第25話 メンテナンスコンソール
『報告します。管理者権限アクセスを確認。言語コードjaを認識。パスワードを入力してください』
は?
『パスワード?』
『報告します。入力を確認。認証成功しました』
ちょ、待って。今、言語コードとか聞こえたんだけど?
『提案します。ログインしますか?』
……状況から考えると、この先に行けるってことになるんだろうけど、戻れるのかなこれ。
『質問なんだけど、この先に行ったとして戻れるの?』
『回答します。可能です』
なるほど。なら……、報告してからにしましょ。
「ルル、ちょっと行ってくる」
「え!?」
『ログイン』
掌にあった感触が消えてそのまま突き抜けた。それを確認して歩を進めると腕までスッと幻影の壁をすり抜けた。
「ミシャ! うわっ!!」
追いかけようとしたルルが壁に弾かれた。うん、そうなるよね。
「ルル、大丈夫だから少し待ってて。危なくなったら戻るから」
「う、うん……」
納得してくれたのを確認して一気に壁を潜り抜けた。
『ふーん、普通の通路とあんまり変わらないか。もっとこう急にSFチックな場所になってるかと思ってたんだけど』
『回答します。そのようなスキンも登録されておりますが変更しますか?』
思わずこぼれた独り言に回答されてしまった。っていうかスキン変更って言い方が既にこの世界のオーバーテクノロジーっぽいんだけど。
『変更はいらないよ。あなたはどこに?』
『回答します。そのまま進んだ前方になります』
進んだ先に鎮座していたのはバレーボール大の真っ白い球。いかにもという土台に据えられており、淡い光を放っている。
『さて、いろいろ聞きたいんだけど、まずあなたが何者か聞かせて』
『回答します。私は不良魔素回収用ダンジョン施設。管理番号C0276です』
『不良魔素回収用ダンジョン?』
『回答します。照射型魔素散布装置「明月」より散布される魔素には一定量の不良魔素が混入しており、地上にて動作中に不具合を起こします。その不良魔素を回収する設備です』
はー、魔素ってあの明るい方の月から降ってるんだ。だから月光浴するといいのか……
それにしても一定量の不良魔素って……ナノマシンに近いパターン?
というか……
『管理番号ってことは、あなたは誰かに管理されているの?』
『回答します。本来は私をこの地に設置したものが管理者となるべきかと思いますが、そのような設定は行われていません。よって、最初に管理者権限にてログインに成功したあなたが管理者となりました』
え、設置して放置したの?
っていうか、私が管理者に? は? はあ??
『ログインに成功したって言ったけど、パスワードあってたの?』
『回答します。合致していましたのでログインが行えました』
パスワードなんて言った覚えはないんだけど……
あ、あれかな『パスワード?』って思わず言ったやつ?
って何それ! パスワードが『パスワード』って工業出荷時設定のルーターか!
『はあ。だいたいわかったけど、言語コードjaって日本語ってことだよね。あなた日本語がわかるの?』
『回答します。言語コードjaは理解できますが日本および日本語という概念については該当する項目がありません』
な、なるほど……
『ここに設置された理由はわかる?』
『回答します。設置者が不明のため明確な理由も不明ですが、この階層の真上にあたる地表付近に不具合魔素による生命暴走体が多く発生する傾向があるためかと思われます』
『ふーむ。設置されたのは二百年ぐらい前って思ってるんだけど合ってる?』
『回答します。現在、稼働から二百二十年が経過しております』
うん、やっぱり最初の『不死者の氾濫』の後にできたっぽい。五十年+百年+七十年で二百二十年って感じかな。
そうだ、あれを聞いておかないと……
『この階層と一つ上の階層にあった魔導扉はあなたが設置したもの?』
『回答します。私が設置したものではありません』
『じゃ、いつ誰が?』
『回答します。この階層へと回収していた生命暴走体が不明な理由により地上へと逃亡してしまう現象が起きたことがありました。扉はその後に不明な人物により設置されました』
『……それって女性で魔術士じゃなかった?』
『回答します。その条件に合致します。映像として確認をしたい場合は私に手を置き、イメージを転送してください』
