第22話 無限ループをブレーク!
「む、曲がり角だね」
「わかった。クロスケお願い」
吠えずに頷いたクロスケが足音を立てずにするすると先へ進むと、身を低くして曲がった先、左側に顔を覗かせる。
「ワフ」
どうやら大丈夫そうなので全員で追いつくと、曲がった先に部屋への接続があるようだった。それはいいんだけど……
「ヤバい。すごい気持ち悪い気配する。これ昨日と同じ……」
「アンデッドか」
「気づかれたようですよー」
通路の先からスケルトンが現れる。現れる。……
「ちょ、数多いよ!」
まるで雪崩のように押し寄せるスケルトン。
「ミシャ、足止めを!」
《起動》《土壁》
急激に盛り上がる土が最前列にいたスケルトンをかち上げる。
手前に崩れ落ちたそいつらをマルリーさんとルルが駆逐してくれるが、土壁を乗り越えた後続がボロボロと落ちてくる。っていうか、壁が崩されちゃう!
「樹の精霊よ!」
と、ディーから放たれた精霊魔法が土壁に着弾。一瞬にして根が張られ、土壁を補強してくれた。
「ナイス!」
「ミシャ! あれにポーションをやれるか?」
「任せて!」
サイドポーチからポーション瓶を取り出して栓を抜き、中身を半分ほど魔素膜に包んだ。ついでに水増ししておこう。人相手じゃ無いんだし、希釈されるくらいでちょうどいいはず!
薄緑色の水球が土壁にぶつかってはぜた。
「ちょっ!」
一気に根が成長し、幹と枝まで生えて通路を覆う。うわー、ここまで効果出ると思わなかったなー(棒読み)
「……まったく、ミシャはいつも無茶苦茶だな!」
ディーの精霊魔法が再びコントロールを取り戻し、土壁を乗り越えたスケルトンを拘束しはじめた。
「ディーもそろそろ慣れないとダメだよっと!」
「ですねー」
ルルとマルリーさんがそんなことを言いながら骨を砕いていくんだけど。
…………
……
…
いっこうにスケルトンが減らない。
「まずいな。クロスケ、手伝ってあげて!」
「ワフッ!」
二人の間を滑り抜けたクロスケが拘束されて放置されているスケルトンを処して行くんだけど、それでも終わりが見えない。
「ミュイさん、ルルと交代してもらえますか?」
「ええ、了解しました」
「ボクはっ! まだっ! 大丈夫だよっ!」
「ダメだって! いったん下がって!」
そう言われてミュイさんと交代するルル。
「もう、大丈夫だって、言ってるのに」
「わかってるけど落ち着いて。誰かが行動不能になると一気に瓦解しかねないからね?」
真剣さが伝わったのか、肩で息をしつつも神妙な顔つきになるルル。
「水飲む?」
「ううん、大丈夫。ふう……。ミシャ、戦いはじめてからどれくらい経ったかな?」
「鐘一つは経ってないと思う。でも、もうすぐ昼の一の鐘が鳴る時間だね」
五十分ぐらいかな。正直、二人ともすごい持久力だと思うんだけど。
「昼の一の鐘が鳴ってもスケルトンが減らないようなら撤退かな」
「うん、そうだね」
冷静な判断ができるまで落ち着いたみたい。
「もう少し戦って変化がないようなら撤退します!」
「ですねー」
「賛成です」
「了解した」
戦闘自体は危なげないし、問題は相手が尽きないこと。正直、このまま勝ちきれないならいずれ負ける……
いい加減、倒したスケルトンの残骸が酷いことになってきてるし、これ消えたりしないのかな。ダンジョンってそういう機能があったりするもんじゃないの?
