都にいるよ?」
がっくり。もっと深刻な事情があるのかと思ってたけど。いや、国に対する人質なのか……
「王都で働いてるの?」
「うん。父さんは駐在官っていうのかな。兄さんはその補佐をしてるよ」
「へー、お兄さんいるんだ」
ルルはなんていうか一人っ子だと思ってたんだけどお兄さんがいたのか。まあ、甘やかされてそうな気はするけど。
「兄さんはナーシャおばちゃんの弟子だからミシャとも話があうかもね。あ、でも引き抜かれてたりしちゃダメだよ!?」
「ないない。まあ、最初は王都に行こうよ。ルルだって久しぶりに両親と会いたいでしょ?」
なんか二年はこの街に居たって言ってたし。
「うーん、まあ王都へは半年に一度は行ってるから気にしなくていいんだけど」
「え、そうなの? この街で二年とか言ってなかったっけ?」
「じーちゃんが王都に行く時に同行してるからね。それはこの街を出たのには数えないよ」
まあ、保護者同伴で護衛される側だもんね。
「あ、そうだ。ディーの弓を作ってくれる人のところに行かないと」
「そうだった! 明日、ディーにも話しようね?」
「そうだね。で、もう明日の報告はマルリーさんに全部やってもらおうよ。他の人に言えないようなことは全部話したし……」
「うん、ギルマスとしてもう少し働いてもらお!」
そんなことをキャイキャイ話していると、結局、いつもよりも遅い就寝時間になってしまってたのだった……
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