画像検索できるとか優秀。さっそく手を置いてロゼお姉様のイメージを思い出して魔素に乗せるように転送した。
『過去の記録映像から検索中です……』
『え、録画映像を二百二十年分保存してるの?』
『回答します。設備に変化があった部分の映像のみ保存対象です』
うかつに何か言うと反応しちゃうな……
『検索が完了しました。表示します』
ダンジョンコアの上にホログラムのように表示されるウィンドウに動画が流れ始めた。これ魔法なのかな。すごい便利なんだけど。
と、その動画によーく知っている人物が魔導扉を設置してるなー。
『うん、ロゼお姉様だね。相変わらず無茶苦茶だ……』
『提案します。危険人物として登録しますか?』
『ううん、問題ない人だから。この扉が設置されたせいでアンデッドが外に出なかったっていう認識であってる?』
『回答します。その認識であっています』
薄々そうなんじゃないかと思ってたけど、やっぱりロゼお姉様が絡んでたか。やっぱり二回目の氾濫でダンジョンから溢れたのを見て対策したのかな。
『他にも記録があれば再生して』
『了解しました。順次再生します』
ロゼお姉様が映っている動画を眺めてるんだけど、うーん、なるほどねー……
「ミシャ! 大丈夫なの!?」
「あ、うん、大丈夫だって! もう少ししたら戻るから!」
おっと、ちょっと急ごう。あと聞いておかないといけない事って……
『そこの部屋の坂になってる場所は魔法が付与されているようだけど、あれが地上にいるアンデッドを回収するの?』
『回答します。そのとおりです』
『今も稼働中?』
『回答します。稼働中です。現在は地上に対象が存在しませんが、階層に十分なスペースができたため、一時停止していた回収作業を再開しています』
『ということは、私たちが来る前はスペースが無くて一時停止してた? で、アンデッドが減った分、どんどん回収してた?』
『回答します。そのとおりです。一時停止していたことによる回収遅延も解消しました。ご協力感謝します』
『そういえば、途中にゴブリンとかオークとかオーガとか……それも回収してるの?』
『回答します。そのとおりです。各階層の部屋に大きくはないですが回収地点があります。そちらで回収しています』
『えーっと、あとは……今後も回収を続けてもらって問題無い?』
『回答します。問題ありません。元々そのために作られた施設です』
よしよしよし! これで街の東側はほぼ安全圏になるはず。
あとはもう無いかな。あ、そうそう、これだけはやっとかないと。
『必要なことは聞けたから帰るけど、その前にパスワード変更させて』
『了解しました。まず現在のパスワードを入力してください』
***
「ただいまー」
「ミシャ!」
壁を出たとたんにルルに抱きつかれた。
「もー、心配したんだから!」
「ワフ……」
クロスケにも心配そうな顔で見上げられてしまい、流石にちょっと悪いことしたかなって気になってくる。
「ごめんごめん」
ルルとクロスケの頭を撫ぜつつ謝る。ディーも心配そうな顔で近づいてきた。
「それでミシャ、どういうことだったんだ?」
「んー、なんていうかダンジョンコアと話してきた」
「はあっ!?」
「ダッツさんー、うるさいですよー」
いや、まあ驚かれるのはわかってたし、マルリーさん、そのツッコミはどうだろう。
「詳しいことは改めて時間があるときに話します。今日はとにかく片付けして帰りましょう」
「そうですねー。どうやら魔石なんかの回収も終わったようですしー、そろそろ撤収していいでしょうー」
ざっと見回すと魔石やスケルトンナイトの武具を回収しおえたようだ。ロッソさんがみなを集めて点呼をとっているようだし、ナーシャさんは……やっぱりあの坂に付与されてる魔法が気になるのか何か調べている。
「帰ろっか」
「そうだね!」
ロッソさんの方へ走っていくルルとディー、ダッツさんを見送り、私とマルリーさんはナーシャさんの方へ。
「ナーシャさん、そろそろ帰りましょう」
「ん、わかったよ」
「ミシャさんがまたとんでもないことをしたのでー、戻った後に時間が欲しいのですがー」
さらっと爆弾をぶち込まれたけど、ナーシャさんは今更みたいな顔をしてスルーした。
「戻ったら領主様のところに行くんだ。そこできっちり説明してもらうよ」