「よし! マルリーさん、変わるよ!」
「はいー、お願いしますねー」
大楯を振り抜いてスケルトンを弾き飛ばすと、マルリーさんは小走りで駆けつけてルルと交代した。
「はー、これは明日は筋肉痛ですねー」
「……ポーション飲んでおきます?」
「大丈夫ですよー。それよりもコレ、どういうことなんでしょうねー」
困った顔で前線を見やる。土壁を乗り越えてくるスケルトンは減る気配がない。
「ふと思ったんですけど、今ここって街から見てどのへんでしょう?」
「どういう意味ですー?」
「ひょっとして、ここって街の南東側、不死者の氾濫が起きた場所の真下なんじゃって……」
それを聞いたマルリーさんの目がくわっと開いて逆にこっちがびっくりさせられる。
「それですよー! それなら納得できますー!」
「だとすると、ここの五人で対処しきるのは……」
「無理ですねー」
図ったように腕時計が振動し、昼の一の鐘を知らせてくれた。
「ルル、ディー、クロスケ、ミュイさん、撤退しましょう!」
「了解だよ!」
「わかったがどうするんだ?」
うん、ごもっとも。
「天井まで土壁盛るから補強お願い」
そう返しつつ土壁を今の壁に盛る。何度も乗り越えられて脆くなっている部分の補強も必要かな、これは。
ディーが新しくできた部分に樹の根を植えてくれたので、こちらももう一度ポーションを散布。前回よりも希釈度を上げよう……
「敵が途切れたら撤退に移りますよー」
前線に取り残されたスケルトンは手際良く片付けられたが、向こう側から土壁を壊そうとする音が響いてくる。
「よし、撤退だよ!」
来た道を戻って魔導具扉の部屋に駆け込む。
ルル、ディー、クロスケ、マルリーさん、ミュイさん。全員揃ってるね。
「閉めます」
私は返事を待たずに魔法を発動させ、扉をきっちりと閉めた。もちろん鍵付きで。
「さすがに疲れたな」
ディーがぺたんと座り込む。ずっと精霊魔法を操っていたから相当大変だったんだろう。
「大丈夫? 魔素不足になってたりしない?」
「ああ、魔素は大丈夫だ。精霊魔法は一度発動すれば魔素効率はかなりいいからな。ただ、集中力を維持するのは大変だった」
ある程度の命令を出せば、それを実行してくれるとはいえ、乗り越えてくるスケルトンを随時指示していたようだし、それが一時間近く続いたもんね……
「さて、戻りましょうかー」
「あ、ちょっと待って。ミシャとマルリーさんが『不死者の氾濫』のことを話してたみたいだけど、さっきのってそういうこと?」
「うん、それね。この先の部屋の真上が『不死者の氾濫』が起こる場所なんじゃないかって話」
「その可能性は高そうですね。このダンジョンはだいたい東北東方向に階層が深くなっていっているので、第十階層の真上は街の南東あたりになるでしょう」
ミュイさんが賛成してくれるなら間違いはなさそう。
「そうだとすると百や二百じゃ済まない数が出てきてもおかしくないよ。それにスケルトンだけだったから良かったけど、もっと強いのが出てくる可能性もあったし……」
「それについては戻って調べ直しですねー」
「っていうか、ボクたちだけじゃ無理だね。じーちゃんに話して討伐隊を組織してもらった方がいいのかな」
「そうだな。加えて教会から神官にも来てもらえれば、もっと安全に戦えるだろう」
そうそう、それだ。あるのかどうか知らないけどターンアンデッドしてもらえればすぐだ。
「オッケー、とにかく急いで戻ろ。で、ダンジョン出たらミュイ姉だけ先に走ってもらっていい?」
「ええ、なるべく早く報告したほうがいいでしょう」
方針が決まり、私たちは急いでダンジョンから脱出するのだった……
***
「ふー、陽の光を浴びると戻ってきたって感じがしますねー」
ほぼ駆け足で地上に戻ってきた。疲れた……
敵はいないはずというのもあって、クロスケに先導してもらい、最後尾はミュイさんに。
ルルとディーは結構余裕がある感じだったけど、私とマルリーさんにはキツかった。いや、マルリーさんも鎧がなければ平気だったのかもしれない。息が上がってたのもうなおってるし。
けど、私はただの十八歳小娘! 一時間近く駆け足とか……。いや、三十路のまま転生でなくて良かったと思うべきかな。
「ミュイ姉。悪いけどお願い」
「了解です。それでは失礼します」
全速力で走り去ったミュイさんを見送る。あのペースで街まで行くの?
「さてー、私たちは普通に帰りましょうかー。途中で乗合馬車を拾えるといいんですけどー」
「だな。ミシャがキツそうだ」
「ごめん。もう少しだけ休ませて……」
足が痛いです。明日は絶対に筋肉痛だこれ……
「りょーかい! そうだ、ミシャ。昨日のクッキーまだ残ってないの?」
「あ、うん、あったと思う」
バックを漁って昨日の残りを袋ごとルルに渡した。
「ミシャもはい!」
「ありがと」
ひょいと出されたクッキーにそのままパク付く。
「ん、おいし……」
「私にも一つもらえるか」
「私もいたただきますー」
ディーもマルリーさんも座ってルルからクッキーを奪う。
「クロスケもはい!」
「ワフッ」
全員で一息つく感じになっちゃったけど……昼の二の鐘が鳴ったばかりだしいっか。
「結局、撤退しちゃったから任務は失敗かなー」
「いや、まだ未達成というだけで失敗ではないだろう。それに今回のことはかなり重大な問題なので、報告で多少の報償金が出てもいいぐらいじゃないか?」
「ですねー。ノティアの東に出現するアンデッドとここの関連性がわかればー、不死者の氾濫を未然に防げる可能性が出てきますからねー」
街の南東側にアンデッドが発生する場所があるとして、あの第十階層で発生してから真上の地上に運ばれてる? もしくは、地上で発生したのが第十階層に?