「アッハイ……」
まあ、全部説明するつもりだし、どっちかというと問い詰めたいのはこっち側かも。
「ミシャー!」
「はいはい」
土壁や石壁はダンジョンが処分してくれるようだけど木組みの足場はどうするんだろうと思ったら、全部解体して持ち帰るらしい。この場で焼却処分にでもするんだろうと思ってたんだけど、なかなかにマメだなー。
「じゃ、撤収ー!!」
私はもう一度だけダンジョンコアの扉を振り返り、その場を後にした。
***
昼の四の鐘が鳴る頃、討伐隊は街へと帰還した。
「とうちゃーく!」
「ルル、元気だねー」
私はもうクタクタだよ。でも、これからまだ報告に行かないとだよね。
「みなさんお疲れ様です。この様子ですと、討伐は無事終わったようですね」
帰還を聞きつけたのか商業ギルドの長、アラフさんが迎えてくれた。
「はいー。詳しい話は明日お話ししますがー、第十階層のアンデッドは全て倒しましたー」
「おお! 良かった。これで街の外も少しは安全になってくれるといいんですが」
「そうですねー」
で、この後どうするんだろうと思っていると、ダッツさんが近づいてくる。
「ルル嬢、俺はうちの連中を労う必要があるから後は任せたいんだが」
「いいけど、ダッツさんは報告行かないの?」
「あー……、ミュイがいるから任せるわ」
そう言いながら手をひらひらと振って覇権メンバーの方へと行ってしまう。無事に討伐達成ということで打ち上げにでもいくんだろう。
ちなみに今日の討伐依頼の報酬は前払い分が銀貨三枚あって皆が受け取り済み。さらに今日の結果からして後払い分も期待できるとあってみんな浮かれてる感じだなー。
「兄は放っておいて問題ありません。領主様に会うと『代行』でなくなってしまうのではと恐れているのですよ」
それもう諦めた方がいいんじゃないのかな。こっちの世界では選手兼監督ってのは無いんだろうか。
「あたしもついてくよ。あんたはみんなを連れてダッツたちと騒いできな」
「おうよ、行ってくるわ!」
ロッソさんも気楽な方がいいのかさっさとダッツさんたちの方へと行ってしまった。
「なあ、ルル、ミシャ。私はギルドに戻ろうと思うのだが」
「クゥン」
ディーとクロスケがそんなことを言って来たんだけど、私としてはお留守番してもらうつもりは全くない。また説明するの面倒だし……
「ダメー。一緒に行くからね!」
と私よりも先にルルが一蹴する。
「しかし、私がいても特に役に立たないと思うのだが……」
「あー、ディーはさ、そういう考え方が間違いだってわかって欲しい」
「え、そうなのか?」
「役に立つ立たないなんて、役に立つ瞬間が来るまでわからないんだよ。それに『知ってたら役に立てた』なんてことがあったら後悔するよ?」
「な、なるほど」
私はもう営業の『すいませーん。知りませんでしたー』とか『あー、会議来てもらえば良かったっすねー』とかは聞きたくないんだよ……
「うーん、ボクはそういう難しいことはよくわかんないけど、ディーだけ仲間はずれにしたくないかな!」
「あ、ああ、ありがとう。一緒に行こう」
ルルのピュア説得には勝てなかったよ……
「馬車が用意できましたのでお乗りください」
ミュイさんが御者。その隣にルルが座り、私、ディー、マルリーさん、ナーシャさんが馬車に乗り込んだ。クロスケは私の足元に伏せて大人しくなっている。
領主館まで歩きでもそんなにかからないし、馬車でもたいして時間は変わらないんだけど……やっぱり楽だなー、とまったりしていたんだけど。
「ミシャ、あんたが撃った火球。あれはどういうことなんだい?」
「え、えーっとあれは……火球を小さくすることで着弾時の爆発力を高めたってことです」
「小さくするとかい。わからないねぇ……」
んー、説明が難しいんだよなー。こっちの世界は魔法があるせいで物理とか化学の進歩が止まってしまってるっぽい。よくあるパターンなんだけどなんでそんなことになるんだろ。
「着きました」
馬車から降りるともう空に赤みが指し始めている。
「お腹すいた……」
思わずこぼれた独り言を聞いたルルがクスクスと笑いながら私の腕を引いていった……
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