どっちにしても、この地下でアンデッドを一定数間引くことで『不死者の氾濫』が起きなくなるといいんだけど。
「ミシャ、そろそろ大丈夫?」
「うん、行ける。帰ろ」
ルルが立ち上がり、私の手を引いてくれる。
「ワフ」
クロスケが一声鳴いて歩き出すとみんなも立ち上がった。
「じゃ、出発!」
***
「ただいまー」
ギルドに戻ってこれたのは昼の三の鐘が鳴る少し前。途中で運良く乗合馬車が来てくれて助かった。あれが無かったらもっと時間がかかっていた気がする。
「はー、もう足が棒だよ」
私はフラフラとテーブルに。ルルも隣に座る。
「私は着替えてきますねー」
マルリーさんが二階へと上がる。
「マルリー殿、この前見せてもらった街の歴史書はまだ応接室に?」
「はいー、置いたままなのでー、皆さんで先に見ておいてくださいー」
ディーも二階へと上がっていった。
お茶でも入れて待つかな。茶葉はこれくらいかな……
《構築》《元素》《魔素膜》《水》《加熱》
「みんなの分のカップ持ってきたよ」
「うん、ありがと」
四人分のカップに注いでいくと、ふわっと心休まる香りが蒸気に包まれて広がる。
「いい香りだな」
歴史書を持ってきたディーが席につく。
「ミシャ、クッキー!」
「はいはい」
まだ一人一枚ぐらいずつあったかな……
「さて、ミシャ、どこから調べればいい?」
「数、かな。百体以上は倒したのに全然途切れなかったし、関連性が確かにあるとしたら……『不死者の氾濫』と同数はいるってことだよね」
「なるほど。撤退して正解だったな……」
ぶるっと身を震わせるディー。
「一日中戦っても終わらないのは無理だね……」
「で、あとは種類。今日はスケルトンしかいなかったけど、他にもアンデッドっているんだよね?」
思い出したのは倉庫の件。剣とか鎧とかあったよね、あれ。
「ふむ。有名どころならゾンビやゴーストだろうな」
「剣とか鎧とか着けてるのっているかな?」
「生きてる時に騎士だったりすると、身につけてるスケルトンはいるね。スケルトンナイトとか死霊騎士って言われてるよ」
生まれの差って……いや、死んでるよ。
「まず最初の『不死者の氾濫』にはその数もアンデッドの種類も書かれていないな。生存者がほぼいなかったからだろう。
二回目の『不死者の氾濫』では街の南東からアンデッド約三千体が襲来とある。加えて、あのダンジョンからは約二千体。アンデッドは主にスケルトンだったらしい。一部、武器と鎧を身につけていた個体があったとのことだ。
三回目、七十年ほど前も南東からアンデッド約三千体が襲来。アンデッドの種類は変わらず。だが、ダンジョンから出てきたという話はないな……」
「なるほど。じゃ、二回目と三回目の間にあの扉ができたと考えて良さそうかな」
あの第十階層にいたのは三回目で外に出られなかったアンデッドたちなんだろう……
「次の『不死者の氾濫』はまずいことになるかもしれないな」
「え、なんで?」
「あのダンジョンがアンデッドを二千体しか収容できないとしたら、前回の分で既にいっぱいになってるはずだ。我々が今日少し間引いたがな」
そうだね、百体分ぐらいスペースができたはずだね……
「え、だとしたら、次の『不死者の氾濫』は五千のアンデッドがくるかもってこと!?」
「そうなりますねー」
マルリーさんが二階から降りてきて席につくと、少し冷めたお茶を一気に飲み干した。
「まずいじゃん!」
「だからこそ、あのフロアのアンデッドは一掃しておきたいよね」
「ええ、そうしておきたいですね」
そう言いながらミュイさんが現れる。
「あ、ミュイ姉。おかえり!」
「ご苦労様ですー。で、領主様はどうされるつもりですー?」
「討伐隊を組織する考えのようです。明日、教会と各ギルドとで打ち合わせをすることになりましたので、それを伝えに来ました」
動き早いなー。流石は領主様……いや、ルルの家系だからかな。
「お昼くらいからですかー?」
「ええ、覇権ギルドの方で昼の一の鐘が鳴ったら始めたいとのことです」
「あのー、うちは全員で?」
会議はあんまり好きじゃないから、できればマルリーさんに任せてしまいたいんだけど。
「ミシャさんは出ないと、ナーシャさんから怒られるかと」
あー、そうだった……
「ではー、私とルルさんとミシャさんで出ましょうかー」
「オッケー!」
「はーい」
まあ、乗り掛かった船だし、最後までちゃんとやらなきゃね……
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